清めの時間2
ドロップアウター:作

■ がんばります……2

 途中どうしても、少女は恥ずかしい部分を隠しがちになったが、医師に注意されると素直に手をよけた。その姿が痛々しい。
「次は、股下を測るよ」
 医師がまた香帆に告げて、彼女の前でしゃがみ込んだ。少女は、医師に下から股間をのぞき込まれる格好になり、ますます不安げな表情を浮かべた。
「足を肩幅くらい広げなさい」
「えぇ、足を……」
 かなり屈辱的な指示だった。今の状態で言われた通りにすれば、男性の医師に女性器の中まで見られてしまう。体を隠すことが許されない少女は、両手を腰に当てて、泣きそうな顔になった。
 それでも、香帆はゆっくりと足を左右に開いて、命じられた通りの姿勢になった。ただ、やはり耐えがたいらしく、少女は両手で股間を押さえた。
「ちゃんと見せて。両手はちゃんと、バンザイしてなさい」
「はい……あっ」
 医師は無慈悲にも、香帆の両手首をつかんで、下半身から引き剥がした。
 乱暴に腕をつかまれ、香帆は痛そうに顔をしかめた。だが、少女は健気にも「ごめんなさい」と謝り、また言われた通りに両手を挙げた。
「そのまま動かないで」
「はい……」
 さすがに動揺は隠せなかった。少女は涙声になり、膝がさっきよりも大きく震えた。
 医師は、指でメジャーをぴんと張り、その先を香帆の内腿にあてがった。その手が、少女のまだ幼い恥部に触れる。
「……やっ」
 小さく悲鳴を上げ、香帆はとうとう泣き始めた。涙がこぼれ落ちるが、それを拭うことも今は許されない。
 医師は、香帆の内腿にあてがったメジャーを踵まで伸ばし、股下の長さを測った。
 香帆の膝が震えているせいか、医師はなかなかメジャーを固定させることができなかった。その間、彼の親指と人差し指の辺りが、ずっと少女の陰裂に触れたままだった。
 相手の指を避けようとして、香帆はどうしても足を閉じようとしてしまう。その度に注意され、かえって股間を触られている時間が長くなった。
 医師が数値を読み上げ、ようやく恥部から手を離すと、香帆は自分の股下の長さをさっきの紙に書き込んだ。
 鉛筆を置いて、香帆は涙を拭った。まだショックが残っているのか、すすり泣く声が漏れた。呼吸を整えるように、少女は大きくため息をついた。

 そうしてこちらに向き直ると、香帆はすぐに両手を使って、また胸と股間を隠した。すでに全部見られてはいるが、だから慣れるというものではないらしい。
 次は、私が少女に命じた。
「今度はね、青山さん……声に出して、今自分で書いたことを読みなさい。紙は、ちゃんと両手で持って」
「はい……あの、やっぱり……両手で持つんですか?」
 今回も、香帆は両手を使うということを気にした。せっかく隠したのに、また全身を露出させられてしまうからだ。
「何度も言わせないで」
 私は冷たく言った。
「これは儀式なんだから。ちゃんと、決められた手順通りにしなきゃいけないわ。辛くても、我慢しなきゃ」
「……はい、ごめんなさい」
 涙声のまま、少女は素直に頭を下げた。
「返事はいいから、急ぎなさい。もう十五分も経っているわ」
 香帆の華奢な肩をつかんで、私は彼女を急かした。
「紙は両手でまっすぐ持って。それと、肘はわき腹にくっつけて、背筋を伸ばすのよ」
「はいっ」
 少し怯えた声で返事すると、香帆はうつむき加減になり、さっきのように両手を体から離した。そして、言われた通りの姿勢で紙を持ち、消え入りそうな声を発した。
「……読みます。えっと……いっ、一年A組、青山……」
「やり直し! 声が小さいわ。それと、もっと胸を張って」
「あっ、はい……ごめんなさい」
 私が無慈悲に叱責すると、香帆はまた涙声になった。それでも指示に従い、もう一度読んでいった……

「……一年A組、青山香帆。今日、わたしは初めて『清めの時間』という儀式に参加しています。
 今の気持ちは……とても恥ずかしいし、それに怖いです。でも、辛いのは自分一人だけじゃありません。わたしの友達も、先輩方も、みんな……泣きながら我慢したそうです。だから、わたしも逃げちゃいけないんだって、自分に言い聞かせています。
 わたしもこの先、たくさん泣いてしまうかもしれません。でも、頑張って最後まで儀式を終わらせようと思っています」

 意外にもしっかりした声で、少女は読み進めた。だが、途中何度か落ち着きなく体を揺らした。読んでいる間、もちろん乳房と股間は丸見えになってしまうから、それを意識してしまうのだろう。
 追い打ちをかけるように、私はまた少女に指示した。
「青山さん、その下も読みなさい」
「えっ……あの、下って……」
「さっき頑張って、体のサイズ書き込んだでしょう?」
「あ……でも」
「いいから、言われた通りにしなさい」
「……はい」
 相手の戸惑いを無視して、私は強引に命じた。
「えと……き、胸囲……」
 少女は、気の毒なほど頬を赤く染めて、震える声で読み始めた。
「……トップ、72・1。アンダー、64・7……ウエスト、ご……59」
 私は、香帆のデリケートな体のサイズを、本人にわざと声に出して読ませた。恥ずかしい体の部分だから、少女は何度も声を詰まらせた。
「ヒップ、88……ま、股下……」
 それでも、香帆は読むのを止めようとはしなかった。こちらが見ていて痛々しいほど、少女は今の試練を精一杯受け入れようとしていた。
 香帆が何とか読み終えると、私は紙を一旦預かり、そして彼女の耳元でささやいた。
「……また、痛いことするからね」
「えっ、あ……」
 香帆は、一瞬表情をこわばらせたが、すぐにきっぱりと答えた。
「……はい、がんばります」

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