青春の陽炎
横尾茂明:作

■ 恥辱責め10

 由紀は一晩マサルに愛され…子供に返った…。マサルは思った…、敏夫がいかに陰惨な虐待を由紀に強いたかを…。きょう敏夫にきっぱりと先生から手を引けと言う意志をさらに固めた。



 マサルは敏夫のクラスに入口に立った。

 中を覗くと戸の陰にいた秀一が険悪な顔で、
「何だ!」
と凄んだ……。しかし相手がマサルと気付くと急に態度を変え、あっ…敏夫さんに何か用事ですかと愛想笑いをした。

「敏夫をチョット呼んでくれ!」
とぶっきらぼうにマサルは言った。

 秀一は奥に走り敏夫の所に行き、指でマサルの方を指し、二人でこちらを向いて何か喋っている。
敏夫は椅子から立ち上がり、こちらに歩いてきた。

「オー…、マサル…。何か機嫌が悪そうじゃねーか」
…(秀一が何か喋ったらしい)

 マサルは敏夫を少し睨み…、
「敏夫…、先生にはもーちょっかいは出すな!」

 マサルは一気に言ってから…敏夫の顔色が変わるのを恐れ…身構えた。

 しかし敏夫はニヤっと笑い…、
「どうだった先生の味は…。もうやったんだろ?」

 マサルは昨夜から正直迷っていた…。敏夫に言えば必ず2・3発は殴られる…。敏夫の凶暴さは誰よりもマサルは知っていたからだ。

 マサルは恐かった…。しかし先生を欲しいと思う気持ちは恐怖を凌駕していた。

 マサルは悩んだあげくどんなに殴られても敏夫に先生の事を諦めて貰おうと覚悟を決めこの教室に来たのである。

しかし敏夫を見たときは体がすくんだ。…精一杯の台詞が震えた。

「マサル…、由紀はお前にやるから…。元気出せや」
敏夫はマサルの肩を叩き窓際に誘った…。
「マサル…、昨日は精一杯気を利かしたつもりで帰らなかったが…、今度はちゃんと出来たのか」
「……うん」
マサルは結局兄に甘える様に頷いてしまった…。

「俺は由紀はもー飽きた。…それよりなー…いいのを見つけたんだ! 今度またやらせてやるから。楽しみにしとれや!…」

「あっ、それから由紀の写真のネガとビデオは俺のあの秘密の箱にしまってあるから、今日にでも来て勝手に持ってけ」
と言った。

 マサルは殴られるのを覚悟で敏夫に言ったが…、敏夫の余りにもあっさりした態度に拍子抜けし…呆然と廊下に立ちつくした。

 敏夫は教室の戸口に入りかけてこちらを振り向いた。

「マサルー…、お前もう試験なんだからなー…。余り夢中になるんじゃねーぞ」

 敏夫が戸口に消えてからもマサルは歓喜に打ち震え…しばらく動けずにいた。

 一時限目を告げる鐘の音で我に返り…、自分の教室にステップを踏むように走っていった。

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