青春の陽炎
横尾茂明:作

■ 堕落7

 マサルはTシャツの上からジャケットを着、下はバスタオルのままGパンを持ってリビングに戻った。
マサルは自分の今の姿は奇異であり、何故Gパンを履かないのと言われた時、…先生の裸を見てパンツが濡れましたからと言える図太さは無い…。では何故か…。マサルは本能的に何かを期待したのだろう…。だが今のマサルの能力では、自己の心理の洞察など出来るわけもなく…、惨めな格好を別に奇異とは全く考えなかったのである。

「マサル君! なーにその格好は」
由紀はくすくす笑いながら料理の手を止めなかった。
「もうすぐ出来るから、テレビでも見てて」
 マサルはソファーの上の週刊誌を取って読み始めた…。だが目には何も映ってはいなかった。

「マサル君、出来たからこちらにいらっしゃい」

 マサルはキッチンで微笑む先生を見、照れたように笑い返しキッチンのテーブルについた。
料理は、マサルが食べたことのないパスタの一種であった。すごく旨かった。だから3分
もかからず平らげてしまった。

「マサル君! よっぽどお腹が空いてたのね」
「じゃー先生の残りだけど…、食べて頂戴」
由紀は皿をマサルに渡し、
「先生もシャワー浴びてくるから、今度はよく味わって食べてネ」

 マサルは由紀から皿を受け取ると、またもやガツガツ食べ始めた。
「もーマサル君たらー」
「まるで欠食児童みたいね」
と微笑みながらバスルームに消えた。

 マサルは、フー食ったーと独り言を言いながら、
(先生はシャワーを浴びに行った)
これは何を意味するのだろうと考えた。
食事が終わったタイミングで、
「さーマサル君、もう遅いから帰りなさい」
と言うと思ったのだが……。

 マサルは食器を流し台に運びながら、隣のバスルームの音を聞いた…。微かでは有るがシャワーの音に混じって先生の啜り泣きが聞こえた……。

(先程まで……笑顔でいた先生が…)

先程まで明るく振る舞っていた先生の心の深淵を考えるとマサルはやるせない思いであった。

「あースッキリした。あっ! マサル君、食器片づけてくれたんだ。ありがとう」

 由紀はバスタオルでの端で髪を拭きながらキッチンに現れた。
髪を拭くたびにタオルが持ち上がり由紀の美しく上気した太モモが露わになった。

「マサル君、後片付けは先生が明朝するからチョットお話しない?」
由紀はマサルの手を引きダイニングに誘った。

 ソファーに座り、マサルをとなりに座らせた。
由紀は一旦考え…、躊躇していたが…、思い切った顔になり…語り始めた。

「マサル君、今日はいろいろとありがとう…ショックだった?」
「先生も……、マサル君に死ぬほど恥ずかしいところを見られ……、いま君に顔を見られるのも恥ずかしいの」
「マサル君…、先生の力になってくれる?」

 由紀は一気にここまで喋り、マサルの両手を握り潤んだ目でマサルを凝視した。

「先生、俺……、何をしたら……?」

 由紀は一瞬の沈黙をおいて、そして自分の心をさらけ出すように…また語り始めた。

「先程…、マサル君が言ってくれた……敏夫には絶対先生に手を出さなせから…、あの言葉…、信じていいの?」
「それと………、敏夫君に…、先生…、写真を沢山撮られたの……。死ぬほど恥ずかしい写真を……」
「それを……、何とか取り返して欲しいの」

 先生の目から堰を切ったように大粒の涙が滴り落ち、由紀はマサルの顔が凝視出来なくなり…マサルの胸に顔を埋めて泣きだした。

 マサルは由紀の首に手を廻し、抱きしめながら…
「分かった! 先生分かりました」
と…、静かに応えた。

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