家畜な日々
非現実:作

■ 〜刺青〜6

その日から特別に、地下室のベッドを宛がわれた。
ベッドの丁度真ん中、私は毎日同じ場所で寝転んでいた。
…… ……気力が出ない。
そんな私に三日三晩ご主人様は隣に付き添ってくれており、色々な世話をしてくれた。
食事も下の世話も、全てご主人様がしてくれた。
とにかくもう全身が気だるく、何もする気になれない。
どうやら薬が効いているせいだという。
次の日の朝、繭様と一緒に帰ってきたユウジ様の診断曰く、余程強い薬らしい。
だが薬が切れると痒みで眠れなくなってしまう。
薬の効力を借りて眠っている方が楽だった。



そして3日目、運命の3日目。
私達は佐治さんの家へと足を踏み入れていた。
無論大量浣腸を施されて、全てをヒリ出した身体である。
この前と同様全身麻酔を施され、再び私はまな板の鯉。
グルグル巻きの包帯が解かれた。

「すっご〜〜い!!」
(なぁ…にっぃ、何なのぉ?)
「おお〜〜いいじゃねぇか、しっかりと馴染んでやがる」
「いやぁ〜、佐治さんの腕ですよ〜」
「くっくっく、褒めても何も出ねぇよ……。
だがな、こんな良い肌を彫ったのは久々だ。」
「変態で雌豚な肌だって〜♪」

繭様の言葉は全てを表している。
ご主人様もムネ様も、そして佐治さんの表情もご満悦なご様子だった。
そんな中、医者としてか旅行の日が近いせいか、ユウジ様が割って入った。

「如何ですか、経過の方は?」
「完璧じゃ、これなら仕上げが出来る」
「いよいよですねぇ〜」
「ちっと色遣いが多いからな、時間掛かる」
「ええ、お待ちしますよ」
「えっとなぁ」

勿論と即答したご主人様に待ったを掛けたのは佐治さんだった。
スキンヘッドの頭をボリボリと掻きながら続けざまに言う。

「悪いんだが、一度帰ってもらいてぇんだよな」
「えぇ?」

意外な言葉に一同が佐治さんを見ていた。
(そんな……ゃだぁ…)
動かない私の身体は、見えていないが確かに震えていた。
(ひとりにしないでぇぇ……お願ぃよぉ〜〜)
不思議なものだった。
ご主人様達から逃げたいと思っていた癖に、こんな時に頼れるのがその主様達だという。

「何ていうかな、その…周りに居られるとよぉ。
ちっと遣り辛いんだよ、悪いんだがよぉ」
「あ、ああ…そういう事ですか」
「短い時間なら良いんだがよ、これからやる作業は多分8時間は掛かる」
「そ、そんなにですか〜」

ムネ様が言いながら、ちらりとご主人様を盗み見ていた。
どうやら促しているらしい。
(ぁあぁ……お願いしますぅぅ…ぅ)
哀願を込めてご主人様を見つめるが…… ……。
答えは決まっていた。

「解りました、雌豚由紀をお願いします」
「悪ぃな……ワシもこの仕事に集中してぇんじゃ。
久々に遣り甲斐のある仕事なもんでな……。」
「いえ、いえいえ…そこまで言って頂けるなら喜んで退室しましょう」
「あぁ、極上のモンに仕上げてみせてやらぁに」
「はい、お願い致します」

ご主人様が深く頭を下げたのだった。
(はっぁ…うっぅ……ゃだ……ぁ)
早くも一筋の涙が零れ落ちた。
   ・
   ・
   ・
   ・
そして部屋には、私と佐治さんの2人。
無言で道具を消毒液に浸し続ける佐治さん。
…… ……怖い。
怖過ぎる。
全身が動かない状態で顔を上にしままだが、私の視線はチラチラと佐治さんの様子を伺っていた。

「そんなに恐れんじゃねぇって、お嬢ちゃんよぉ」
「ぇ…ぇ?」
「視線が感じるんだよ、その怯えた視線がなぁ」
「すぃま……せん」
「なにも取って食おうなんて思ってねぇから」
「は……ぃ」
「それにな、ワシのモノはもう使えねぇ」
「?」
「チ○ポだよっ、チ○ポ」
「あっ!」
「くっくっく、あんたのご主人に内緒でワシがナニしようと思ったか?」
「……ぃえ」

感覚の無い私だったが、顔が赤くなっている事であろう。
否応にも疼く身体。

「雌豚由紀……じゃったか?」
「はぃ」
「こんな時代にもまぁ、よくもこんな目にあったなぁ?」
「ぅ…ぅ」
「あんたは美人さんだ、こんなん思いもよらなかった事じゃろう?」
「は…ぃ」
「ワシが言うのもなんだがな?」
「ぇ?」

鉄砲のような器具の先端にニードルを嵌め込んで、視線は器具のまま、静かに佐治さんが言った。

「刺青入れたら、もう……諦めた方がいい」
「……っ!?」
「今から彫る刺青とは……そういうもんだ」

今日始めて、佐治さんと目が合った。

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