家畜な日々
非現実:作

■ 〜さよなら過去〜15

「…… ……」
(チョット、何してるの!)
「えぇと、その…… ……あの……」
「どーしたぁーーー学級委員長さんよぉ〜〜〜っ」

誰かの野次に会場がドッと沸いた。

「あ、ぃやその……みっみな、皆様っ……あのっ」
「もっぉ、しっかりしてよ山崎君」

副委員長が山崎君の脇を小突いた。

「何だ何だぁ〜イチャついてんのかぁ〜壇上で夫婦漫才見せ付けんなよなぁ」
「ば、ばっか、そんなんじゃ……」

下世話な野次に顔を真っ赤にして否定するが、その姿はいつもの学級委員長ではないのは明白。
駄目だと判断したのだろう、副委員長の渡辺さんが割って出たのだった。

「え〜〜〜皆様ぁ〜大変長らくお待たせしました〜。
只今よりぃ〜私達の母校のスライドショーを御覧頂こうと思います。
どうぞ皆様ぁ〜〜存分に懐かしき思い出に浸って下さいませぇ〜〜。」

おおおおぉぉーーーっ!!
会場は歓喜と割れんばかりの拍手に包まれた中、ついに渡辺さんの手でプロジェクターが起動された。

「尚、スライドは私達がこの前とってきた物です。
もはや解説するまでもない位、変わってませんでしたが一応私が解説したいと思いますね。」

渡辺さんが言い終えて更なる拍手喝采の中で、ひっそりと山崎君は壇上を後にしたのだった。
仕切り屋の学級委員長だった彼にしてもこれは堪えられない、と私は理解できる。
先程の私の豹変振りに恐れをなしたのか、今は会場の隅に1人佇む私の傍へと山崎君はやってきた。
私はそんな彼を一瞥して、プロジェクターへと目を戻す。

「…… ……よく平気、だな……」
「……」
「僕は、堪えられそうに……ないよ」
「…… ……」

喋らない私を見て何かを悟ったのか、山崎君はアルコールで口の中を湿らせた後、独り言のように喋りだした。

「アンタのご主人様とやらは本当に頭が切れる人だったよ……。
あの状況を作られた僕は……承諾するしかなかったんだよ。」
「……」
「僕は何人もの人を蹴落として、謀略渦巻く会社でも今の地位を得たさ。
少なからず僕は……僕は頭が武器だと自負していたよ。」
「…… ……」

ワァッ、と会場が再び沸いた。
画面を見ているようで見ていない私の目にも懐かしい3年A組の教室が映り、そして……何も感じなかった。

「ところがどうだろう……僕はご主人様サンに嵌められた、完全な敗北さ」

女々しいったらありゃしない、そんな心境だった。
そして私も、遠い過去を思い出していた。
そう云えば…… ……私もご主人様に嵌められてこういう風になったんだっけ、と。
あの時の私も、言いなりになる他無かった。
自然と口が動いた。

「……アナタ、首を縦に振ったじゃない……泣きながら」
「だからっ……それは、それは……仕方なかった。
あの……あの画像マスターがアノ人の手にあるんだからっ!。」
「…… ……」

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