家畜な日々
非現実:作

■ 〜愛しき繭〜11

帰国当日、ご主人様となったユウジと泊まっていたホテルに戻ってきていた。
フロントの人には、全身を毛布で包んだ私の姿はさぞ異様に見えただろう。

キ、キィキィキィ…… ……

シャワーのコックを捻り、水と止めた。
念願のシャワーは、十分時間を掛けて身を洗い続けた。
何度も何度もボディソープを使い、穢れた身を磨いた。
(…… ……)
でも何度洗っても、どうしても私は汚れてしまった者……。
ポタポタと落ちる雫と同時に、涙が溢れ零れ落ちる。

「おぉい、早くしろよ〜、出発時間に間に合わなくなるぞぉ〜〜」
(……パパ)

会いたいのに会うのが怖い……この身では会う資格すらないように思えた。
バスタオルで全身の水気を拭い、真新しいキャミソールワンピとデニムのパンツに着込んだ。

「おぉ〜〜い、繭ぅ?」
「い、今……で、出ます」

バスルームの扉を開きユウジ……ご主人様であるユウジの目の前に立った。
ニコリと微笑むユウジ様だった。
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
「ホラ、水」

半分まで減っていた500ccのペットボトルを一気に飲み干した。
空けたペットボトルの代わりに、紅茶の500ccペットボトルが渡される。

「もう少ししたら、また半分な?」
「……」

(ぇ…ぇぇ……ま、まだ飲むの?)
これで5本目だ、既に2リットル飲んでいる事になる。
勿論、私の意志じゃない。
……そして当たり前の事が起こり始めていた。
空港ロビーのソファーで両膝を固く閉じて、両手を股間に添えていた。
下半身にはかなり力が入っている。
(ぉ…ぉな……かぁ……ぁっぅ!!)
徐々に来る強烈な痛み。
当然の結果である、私の絶対量を遥かに超えた水分だったから……。
いや……数分空けて4本のペットボトルを飲むという行為は、人として無理な話だろう。
そんな事を命じた隣のユウジは、飄々とした態度で腕時計を見て言うのだ。

「そろそろだな、時間」
「……ン …… ……ぁっはぁ…ぅっぅ……く!」

搭乗時間の事なのだろうが、私はそれどころではなかった。
小刻みに揺れる身体を必死で押さえる。
周囲の視線が気になるが、時間が立てば経つほど揺れは大きくなってゆく。
もう、普通では座っていられない程の腹痛だ。

「くぁ……はっぁ…… …… …ぁ……」
「じゃあ、乗る前にペットボトル飲み干しちゃって?」
「……ゃ……ぁ」

もう首を左右に振っているのか身体の震えなのか、私自身解らない。

「飛行機には持ち込めないだろう、それ位知っておけよな〜」
「っぁ…〜〜〜〜ぁ……ふぅ!」
「だからさ、飲んで?」
「…… ……ぅ…む〜〜りぃ…ぃ……ぃ」
「置いていこうか?」
「っぅ!?」

……飲むしかない。
……観念するしかない。
私は、震える手で紅茶のペットボトルのキャップを外したのだ。

「ふふふ、いいぞ〜……さぁ一気に行けっ!」
「ぁ……はっぁ!!」

大きく息を吸い込み、私はペットボトルの中身を口に流し込んだ。
それを優しい瞳で見つめるユウジだった。
   ・
   ・
   ・
「見てごらんよ繭、日本だよ?」
「〜〜〜〜……〜〜〜……」
「いやぁ〜〜何だか懐かしく思うねぇ〜」
「…… ……」
「時間通りだし、お義父さん達も迎えに来てくれてると思うよ?」
「……っぅっぅ…ぅう」

デニムのパンツを穿いた下半身は、グショグショに濡れていた。
……汚物で。
何度と襲い来る腹痛に、私は屈したのだった。
ソレは無論、ユウジの狙い通りなのだろう。
結局、4度の排泄をオムツにぶちまけた事になる。
その度に、愛用しているブルガリの香水を多めに振り掛けて臭いを隠してきた。
オムツを替えさせてくださいとお願いしても、ユウジは許してくれなかった。
「何言ってんの、公衆便器なんだからソレがお似合いだろう?」と。
今は全部を出し切ってしまったのだろうか、腹痛も治まりじっとして座っていられる。
下半身のグシャリとした感覚とむず痒ささえ我慢すれば…… ……。
そんな公衆便器な私を乗せた飛行機は、悠々と空を旋回した後、滑走路へと滑り降りたのだった。

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