家畜な日々
非現実:作

■ 〜主役は後から〜1

ガーデンチャペルでの結婚式は身内のみ、その後の披露宴はお隣のホテルで行われる行程だ。
当然、ムネ様と私は披露宴からの参加となる。
かれこれ1時間くらい待機していた近場の喫茶店で、パフェと珈琲を食べ終えたムネ様が言う。

「そろそろ五分前ですねぇ〜いきましょうか」
「はい」

休日の午後、見たら一瞬で解る「披露宴にお呼ばれの人達」である私達は席を立つ。
今日のムネ様は普段からは想像も出来ないほどにビシッと決まっている。
かなりキワドイ前髪もオールバックに固めて、センスあるネクタイにスーツ姿、でっぷりとしたお腹の張りですら貫禄を感じさせる。
私は……ムネ様の罰ゲームで買って頂いたドレスである。
肩紐で吊る藍色のワンピースで膝下から太股まではボリュームたっぷりのギャザー3段布重ねのティアードドレスだ。
出る所は出てといった風に身体のラインが結構強調されてはいるが、露出度は控え目で胸もスッポリと収まっている。
肩に羽織る黒のボレロもレース仕様で結構可愛い。
今日は主役ではないからアクセサリーも控え目なシルバーで統一している。
それでも何着ても似合わせる自信ありの私は、煌びやかに店内を歩いてみせるのだ。
会計を済ませ、お店を出て時計に目をやったムネ様が再び口を開いた。

「ああっと、もう始まってしまいますねぇ〜少し急ぎましょう早歩きで行きますよ?」
「ぇえ、そんなっ、別に披露宴は途中からでもっ!」
「何言ってるんですかぁ〜そんな事したら大野さん、怒っちゃいますよ?」
(…… …… ……)

私はこの時、ご主人様からの遅刻した罰を期待した事は口には出さなかった。
それに……早歩きなど出来ない。
そう、今日は小奇麗な物を身に付けているのだが、その更に中にも今日仕様の物を色々と身に付けているのだ。
ご主人様が普通に来させる訳がなかったのだ。
出発前にご主人様は彫師である佐治様に縛りを頼んでいたのである。
それで今朝、凄いお久しぶりにお会いした佐治様の手で肉が悲鳴を上げるくらいギチギチに股縄を受けたのだ。
ちょっと屈むだけでも腰縄から伸びた股縄が食い込んで来る。
当然、置き土産にオ○ンコにも尻穴にも極太のバイブを入れられて……。
こんな状態で小走りなど出来る訳もなく、当然その風景を見学していたムネ様は知っている筈なのだ。
天然なのかワザと言ったのか、私は知る由も無く出来る限り股間に刺激が来ないようムネ様の背中を追うしかなかった。

何とか…… ……5〜6分遅れで会場に到着した私達はそれぞれご祝儀と名簿の記入を終えて、会場へと足を踏み込むと……。
(ぅあ、凄っ!?)
私の想像を遥かに超えた大規模な披露宴会場で、立食式である会場は人が溢れ返っていたのだ。

「何せ地方であるものの大病院である御曹司のご結婚ですからネェ〜。
殆どがその関係者とか、取引先の人とかなんでしょうねぇ〜。」
(なるほど……当たり前ね)

耳元で囁いてのムネ様の説明は納得できる。
ご主人様や繭様には悪いが畜農業をやっている娘の披露宴にしては派手過ぎる。
お金の出所は(当たり前だが)婿である地方大病院のユウジ様側であろう。
よく見れば私達と同類である、来客の人達の衣装や身の振る舞いは中々といったところだ。

「まずは大野さんと新郎新婦にご挨拶に行きましょうか」
「畏まりましたムネ様」
「い、いやいゃ、それはマズイよ、今はソレいいからサァ〜〜」
「ぁ、はい……」

(そうだった)
私は小さく呼吸を整えて昔を思い出す。
男を見下ろす側の女。
こんな凄い場だって私は私の魅力を発揮してみせられるのは「当たり前」。
負けられない、その信念が自然と背をピンッと直立にさせ、自慢のボディを魅せる様にヒールの足が前へと動く。
カツッカッカッカツッカッ……。
床をヒールで鳴らしながら私は堂々と各テーブルの間を縫って真っ直ぐに向かう。
お祝いムードの宴会場の中で、通る度に擦れ違う男女の熱視線を浴びながら私は先頭立って歩くのだ。
発せられる声は気にもしない。

「ぅおっ、超美人ジャネ?」
「ふぁ〜〜ナニナニ何なの、どっかの余り売れてないグラビアアイドルとか?」
「病院とか経営してたらまぁ〜アイドルとかで宣伝とかするかもなぁ」
「あれはお前にも勿体無いだろ〜」
「い〜〜ぃ女じゃんよ」
「いやぁ、アレはそうは落ちんだろぉ〜」
「でもサ、チョット歩き方とか意識し過ぎじゃない?」
「ねぇ〜〜〜あんなに腰とか……ねぇ〜〜」

(ンっふぅぅう……イイわぁ!!)
羨望と嫉妬の眼差しを擦れ違う度に浴びる。
でも、それがイイのだ。
見られる度に股間が刺激される。
そんな風に見られるトカ……凄い濡れる、視線で追われる度に縄が食い込む。
噂される度に疼くオ○ンコと尻穴のバイブが縄で固定されて恨めしい。
既に私は小刻みな呼吸。
「何故」を繰り返しながらゆっくりと、それを堪能するかの如く歩み続ける。
(ァァ…ぁあぁ、ぁはぁあはぁはぁ……何故?。
何故股間に埋め込まれた2つのバイブは動いてくれないの?。)
熱を帯びた吐息で私はようやく視認出来るまで近く寄った。
新郎新婦の隣席にいるご主人様に目配せすると、ご主人様は黙ったままで首を横に振るのだ。
(ナンで、ナンデナノデスカ……私はもぅっ!!)
もう限界です。
そう叫びたかった。

「仕方ないですよ、こういうのは寺谷さん側の来客が優先ですからね……って!」
「〜〜〜ぅぅう……ううぅ〜〜」

振り返ったムネ様が慌てて私を壁際に引き寄せて、自身の身体で私を隠した。

「ちょっとちょっとちょっとぉ〜〜困りますよそんな涙目なんかぁ〜。
これじゃボクら、繭さんの恋敵みたいな感じになっちゃいますよ。」
「だぁって……だって、ご主人様が意地悪で……」
「別に意地悪して待てとしてる訳じゃなくて…あああ〜〜もっぉ!」

ムネ様がハンカチを取り出して少し強引に涙を拭った。

「と、取り合えず化粧室に行きましょう、化粧直ししないとこれじゃあ……ね、ね!」

私は小さく頷いた。

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