清めの時間
ドロップアウター:作

■ 2

「条件、ですか?」
 わたしが聞くと、養護の先生は「うん、それはね」と答えました。
「この『清めの時間』に参加しなかった娘は、参加した娘と六十日間、話してはいけないことになっているのよ」
 私は一瞬、言葉を失いました。それは、裸にされて辱めを受けること以上に、私にとって耐えがたいことのように思えました。
「清めを受けていない少女は、あの娘に祟られる。祟られた者と関わりを持つと、関わった者も祟られるってわけ。バカげた迷信よね。でも、そういう決まりだから、どうすることもできないの」
 何も返すことができなくて、ただため息をついていました。
 養護の先生は、なぐさめるに言いました。
「どちらにしても、きついわよね。でも、あなたがこの学校で生活していく以上、どうしようもないの。どちらか一つ選ばなきゃいけないのよ。どっちを選ぶのか、この二日間じっくり考えなさい」

 それから二日間、私は悩みました。こんなこと友達には相談できないし、両親にも言えません。裸にされて体中を触られるなんて、想像しただけで気が変になりそうです。かといって、二ヶ月も友達から無視されるのも、耐えられそうにありません。
 すごく悩んで……私は、「清めの時間」に参加することを決めました。
 二ヶ月間、せっかく仲良くなった友達に無視されるくらいなら、あえて辱めを受けようって……。


 そして、「清めの時間」当日の朝、わたしは恵美ちゃんに覚悟を決めたことを伝えました。
「そんなの、やだ……」
 恵美ちゃんは、泣きそうな顔で言いました。
「玲ちゃんがあんなひどいことされるの、見たくない……」
「でも、恵美ちゃんだっておんなじことされるんだよ」
「あたしは小学校の5年生の時から経験してるから、慣れてるもん。すごい嫌だったけど、みんな一緒だし、お母さんにも、この町の女はあれを経験して大人になるんだって。でも玲ちゃんはこの町で育ったわけじゃないし、だから……あたし達の巻き添えになることなんかないって」
 わたしは、恵美ちゃんの肩をぽんとたたいて、微笑んでみせました。
「ありがとう、恵美ちゃんは優しいね。その気持ちだけでもうれしいよ。でも……」
 うれしかったけれど、でも恵美ちゃんには、わたしの気持ちは分からないと思います。
「わたし、二ヶ月も恵美ちゃん達に無視されるの、耐えられないよ。仲間はずれにされるなんて、いやだから」
「そりゃあそういう決まりだけど、でも、先生達が見てないところだったら大丈夫だから。こんな嫌なこと、逃げたからって誰も本気で玲ちゃんのこと責めないと思うし、だから」
「恵美ちゃんごめん、ほんとにごめんね。わたし……」
 みんなつらい思いをしなきゃいけないのに、自分一人だけ逃げるなんて、そんなの……そんなの、いや!
「とにかくもう決めたことだから。だからお願い、もう何も言わないで」
 私は恵美ちゃんを廊下に残したまま、きびすを返して教室に戻りました。
「玲ちゃん……」
 恵美ちゃんの涙声が聞こえました。

 わたしは……わたしは本当に、ばかです。でも、許してもらえるでしょう? 責任は、ちゃんと自分で取るつもりなんだから……。

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