青春の陽炎
横尾茂明:作

■ 堕落6

 6階でエレベータが止まり、マサルは先生に促されて箱を降り煉瓦造りの廊下を歩いた。
20mほど歩いてドアの前に立った由紀は、バックから鍵を出しドアを開けた。

「さーマサル君入って」
由紀に背中を押されマサルは靴を脱いだ。
誰に言うわけではないが、マサルは
「お邪魔しまーす」
と奥に声を掛けた。
「いやだマサル君たら、先生は一人だよ」
と甘える声でマサルに微笑んだ。
マサルは廊下を歩き、一番奥のテラスに面したリビングに通された。

「マサル君お腹減ってるでしょう、先生もペコペコだよ」
マサルは言われて、そーいえば今夜は何も食べてないんだった! と急に空腹感がこみ上げてきた。

「マサル君、先生が美味しいものすぐに作るから、シャワーでも浴びてて」
「………」
マサルはどうしたものやらと考えてしまった…。先生は一体何を考えているのやら。
10時過ぎに生徒を家に招き、シャワーを浴びろとは…。確かに今日は異常な状態だったけど、えーいままよ! 考えても仕方がない…。なるようになるさ…。マサルは一人ごちてバスルームに向かった。

 バスルームを入った片隅に洗濯機が有った、マサルはGパンを脱ぎながら見るとはなしに蓋の開いた洗濯機の中を覗いた。
洗濯機の中には先生の脱水済みの下着が有った。昨日までならそれはマサルにとって宝物で有ったろうが…、今のマサルには女性の下着としか写らなかった。
それほどまでに今夜の先生の全裸の記憶は、衝撃的なもので有っのだ。

 マサルはトランクスを脱ぐ際、股間辺りが少し濡れているのに気がついた……。
あのまま先生の弱みにつけ込めば…、多分先生は体を開いただろうとマサルは思った。
しかしあの時の惨めさは一体何処から来たんだろう……。今の先生の屈託の無い振る舞いを見たら…。
いつもと同じ先生で有ったなら、マサルはあの状況下で今日のような紳士的振る舞いは絶対出来なかっただろう…。あの時の先生は情けな過ぎたのだ……。

 マサルはシャワーを浴びながら、今夜はこれからどうなるんだろう…と考えた。
この後に及んで、先生の弱みにつけ込んで抱くほどの勇気は自分には無い。さりとてこのまま食事をして帰るには、何かすごく損をしたような気もする……。

 先生の全裸を見た…。敏夫との倒錯した淫靡な関係を知った…。敏夫の事だから先生との痴態の限りを撮った写真で、今までの関係を強要し続けたはず…。先生はこのまま口を拭って日常に戻れるとは思ってはいないだろう…。だから今夜も自分をすぐに帰さずマンションに呼び食事を振る舞おうとしている…。必ず自分に何らかのアプローチをとってくるはず……。まさるは一気にここまで考えた。

 さて今後どう進展するか…。マサルは傍観者の感覚で、先生のこれからの行動を観察してみようと結論付けた。

 マサルはシャワーを浴び体をバスタオルで拭いた…。しかし濡れたトランクスを履く気にはなれずバスタオルを腰に巻いて、どうしようかと思案した。…洗濯機の上には乾燥機が有る。
マサルはもう一度シャワーを出し、トランクスを簡単に手で洗った。そして洗濯機の中の先生の下着と共に乾燥機に放り込んだ。乾燥機はマサルの家に有るのとは違うが操作は分かった。

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