清めの時間2
ドロップアウター:作

■ がんばります……1

 全裸になった香帆に、私は一枚の紙と消しゴム付きの鉛筆を差し出した。
「受け取りなさい」
「えっ、はい……」
 香帆は、返事をしたものの、すぐには動けなかった。衣服を全て脱がされ、両手は恥ずかしい乙女の部分を隠すのに精一杯なのだ。体から手を離すと、胸や股間が丸見えになってしまう。
 それでも、香帆はやがて上半身から右手を離し、片手で紙とペンを受け取った。お椀の形をした胸の小さな膨らみが、また露わになる。どうやら、少女はまず下半身の無毛の陰裂を見られないようにし、乳房を隠すのは諦めたようだ。
「……あの、何か書くんですか?」
 香帆が、少し震える声で聞いた。やはり恥ずかしいのか、色白の頬がさらに赤らみを増している。
 私は、さっき香帆が腰かけていた丸椅子をトンと叩いて、彼女に命じた。
「紙はここに置いて。それに、まず学年とクラス、自分の名前を書きなさい」
「はい」
 今度も、香帆は素直に従った。受け取った紙を丸椅子に載せ、その場で床に跪く格好になる。そうして机代わりの丸椅子に向かい、右手だけの不自由な姿勢で書き始めた。
 右手を動かす度に、紙がずれて字が歪んだ。その都度、香帆は消しゴムを使って書き直した。両手を使えばいいのに、左手はずっと股間の恥部に添えたままなのだ。
 香帆が名前まで書き終えてから、私は次の指示を出した。
「じゃあ、名前の下に……今の気持ちと、この時間の『決意』を書いてもらうわ」
「決意、ですか?」
「そうよ。どんなに辛くても、ちゃんと最後まで『清めの時間』を終わらせるっていう決意を、今から覚悟を決めて書きなさい」
「……分かりました」
 返事するまで、少し間があった。すぐ言われた通りに書き始めたけれど、香帆の表情はこわばっている。明らかに不安を感じている様子だった。
 無理もないだろう。今でさえ、少女はかなり辛い思いをしているのだ。裸にされ、頬を打たれ……その上、これから更なる苦痛が待ち受けているのだから。
「あっ……」
 ふいに、香帆が小さく声を上げた。鉛筆を床に落としてしまったようだ。跪いた姿勢のまま、手を伸ばし拾い上げようとする。
 だが、鉛筆は思いのほか遠くまで転がっていた。それで焦ったのだろう、香帆は二度、三度と鉛筆をつかみ損ねて、その分もっと体から離れてしまった。少女は上半身を傾け、右手を精一杯伸ばしたが、もう届かなかった。
「しょうがないわねぇ」
 私は、少女の代わりに鉛筆を拾ってやり、相手に差し出した。
「ほら、青山さん」
「あっ、すみません。ありがとうございます……」
 小さな声で礼を言って、香帆は少しうつむいた。少女の不器用な仕草が、何だか健気で可愛らしく見えた。
 五分程度で、香帆は命じられた通りに書き終えた。
「……こんな感じですか?」
「ええ、上出来よ。じゃあ、立って」
「はい」
 香帆は鉛筆を置くと、さっきのように右腕で胸を押さえて、ゆっくりと腰を上げていった。乳房を無防備にさせられて、やはり恥ずかしかったのだろう。もちろん、左手はさっきから股間に添えたままだ。

 そうして立ち上がると、今度は医師が少女に命じた。
「これから、発育の具合を調べるから。両手ともバンザイして、全身見えるようにしなさい」
「はい……えっ、あの……」
 香帆は、少し驚いた目になった。
「……両手、ですか?」
 無理もなかった。左手もとなると、体をどこも隠せなくなる。乳房だけでなく、股間の恥部まで露出させられてしまうのだ。
「そうよ」
 私は、少女に容赦なく告げた。
「発育を調べるのは、あなたが儀式にどれだけ耐えられるかチェックするためよ。体に負担のかかることをするんだから、こっちもそれなりに配慮するのは当然でしょう? あなたは特に、体の成長は遅い方なんだから、ちゃんと検査しなきゃいけないわ」
 説明すると、香帆はこくっとうなずいた。
「……はい、分かりました」
 思いのほかあっさり引き下がったから、私は拍子抜けした。
 本当にこの少女は従順だ。恥じらいながらも素直に従っているのは、自分だけじゃないということを誰よりも意識しているからなのだろう。
 この様子では、何を指示しても従ってくれそうだ。『清めの時間』が終わるまで、香帆にはずっとこのままでいて欲しいものだ。
「分かったら、ほら。ちゃんとお医者さんの言うこと聞きなさい」
「はい……」
 か細い声で返事すると、香帆は少しうつむき加減になった。そして……乳房から右腕を、そして股間から左手を引き剥がすように、ゆっくりと離していった。
 ためらいながらも、香帆は医師に命じられた通りの格好になった。さっきはちらっと見えただけだった少女の恥部が、今度は完全に露わになる。滑らかな無毛の恥丘も、股間の亀裂も、奥にのぞく桃色の突起も……
 香帆の膝が、小刻みにカタカタと震え出した。股間を露出させられているのが、かなり恥ずかしいのだろう。それでも、少女は唇をきゅっと結んで、懸命にこらえていた。
 医師は、白衣のポケットからメジャーを取り出し、両手を挙げてうつむき加減の少女に告げた。
「まずは、胸囲を測るよ。数値を読み上げるから、さっきの紙に自分で書きなさい」
「あ……はいっ」
 香帆は、返事したものの、顔を上げようとしなかった。異性の前で全裸を晒すのは、少女にとっておそらく初めてだろう。医師と目が合うと、どうしても見られていることを意識してしまう。
 可哀想に、少女の顔は耳まで真っ赤になっていた。それでも無慈悲に、医師は香帆の未発達な胸にメジャーを巻きつけていく。乳房に異性の指が触れると、少女の肩がぴくっと揺れた。
「……トップ、72・1。アンダー、64・7」
 胸の大きさを読み上げられると、香帆の唇が「いや」と言うふうに動いた。それでも黙って、少女はさっきの紙に数値を書き込んだ。そしてまた、両手を挙げる。
 医師は続けて、香帆のウエスト、ヒップ、肩幅、背骨の長さを測った。その都度、香帆は少し背中を曲げて紙を置いた丸椅子に向かい、自分の体のサイズを鉛筆で記録した。

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