清めの時間
ドロップアウター:作

■ 8

「あ、あたしの……指が?」
 美佐が面食らった顔をしたので、わたしは気まずくなって、恥ずかしくて、うつむいてしまいました。
 ああ、言っちゃった。どうして、どうしてわたし、こんな恥ずかしいこと口に出しちゃったんだろう……。
 しまったと思ったけれど、もう止めることはできませんでした。わたしはそのまま話を続けました。
「う、うん。美佐の指って、ひんやりしてて、やわらかくて、だから触ってもらうとすごく気持ちがいいの。だから……むしろわたしが、美佐に触ってほしい」
 一気にしゃべって、おそるおそる顔を上げると、美佐が優しく笑っていました。
「うれしい。玲ちゃんに指、ほめてもらえるなんて。あたしも、自分の体で一番、指が好きなんだよね」
「よかった。でも、変なこと言ってごめんね。何だかわたしの方が……レズみたい」
「あははっ。たしかに、さっきの言い方はレズっぽいよね。でも、もし玲ちゃんがレズで、あたしのこと好きだって言ったら、迷いそう。玲ちゃん、すごくいい子だし」
 わたしは、しばらく何も言えずにいました。乳首を触られた刺激が思ったよりも強くて、頭が少しぼんやりしていました。
「……きゃっ」
 わたしは、小さく悲鳴を上げました。美佐が、ふいにわたしの左右の乳房を、両手でがっとつかんできたんです。
 美佐は、「予行演習、しよっか?」と言って微笑しました。
「えっ、予行演習?」
「うん。この後、お払いをするから……玲ちゃん、不安がってたでしょ? だから今のうちに、少し慣れてもらおうと思って」
「あっうん……」
 わたしは、幼子のように、こくんとうなずきました。

「じゃあ時間ないから、始めるね……」
 美佐はそう言って、わたしの左右の乳房を、両手をつかって強くもみ始めました。
「んっ、くぅ……んあぁ………」
 さっきと違って、乳房を強く押されているので、ちょっと痛くて、わたしは何度も何度もうめき声を漏らしてしまいました。
 でも、そのうち、だんだん気持ちよく感じるようになってきて、股間が熱くなってきました。
「ふふっ、あたしも最後に思い切り玲ちゃんの胸さわれてよかった」
 そんなことを言いながら、美佐は乳房をもみ続けて、時々、乳首も指先でなでたりつまんだりして弄りました。
 乱暴に体を触られるお祓いの予行演習だと言ったのに、美佐の手つきは力は強かったけれど、優しくて、すごく気持ちがよかったです。
「玲ちゃんどう? あたしの指、きもちい?」
「う、うん。でも、これじゃあお祓いの……よ、予行演習には、ならないんじゃ……」
「だって、玲ちゃんのかわいい胸を乱暴に弄くり回すなんて、もったいなくてできないよ。玲ちゃんはあたしの指が好きだって言ってくれたけど、あたしは玲ちゃんのやわらかいおっぱいがすごい好きだから。こうやって触ってるとすごいきもちい……」
「やだ……変なこと、言わないでよ。恥ずかしいよ……んくっ、あぁ…………」
 正直に言うと、わたしは興奮していました。美佐の指の、ひんやりとしてやわらかい感触を、ずっと、ずっとこの体に感じていかったです。

 だって、だってこうしていれば……嫌なことも、不安なことも、怖いことも、全部忘れていられる気がしたから……。


 わたしの乳房から手を離して、美佐は、わたしの肩をぽんっと叩きました。
「玲ちゃん、そろそろ行こっか」
「う、うん……」
 美佐に促されて、わたしは、さっきのように衣服で胸元を押さえるようにして、立ち上がりました。
 その時、ふと……まぶたから、涙がこぼれ落ちました。

「れ、玲ちゃん……どうしたの?」
 わたしを怪訝そうに見つめる美佐の姿が、かすんで見えました。
「ううん、なんでも……ない」
 泣いてはいけないと思って、こらえようとしても、涙はあとからあとからあふれ出てきました。
 美佐は、こくっとうなずいて、またわたしの肩をぽんっと優しく叩きました。
「とにかく、行こっか」
 そう促されて、わたしは美佐と並んで、1年生の女子がクラスごとに輪になって座っている、空き地の中央に向かって歩き始めました。

 また少し、雨が強くなってきました。
 雨に濡れて、パンツが皮膚に張りついている感触があったので、見てみると、パンツが股間のワレメに少し食い込んで、形が浮き出てしまっていました。慌てて、美佐に見られないように、少し引っぱって直しました。幸い、恥ずかしいところが透けて見えてはいなかったので、ほっとしました。
 涙が出なくなってきたので、わたしは美佐に言いました。
「ごめん……ね。急に、泣いたりして」
 美佐は、ふっと息をつきました。
「それぐらいであやまることないよ。あたしがあやまるんなら分かるけど。あたし玲ちゃんに、変なことしちゃったし」
「大丈夫。気にしないで。変なことされたなんて、思ってないから。わたし本当に、気持ちよかったから」
 目元の涙をぬぐって、少し笑ってみせました。
「だから……美佐さえよかったら、これからいくらでも触らせてあげるよ。今度は胸だけじゃなくて、背中とか、肩とか、お尻とかも」
「あははっ」
 美佐は、笑いました。
「そういうのも、いいかもね。玲ちゃんきれいな体してるから、他のところも触り心地良さそうだし。でも……」
 ふっと笑いを引っ込めて、美佐は言いました。
「それより、少し落ち着こうよ。やっぱり玲ちゃん……ちょっと変だよ」
 ふと、下の方を見てみると、さっき服を脱いだ時みたいに、膝が震えていました。膝だけじゃなく、衣服で胸元を押さえている両手も、小刻みに震えていました。
 自分の異変に、わたしは美佐に言われるまで気づかなかったんです。何だか怖くなって、背筋に寒気を感じました。
 美佐は、少しうつむいて、ぽつりと言いました。
「泣きたかったら、泣けばいいのに」
 わたしは何も言えませんでした。美佐は、そのまま話を続けました。
「我慢できることならいいんだけど、今日のことは……初めての子には我慢できないこともたくさんあると思うから。だから、泣きたかったら、我慢しないで思い切り泣いていいと思うよ」
 足を止めて、わたしは軽く息を吸い込みました。

 なぜか、唐突に……プールの匂いを、思い出しました。
 わたしはその時、自分が本当は何を恐れているのかということに、やっと気づきました。辱めを受けることよりも、もっと別のことを…………。

「ねえ美佐……わたしの体、よごれてなかったよね?」
 独り言のように、わたしはそんな言葉を口にしていました。
「えっ、玲ちゃん……何を」
「もしよごれてなかったら、わたしを……」
 まばたきをすると、また、涙がこぼれ落ちてきました。
「わたしを一人に、しないで……」
 そう言い切って、わたしは両手で顔を覆って泣きました。今までこらえていたものが、一気にあふれ出てしまったような感じでした。
「れ、玲ちゃん……どうしたの? どうしたの?」
 美佐に肩を揺すられても、もうどうしようもありませんでした。幼い子どもみたいに、わたしはしゃくり上げて泣き続けました。

 この時はもう、自分でもわけが分からなくなっていました。ただ頭の中で、ずっと忘れようとしていた言葉が、何度も何度も響いていました。

「……あんたの体、きったなぁい。あんたみたいな子、一人ぼっちになって、死んじゃえばいいのに」

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊