家畜な日々
非現実:作

■ 〜愛しき繭〜7

動けない身体の中、細目で見上げる。
朝日が煌々と眩しい。
(ようやく…朝…よ?)
真っ暗の中で放置され続けたせいか、心無しホッとする。
ユウジの助けを待っていた。
とにかく酷く喉が渇いている。
日本だと春間近という所なのに、ここはまるで真夏の気候だった。
(由紀も……あの小屋でこんなに苦しんでたの…カナ?)
あの時は考えもしなかったこの似た状況を、己を以ってして知るとは……。
身体のベタつきによる痒みに手が届かない苦痛は、想像以上だった。

(っ!!)
「やぁ〜〜〜公衆便器繭」
「ゆっ、ユウジ!?」
「おはよう〜」
「あ、の……ちょっとユウジ……ぃぃ」
「何だ〜挨拶は基本だぞぉ、公衆便器とはいってもサ」
「……い、や……ちょっと、あのっ!」

ユウジの顔を見た途端、私は必死で顔を背けた。
昨夜の惨劇から私の顔は汚れ続けている事を思い出したのだ。
どうなっているのかは確認できないが、これは決して見せたくない……愛する愛した人には決して。
だが上下凹型の首枷が、顔を動かす事を許さない。
それを知っているユウジの顔が真正面に映る。

「あはははははっ、汚ったないなぁぁ〜〜〜」
「ぇ?」

唖然とした。
確かに今の私は酷い常態だと思う。
だけど、爆笑されるとは思ってもいなかった。
優しい人、私を気遣ってくれる人……それがユウジだった。

「ゆ…うじ?」
「でもそれが最高だ、それでこそ僕の公衆便所繭」
「ゅ……う…じ?」
「あれぇ〜〜、忘れた訳じゃないだろう、昨日の約束をさ?」
(わ、すれてる訳じゃないケド…人が変わったみたいに……ユウジぃ?)
「もうこの立場は変わらないんだよ、そろそろ自覚してもらわなきゃ」
「ユウ…ジ」
「ま、その面見たら繭も覚悟が出るんじゃないかな。
凄いよ、まるで蝋が固まったみたいに塗ったくられてる様子ってサ。」

…… ……そぅ。
瞼が重いせいも細目でしかユウジを見れないのも、唇がカラカラに乾いてるせいも。
口を動かす度に頬や口元がパリパリと割れる様な感覚。
全ては原住民の人達による濃い精液だった。
まだユウジのだったら良かったものを…… ……。

「公衆便器繭、あっちを見てみなよ」
「ぇ?」
「皆が続々と出てきたよ?」
「……」
「ホラ、こっちに向かって来るよ?」
「ぇっぇっぇっぇ……ぇえ……?」

恐怖が先走る。
集まってくる理由などたかが知れている。
そしてソレを扇動しているのは……愛していたユウジだ。

「ホラホラ、公衆便器としての朝の役目だよ?」
「朝…の役目」
「言わなくても解るだろ、それに今のお前にはどうする事も出来ない。
何たって四つ這いで手足も首も動かせないんだから。」
「ゆっ……ユウジ、私はユウジならいいのっぉ!。
だから、だから……もぅ…もぅぅ……。」

ユウジの公衆便器なら私は耐えられる。
今だって、こんな風にされたって私はユウジを愛せる。

でも…… ……。
……だけど必死の哀願は無駄だった。

「何言ってんの、備え付けの公衆便器は誰隔てなく使われるのが常だろ。
さっさと使われて汚れればいいんだよ。」
「…… ……」

気が遠くなる……そんな感じ。
ユウジの言葉は冷たくて、ユウジの見下す視線は冷たくて、ユウジの心中は鬼畜に熱く煮え滾っていた。

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