家畜な日々
非現実:作

■ 〜追記〜1

私は1人、夜の繁華街を歩いていた。
勿論、こんな場所に足を踏み入れるのは初めてだ。
左右見渡せば、如何わしいネオンの看板が至る所。
意を決してはいたが…… ……
ドラマや映画等に出てくるような、派手で如何わしい繁華街に圧倒される。

目的の場所は解っていた。
でも足がすくんで、歩みは遅々と進まない。
酔っ払いの3人連れが、私を好奇な目で追う。
まるで舐め回すような、気持ち悪い視線。
(何ナノ?、気持ち悪い……)
私は軽く睨んですれ違う。
後ろで卑下た言葉を吐いて捨てているが、無視無視。

暫くそんな事が続き、目的の場所が見えた。
小さくて、申し訳なさそうな感じで立っている看板を見る。
ここを知らない限り、見過ごしてしまう位目立たない看板だった。
(行こう……)
躊躇うと先へは進めない。


私は、雑居ビルへと足を踏み入れた。


「それでも、200万は法外だと思いますっ!!」
「示談とせがったのは、貴女でしょう?」

さっきも言った言葉が、交わされる。
裸電球にガラス造りのテーブル、本皮のソファーしかない一室の中。
テーブルには、Tカップ2つとポット。
他は何もない、暗い部屋。

私は、大野健三と向かい合っていた。
48歳の大野健三は、かなり落ち着いた雰囲気。
その落ち着き方が苛々させる。

「普通のOLが、そんなお金払えませんって!」
「私は別に警察沙汰でもかまわないのですよ?」
「悪いのは確かに私です、でもっ……!!」


一昨日の夜。
車を運転していた私は不注意を犯し、歩いていた大野の右腕に接触てしまった。
気が動転していた私は、必死に何度も誤った。
若いのだから警察沙汰でなく、示談でと言ってくれた時は本当に感謝した。

2日後、病院に行ったと連絡してきた大野健三は、話合いの場にここを指定してきた。
全治3ヶ月、骨折。
右腕を包帯でグルグル巻にし、私を迎えた。
こんな場所を指定してきた時点で、嫌な予感はしていた。


「せめて……せめて100万にっ!」
「困りましたねぇ」

腕を組む大野に、深々と私は頭を下げる。
だが大野は、呑むつもりゼロのようだ。
吹っかけられた、騙されたと知る。
でも相手を怒らせて示談が破棄されるのは、もっとまずい事になる。
立場上は何も云えないが、200万の大金あるはず無い。

「それでしたら、分納に」
「ほぅ、新しい提案ですねぇ」
「はいっ、少しずつお返しさせてくださいっ!」
「それも難しいなぁ」

裸電球に視線を逸らして、一蹴された。
(この人、相当の悪だったんだ)
頭を下げたまま、唇を噛み締める。

「私、地方で酪農をやっているんですよ」
「は……い?」

その話にどんな繋がりなのか見えず、思わず妙な声で応えてしまった。

「小さいから、従業員も私1人なんですよ」
「はい」
「由紀さんから頂いたお金で、代わりの従業員を雇わなくてはならない」

嘘か真かは解らないが、話は見えた。

「よく解りますが……一気にそんな金額は」
「私も自営なのでね、滞ると困るのですよねぇ」

悪いのは私というのは間違いないが、金額は承諾する訳にはいかない。

「やはり、弁護士を立ててから……」
「ふむ、ちょっと休憩しましょう」

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