君の瞳の輝き
あきんど:作

■ 第二部7

 薄い霧の中を鈴は彷徨っていた。
 何も見えない中から声が聞こえる
裕美子「鈴・・手が開いてたらカウンターの洗い物おねがい」
 気がつくと鈴は「バー鈴音」の炊事場でコップを洗っていた。
 ふと顔を上げると中年の男性が鈴の顔をじっと見ている。
 男は数分鈴の表情を見つめておもむろにこういった。
「君・・どこかで見たことあるな・・どこだっけ?」
 鈴は男の顔に見覚えがなかった。
「いや、前にどこかで会ったはずだよ・・」
 鈴は気味が悪くて奥に引っ込もうとした。
 そこで男が思い出したようにこういった。
「あぁぁ確か・・ビデオだよ。女の子がいろんな男といやらしいSEXで感じまくって・・確か名前は・・鈴ちゃん・・」
鈴は目の前が真っ暗になった感じがして、めまいで倒れそうになった。
 確か、ビデオにはモザイクでぼかしていて鈴だとはわからないようにしたり音声も消してくれているという話だったのに・・
「ど・どうしょう・・」


鈴はハッと目を開けた。見覚えのある風景が目の前に広がった。「あぁ夢か・・」
夢だと気がついてほっとしたのだがまだ不安はぬぐえなかった。
ひょっとしたら夢のように私だと気が付かれて・・そして・・
不安なまま布団から出た鈴はため息をついた。
「あんなビデオ出なきゃよかった・・」

起き上がった鈴はスウェット姿のままトイレへと向かった。
居間では酒ビンや缶ビールとおつまみのピーナットが散乱していてコタツの中で裕美子が寝ていた。
昨日も深夜までバーが営業していた。裕美子はその後も健司と飲んでいたんだろう。
鈴はトーストを焼き、オレンジジュースで軽く朝食を取った。
健司はどこに行ったのだろう・・興味はないのだが鈴は健司の居場所だけは把握しておきたかった。
最近の健司の鈴を見る目には怪しかった。だからこそ健司の動向は知っておきたかった。
やがてバーの店内のソファーで寝息を立てているのを見て鈴は安心した。
歯を磨きヘアスタイルを整えはじめた。あのビデオ撮影のときから数ヶ月が経っていた。
当時ショートカットだった髪は肩まで伸びていた。

やがてセーラー服のスカーフを結んだ鈴はかばんを取り玄関から出た。
ドアの前を同級生の美和が歩いていた。
小学生のころは仲のよかった二人だが、鈴の母が店を開店させたあたりからいつしか二人は口を利くこともなくなっていた。
いや美和だけではない。
火事の後で母が再婚したころから鈴は人とのかかわりを避けていた。

美和の後を離れて歩く鈴は1台の黒いベンツが止まっていることに気がつかなかった。
そして運転席にいる近藤にも・・。


学校が終わり、家に帰った鈴は足早に部屋に駆け込んだ。
玄関に裕美子の靴がなかったからだ。裕美子は買い物にでも出かけたのだろう。
だが健司の靴はあったのは確認済みだった。つまり今この家にいるのは鈴と健司の2人だけだった。
部屋でセーラー服を脱いでハンガーにかけた鈴は部屋の様子が違っていることに気がついた。
誰かが部屋に入った・・鈴はなくなっているものがないか考えた。
そして衣類の入っているたんすを開けて侵入者が誰なのか見当がついた。
たんすの中のパンティが乱れていることに気がついたからだ。
かわいく丸めて並べていた下着が型崩れしていた。
何者かが一度取り出して同じように丸めて直しているのだが、手馴れた女性のなおし方ではなかった。
ブラジャーは、無造作に入れてあるだけだった。
鈴は身震いがした。母の再婚相手の健司が私の下着を手に取っている様子を想像して鈴は下着を放り投げた。

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