可憐な蕾
横尾茂明:作
■ 夏の盛り8
「一人は石田徹…後の二人は…わかりません…」
「3人に突っ込まれたんか!」
「い…いえ…1人…1人だけです…」
掴まれた髪から手が離れた。
剛史は放心したようにソファーに身を預けた。
大事にしていた宝を盗まれた感覚に似ている。
少女をどんなに殴ってもこの怒りは収まらないとも感じた。
(犯された…俺の沙也加が犯された…クソー)
(どうしてくれようか…)
目の前で少女はさめざめと泣いている…。
オモチャ扱いしていた少女の重さをこの時初めて知った。
胸が痛烈に痛み出した…。
一ヶ月の肉体の交わり…知らぬ間に少女の存在は剛史の心の奥底まで染みこんでいたのだ。
「犯されたくらいで泣くな!」
と言ってみたが…自分が泣きたい思いだった。
可憐なペットが知らぬ男のペニスで汚された…あのウブで可愛げなオ○ンコに見知らぬ男が精液を注ぎ込んだ…その思いは頭の血管が張り裂けるほどの怒りを生んだ。
(落ち着け…そう落ち着くんだ…)
(この俺が…何をじたばたとみっともない)
(考えろ…考えるんだ…)
沈黙が夕方のしじまを凍らせていく。
外は闇に沈みはじめていた…。
微かに少女の鼻を啜る音だけが流れていた。
「沙也加! 今から病院に行くから用意しろ!」
「あぁぁ…イヤです…お父さんそんな恥ずかしいこと…」
「やかましい、きさま病院では処女でしたと言うんだ!」
「こうなったら診断書をとって、お前を犯したガキの親から金をしこたまふんだくってやるぜ!」
「クソー…しかしそんなもんじゃ腹はおさまらん…」
「クソガキ…どうしてくれようか…」
またもや怒りに体が震え始める。
剛史は少女の手を引いて駅前の産婦人科の前までやってきた。
「クソー…もう終わりかい、まだ七時半つーのに!」
「お前はここで待ってろ」
言うと剛史は医院の裏手に走っていった。
しばらくすると医院の玄関に明かりがつき、裏より剛史が戻ってきた。
「事情を話したら診てくれるとよ」
玄関に看護婦が現れ扉を開けた。
二人は中に通される、剛史は暗い待合室で待てと言われ少女だけが処置室に連れて行かれた。
(一体どんなガキが沙也加を犯したんだ)
(中学3年とかいってたなー…ガキのくせしやがって)
(俺の沙也加に手を出すとは…)
(クソー…ただじゃおかねーから…!)
40分ほどで少女は待合室に戻ってきた。
顔色は真っ青で…貧血を起こしたようである。
「診察…痛かったのか…」
「ううん…恥ずかしくて…みじめで…」
いいながら少女は再び泣き始め、剛史の体にすがりついた。
少女は何故泣けるのかは分からなかったが…。
しばらくして若い医者と看護婦がやってきた。
二人は沈鬱な顔で少女の方を見…剛史に同情するように小声で話しかけた。
「お嬢さん…本当にかわいそうなことで…」
「処女膜裂傷です…」
「お嬢さん…ちょうど生理でしたので裂傷血か月経血かの判定は難しいのですが…」
「まず妊娠の危惧は有りませんから…それだけでも不幸中の幸いでしたね」
「膣洗浄はしましたが病気のコトが心配です…」
「とりあえず抗生物質を打っておきましたが、明日またお嬢さんをよこして下さい、消毒と抗生物質の投与を行いますから」
「診断書を書きますから…しばらくここでお待ち下さい」
言うと医師だけが奥に消え、看護婦が残った。
看護婦は少女をいたわるように肩を抱き、剛史に向かって。「許せませんね! こんな可愛い子に…」と言った。
そして…
「どうされます…精液は少しですが採取しました」
「警察に行かれますか」と聞く。
「いや…少し考えてみます」
「そうですか…」
看護婦は肩を落とし少女を見つめた。
剛史と少女は医院を出た、湿った夏風が乾いた心に吹き込んでくる…。
二人は雨の気配を感じ、家路への足並みは自然と早くなっていった。
知らぬ間に少女の肩を抱いている自分に剛史は気付く。
急に少女を愛しいと感じた。
今までは…その幼い体に性の慰みしか求めなかったのに。
ふと訪れた心の違和感に、剛史はとまどうように少女の肩をさらに強く引き寄せた。
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