家畜な日々
非現実:作
■ 〜刺青〜7
長い時間が経過していた……。
全身をいいように動かされ、ひっくり返され……。
両足を佐治さん肩に乗せられ……。
私の身体を全て投げ出したのだった。
麻酔の効果は4時間前後だと聞かされている。
そして今日、既に2度の全体麻酔を施されていた。
まだ終わらない……の?。
私は苦悶の表情を続け作業に没頭する佐治さんを見つめていた。
もう…… ……怖くなかった。
スキンヘッドの老人は、怖くなんかない人。
佐治さんは職人。
渾身の力と気力を掛けて刺青を彫って「くれている」のだ。
私は身体を……投げ出したのではない、預けたのだった。
ゴトッ!!
佐治さんが機材を机に置いた。
水を飲む時もトイレに行く時も手放さなかった機材を、作業に掛かって9時間、始めて置いた。
「よぅ頑張ったなお嬢ちゃん」
「え?」
「あぁ……完成だ」
「あの、あの……どういう……!?」
「ふふっ、どうだい良いのかねぇ、ご主人方よ?」
「ぁえ?」
扉が開かれた。
見えたのは……主様達であった。
「お疲れ様です、佐治さん」
「ぁ…あぁ」
「ふふっ何はともあれじゃな、あんたの主達は帰ってなかった」
「そぅ…な……の?」
「余程心配だったんじゃろうて、外で待っておったわ」
「すいません、信用していない訳ではないのですが……」
「構わねぇよ、その主従関係にワシも心打たれたわ」
「恐れ入ります」
「いい主を得たな、お嬢ちゃんよ?」
「……え……は、い」
「ところでどうじゃ、ワシの最高傑作はよぉ?」
佐治さんの笑顔は、やり遂げたという達成感に満ちていた。
改めて全員の視線が何度も上下する。
圧倒されたような全員の視線だった。
(な…に……?)
ようやくご主人様が声を発した。
「ホントに素晴らしい出来だ、美しい……」
「そうかね?」
「えぇ……ええ…お見事です」
「これはよぉ、ワシの最高傑作と言ってもいいぜ」
「はぁ〜〜〜っ、ホンット凄いわぁ〜〜」
「もっとよく見せてやる、おいっ若いの、手ぇ貸してくれや」
「はいっ!」
意気揚々、ユウジ様が私を背負い佐治さんの後へと続いた。
その先は、天井から吊るされる2つの鎖の枷。
そして…… ……目の前には大型のシーツが覆われた物。
「ご開帳……いいかね、ご主人よ?」
「はい、この見事な刺青を雌豚にも見せたいです」
「よぉし……おい若いのっ、このお嬢ちゃんを吊りな」
「は、はい」
「このシーツに被ってるのは姿見だ」
「……っ!」
「よく見えるだろうぜ、これほどの大きさならなぁ」
「……ぅ」
「怖いか雌豚由紀さんよぉ?」
「……ぅう!」
「どうした雌豚由紀っ、見られたくないのかっ!!」
「っぅ…くっぅ!」
ご主人様の叱咤が飛んだ。
その間も佐治さんの手で両手を枷に吊られ、ゆっくりとゆっくりと……身体が宙に浮いていた。
麻酔のせいか、痛みは全く感じない。
「あっぁ…ぅ……っぅっふぅ!?」
「見たいんだろう?」
「あぁ…みた……ぃ……ですぅ」
「くっくっく、よう言うたわお嬢ちゃんよぉ」
シーツに隠されたモノが剥ぎ取られた…… ……。
目に飛び込んだ物。
それは9時間以上も掛けて施された……芸術。
「ぁ……あぁ…あっぁあ〜〜ぁ!!」
私は自身の身体から写る姿見に……釘付けとなった。
(こ……ん…な…… ……の)
麻痺しているはずの身体、その一部である歯がガチガチと鳴った。
芸術という名の刺青。
全身に施された私の身体に刺青。
圧倒的だった。
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