家畜な日々
非現実:作

■ 〜さよなら過去〜4

誰も彼もが私を牽制していた。
それもその筈、当時高校時代の私は勘違いしていた。
他の女子と比べるのもメンドクサイと思っていた程に、美貌に自信があったから。
多分見下していたのだろう、高校時代の私はそういう駄目な人間だった。
性格の悪さと美貌では校内一だと思う。
だから今、仲間の輪に加われずの壁の華に徹していた。
腕組みのまま新たに手にしたシャンパングラスを傾け、私は孤立に酔う。
男子は私の動向に一々目で追うが決心が付かないのか、喋り掛ける事はしてこない。
目線を合わせると慌てて向こうが逸らす……そんなやり取りが何度も続く。
一応気を使ってなのか、女子は「元気だった」「更に奇麗に」とか社交辞令並みの挨拶。
折角のお酒も興が醒める。
(ナニコレ、ホント高校の同級生って下らない)
元々乗り気では無かったこの同窓会だったが、ここまでつまらないとは……。
シャンパングラスを大きく傾けて、一気に半分まで喉に流し込んだ。
こんな軽いお酒、一気に飲んだって大した事ない。
下らなくて面倒で……ウンザリしていた時だった。

「あ、の……由紀さん?」
「ぇ?」
「ご無沙汰ですね、あの……覚えてます私の事」
「……あ、えと」
「ですよね、はは」

度の分厚い眼鏡を掛けた、小柄でおずおずと近付いてきた人、マヂで顔と名前が一致しない。

「福学級委員の渡辺です、渡辺美紀」
「あ、あ〜あ〜〜ゴメンネ、その」
「いいんですよ、私は地味ですから」
「久々過ぎてさ、ちょっと解らなかっただけだって、ゴメンネ渡辺さん。
記憶力とか私、弱いんだぁ〜ホントごめんね。」
「いえいえ、来てくださって嬉しいですよホントに、由紀さん。
クラスの人気者のあなたがようやく来てくれて、ね。」
「え〜〜そかな、私ってクラスに馴染んでなかったジャン?」
「ふふふ」
「否定しないんだねぇ、副委員長は」
「あ、ごめんなさい」

おずおずとした仕草、眼鏡を片手で直すのも彼女らしかった。
その言動を聞くまでは…… …… ……

「で、雌豚として由紀さんはどこまで成長したのですか?」
「…… ……ぇ!?」

眼鏡の奥から私を捉えていた。
オドオドとした挙動は一気に消え失せ、私より数センチ低い目線が爛々と燃えていた。

(ぇ、何で……嘘、でしょ……!?)
「ふふふ何を驚いてるのですか、由紀さんらしくない。
高校時代の貴女はもっと自信に満ち溢れてて、あ〜〜私も見てて羨ましかったなぁ。」
「あ、あのね渡辺さん?」
「私ね貴女が羨ましかったの、あれだけの美しさと自信が私にもあったらって。
でね、由紀さんてあまり成績は良くなかったじゃない?。」
「ぇ、まあ……」
「でも短大に入ったって後の卒業文集で見たときびっくりしちゃったんだぁ。
……でもね、私想像しちゃったんだ〜きっと女の武器使ったのかなぁって、ね?。」
「あ、あなたっ、ちょっとねぇっ!!」
「駄目駄目、皆がこっち見てますよ、由紀さん?」
「……と」

驚きや畏怖する表情が私達を伺っていた。
(何コイツ……どういう事なの?)
腸が煮えくり返るが、ここは冷静にならないと相手の思う壺。
残っていたシャンパンを口に含ませながら気持ちを落ち着かせた。

「短大生活はどうでしたぁ〜?、さぞ愉しい夜を過ごしてたのでしょうねぇ?。
色々な違う意味での勉強が身に付いたって感じですか?。」
「御免なさいね副委員長、貴女が知らない事とかを一杯勉強したわ」
「……そ、そう」
「貴女みたいな根暗サンには到底想像できない愉しい充実した日々だったわぁ」
「……」

副委員長こと渡辺美紀に、暗い闇が覆われてゆくのを私は視認して後悔した。

(しまった、言い過ぎ!?)
「そうよね、由紀さんはモテモテでしたでしょうね、私と違って。
ホント、ホント……貴女が恨めしい、学も無いくせに男性にチヤホヤされて。」
「副委員長ってさぁ、ちょっと男に餓えてる?」

売り言葉に買い言葉、駄目だと思いつつも元々の性格上、余計な言葉を口にしてしまう。
何よりも、なんでこんな女にそこまで言われるのかが解らない。
ドMの今の私から、昔のドSの私に戻っていた。

「……でも……今の就職先は変態家畜の雌豚なんですってね由紀さん。
学はあった方が良いって今再認識したわ、貴女にはお似合いの就職先よね。」
「っ!?」

動きそうになった右手、危うくギリギリの理性で止まった。

「後で男子達も連れてくるね、貴女と話したそうだけどイマイチ勇気が出ないみたいなの」
「結構よっ、アンタと話すと手が出てしまいそうなの、目の前から消えて?」
「無理よ、ここは同窓会だし、私はもっと貴女とお話がしたいんだもの」
「……ウザイ女」
「あーでもね、その前に愛しのご主人様からメールが来ると思うわよ?」
(……コイツ、本当にナンナノ?)
「メールが来たら直ぐ実行、だったわよねぇ雌豚さん?。
じゃあその後を楽しみしてるわ、またね由紀さん。」
「…… …… ……」

怒りと恐怖、そしてどういう経緯なのかという不安、全てが私を覆う。
こういう状況下で頼れる人、即頭に浮かぶのはご主人様だった……。

そして間もなく、携帯のメールが着信したのだった。
宛名は勿論「ご主人様」だった。

■つづき

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