家畜な日々
非現実:作

■ 〜衝撃のデビュー〜1

「ああうん、そう……多分そっちに着くのは17時位かな……いや、いいよ別に。
あーでもちっと大野さん家に寄ってもいいかな…… ……いやそんな違うしっ!! 違うっての!。」

ユウジは後頭部に手をやりながら誤魔化す。
チラリと隣を見ると、新妻の繭は案の定不機嫌そうな表情でこちらを睨んでいた。

「まぁそのそういう事で、あのっ飛行機出ちまうからもう切るわっ」

電話の向こうで父親が何か喋り続けていたが、今は拗らせると大変なお相手をなだめなければならない。

「飛行機がすぐ出る訳ないでしょぉ〜電車あるまいし」
「いやまぁまぁ、そこは言葉のアヤというやつで」
「で、何?、実家に私戻ったら良いの?」
「おぃおぃぃ〜勘弁してよ繭ぅ」

相当甘やかされて育ったのだろう、繭は一度機嫌損ねると納得がいくまで治らない性格なのだ。
簡単に言うと非常に子供。

「やっぱお義父さんに帰ってきました報告はしないと駄目だろ普通にさぁ〜大事な娘さんを貰った身なんだし俺」
「別に今みたいに国際電話で良いじゃん、何なら私が今するし」
「いやいやいや、ここはちゃんと2人で顔を見せるのが常識的でしょ?」
「じゃあ私もユウジのお義父さんに顔見せる必要がある訳よね?」
「それはいつでもいいとは思うんだけどさ……あ、いやっ」

言い終え掛けて慌ててユウジは訂正する。

「確かにそれはそうかもしれんね、俺ら新婚なんだし」
「…… ……遅いから、言い直すの」
「いやだからさぁ〜〜…… ……はぁ〜機嫌直してくれよぉ繭〜〜」

傍から見ればペアルックの男女がいちゃついているようにしか見えない状況なのだが、繭は大変なご立腹なのである。
そしてユウジからすれば正論である筈なのに、何故か新妻のご機嫌を損なうという理不尽な立場になってしまっていた。
ユウジは「アレ」が来なかったとしても、新婚旅行を終えて真っ直ぐに義父の家に報告するつもりだったので大変なとばっちりなのだ。
(オヤジの奴〜〜〜空気読まずに変なモン送ってきやがってからに〜〜)
面白半分で「アレ」の画像付メールを送ってきたのだろう父親に、心の中で毒付くユウジ。

「解った繭、ホント言うと確かに見てみたいよ……でもねでもなっ、ちゃんと報告をしないと駄目だというのもとうぜ…」
「やっぱりじゃんっ、やっぱりそうなんじゃんっっ、浮気だよっ浮気っそれも立派なっんむ!?」

咄嗟の出来事だった……ユウジが今にも泣きそうに喚く繭の口を唇で塞いだのだ。
ここが異国の地であるからこそ為せる、どんな言葉すら意味も無くす対処法。
途端にトロンと酔った様な目で無抵抗となる繭。
そんな危なげで不安定な繭が更に愛おしいとユウジは感じてしまう。
数十秒後、2人の脇を通り過ぎた外国人が「ヒュゥ」と口笛吹いたのを合図に唇と唇が離れた。
視線と視線がぶつかり合う中で、最初に口を開いたのは繭だった……。

「……御免ねユウジ……また私、嫉妬しちゃった、よ」
「俺こそゴメン、いっそ正直に言えば良かったんだよな、アレはもう人じゃないんだし……俺らの手には負えないんだから」
「ん」
「嫉妬してくれる俺は幸せもんだよ本当に……」

そう言ってユウジは繭の背中に手を回し、再び唇を重ねた。
今度は周囲にも見せ付けるように、濃厚な甘い甘い口づけを……。

■つづき

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