可憐な蕾
横尾茂明:作

■ 捨てられた少女2

今田との付き合いは高校の時からだから…もう20年にもなる。
勉強は出来たがずる賢い性格で、剛史はこれまでにも何度も騙されてきた。
しかし同じ穴のムジナ…何故か憎めず今日までズルズル付き合ってきたのだが。

今田は25の時、亭主を交通事故で亡くした女と結婚した。
それも8才年上で連れ子付きの女とである。

「その若さで何でコブツキもらわにゃならんのよ」と呆れて聞いたとき。

「金以外に何があるよー、あの女…亭主の保険金で億近いい金を持ってんだぜ!」
狡猾顔でニヤけた今田の表情は今でも忘れない。

結婚後、今田は女の金で会社を立ち上げた。
初期は赤字続きで有ったが…すぐにバブルの波に乗り業績は急上昇していった。
そんなおり…女が癌で亡くなり、8歳になる女の子と金の全ては今田が握ることとなった。

そして1年後、今度は6才年下のキャバクラの女と再婚したが、因果応報と言うべきか、数年前…その女は会社の若い経理係と結託し会社の金を2億以上横領し闇に消えた。


「バカか!、何でオメーのガキを預からにゃならんのよ」
「それより俺が貸した300万、どうしてくれんだよ!」

「分かってるよ! そのうちちゃんと返すから、なっ頼む、子供を預かってくれやー」
「いま…子供と来てんだ…」
今田は言ってから玄関を開け、外に向かって小声を発し手招きした。

半開きの玄関戸が開き…俯き加減の色白な少女が大きなな鞄を下げて入ってきた。

「この子だ、なっ可愛い子だろう、今年中学2年になったんだぜ」
「なっ、頼む! …このとおりだ」

今田は両手を合わせて剛史を拝む…
この仕草に今までどれほど騙されたか。

「さー、お前からもオジサンにお願いしろよ」
今田は少女を肘で突っつく。

少女はずーっと俯いたままであったが…この時初めて顔を上げて剛史を見つめた。

剛史はドキッとする、その少女が放つ光と可憐さは尋常ではなかったからだ…。
しばし呆然と見とれ我に返る。

その表情を今田は見逃さない。
「なっ可愛いだろ」
「少しの間でいいんだ…」
「落ち着く先が決まったらすぐに呼び寄せるから…なっ頼む、頼むー」

「んー…少しの間って…どれくらいだ?」
今田はこの言葉で得たりとばかりに。

「そーだなー…半年…いや1年くらい…かな」

「テメー…1年なんて馬鹿なこと言ってんじゃねーぞ!」

「あ…いや1年以内って意味で…うまくいけば1週間ってこともあるんだよー…」

「たのむ! なっ…頼んだよ…じゃぁこれで、奴らに追いつかれないうちに俺は…」
「明日電話するから…なっ、頼む頼む」

「沙也加…必ず迎えにくるからな…その間はこのオジサンに可愛がってもらうんだぞ、いいな!」
今田は少女に言いながら剛史を見て一瞬奇妙な顔で笑った。

その笑いの意味を反射的に理解した刹那、今田は玄関を開け脱兎の如く飛び出していった。

剛史は呆然と佇む。
(あの野郎…まだ預かるとも何とも言ってねーのに…)

目は自然と少女の表情に向けられる。
長い睫が震え寂しげに佇む少女、その愛くるしいほどの可憐さは剛史が初めて経験するロリータと形容すべき透明感を漂わせる美しい少女であった。

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