清めの時間
ドロップアウター:作

■ 18

「まずは、さっきお辞儀をした時みたいに、背中を地面と水平になるように曲げて」
 兵藤先生が、地面に引かれた線を指さして言いました。
 胸を両腕で隠したまま、わたしは言われたとおりに、背中を前に傾けました。
「こっ、こんな感じですか?」
「そう。それから、両手を下ろして……左手の甲と右手のひらを重ねて、体の前でだらんと下げて」
「あっ、はい」
 また胸を見られてしまうから、ちょっとためらってしまったけれど、わたしは指示に従って、両腕を体の前で下げて、右手のひらと左手の甲を重ねました。
「こう……ですか?」
 少し声が震えてしまいました。

「そう、いい姿勢よ。そのまましばらく動かないで」
「はい」
 いよいよだって思うと、すごく緊張して……膝が、がくがく震え出しました。
「それじゃあ、鈴木先生、お願いします」
「分かりました」
 少しきゅうくつな姿勢でした。背中を前に傾けているので、先生達の声は聞こえるけれど、顔が見えません。
「北本」
 ふいに、鈴木先生に呼ばれて、びくっとしました。
 鈴木先生は、わたしの背後に回りました。
「すまん……な」
 えっ、何がですか?
「……あっ、いっ……いや!」
 思わず、声を上げてしまいました。
 鈴木先生は、わたしのおしりの前でしゃがみ込んで、パンツの裾を両手の親指と人差し指でつまんで、少しずつ下げ始めたんです。
「あっ……ああ……」
 いやっ、いやぁ、男の先生にまで……あんな、あんな恥ずかしいところ、見られたくない……!
 全部脱がされると思って、わたしは一瞬目をつむってしまいました。
 でも……先生は、パンツを下腹部のあたりまで下げると、手を離してくれました。もう少しで股間のたて筋が見えてしまうところだったので、ほっとしました。それでも、後ろの方はおしりが半分くらい見えてしまっていて、皮膚が風になぶられる感触があって、恥ずかしくて顔が熱くなりました。
 少しぼうっとしていると、兵藤先生に呼ばれました。
「北本さん」
「はっはい……」
「まだ何も始まってないんだから、そんなに泣きそうな顔しないで」
「はい、すみません……」
「今のはね、下着をちょっと下げて、ずぶ濡れになってしまわないようにしただけだから」
「えっ、ずぶ濡れって……」
 その時、ひしゃくで水をすくう音が聞こえました。
「……そう、まずはこの『清めの水』で、体に憑いたけがれを、洗い落とすのよ」
 兵藤先生がそう言うと、鈴木先生が、ひしゃくをわたしの背中の上に掲げました。そして……。
「ひゃっ」
 わたしは悲鳴を上げました。
 鈴木先生が、わたしの首筋のあたりに、氷の混じった冷たい水をかけました。
「動かないで。じっとしてなさい」
 兵藤先生が、厳しく言いました。
 鈴木先生は、続けざまに何度も、何度も、わたしの体に水をかけました。首筋、肩、背中、両腕、腰、両足と色んなところに。パンツにも水がかかって、少し濡れてしまいました。まだ氷が溶けきっていない水はすごく冷たくて、痛いような感じがしました。
「んくっ、はぁ……はぁ……」
 そうして、二十回近く水をかけられたでしょうか。ようやく、鈴木先生がバケツの中にひしゃくを戻しました。
「北本さん」
 また、兵藤先生がわたしを呼びました。
「顔を上げて、背筋を伸ばして」
「はっ、はい」
 指示に従って、わたしは顔を上げて、背筋を伸ばして立ちました。でも、さっきみたいに胸の前で両腕を組もうとすると、先生に「両腕は体の横にくっつけて」と言われて、隠すことができませんでした。
 また、鈴木先生が、わたしの背後に回りました。
「それじゃあ……これから『お祓い』を始めるわね」
 兵藤先生が、そう告げました。
「鈴木先生、やり方は他の生徒と同じ要領でお願いします。この子が初めてだからって、変な手加減はしないように」
「分かりました」
 鈴木先生の吐息が、首筋のあたりにかかって、わたしはその時……怖くなりました。これから、この人に……男の人に、初めて体を触られるんです。そう思うと、すごく不安で……。
「北本さん」
「えっあっ」
 もう、しっかりと返事をすることもできません。それくらい、わたしは動揺していました。
「両腕をね、ちょっと体から離して。こう……少し広げるように」
「はっはい……」
 それでも言われたとおり、わたしは体から、両腕を少し離しました。
 すると……左右のわきの下から、鈴木先生の両手が伸びてきました。そして……先生は、わたしの左右の乳房を、両手で強くつかみました。
「んくっ、くぅ……うぅ……」
 思わず、先生の手を振りほどこうとして、肩を揺さぶってしまいました。でも、そうやって動くと乳房が引っ張られて、痛くなりました。
 まばたきをすると、また……涙が、こぼれ落ちました。

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