清めの時間
ドロップアウター:作

■ 19

 同じだ、あの時と……。
 背後から羽交い締めにされて、動けなくなったわたしは、そんなふうに思いました。
 今さら、逃げることはできません。何をされても、受け入れるしかないんです。
 だから、わたしなんか……もう、どうにでもして下さい。どんなに、つらくても……耐えればいいんでしょう?

 わたしは、あの時と同じように……ふっと、体の力を抜きました。

「……んくぅ」
 鈴木先生が、いきなり……わたしの乳首を、親指と人指し指で強くつまみました。
「んん、んくっ……あぐっ……」
 そうして、指先で何度も、何度も刺激しました。
「くぅ……いっ、いたっ……痛い……」
 痛くて、息が苦しくて……わたしはうめき声を上げました。
「耐えなさい。耐えるのよ、北本さん」
 兵藤先生が、厳しく言いました。
「苦しいのは分かるわ。でも、これが『お祓いの儀式』なのよ。泣いてもいいから……がんばって、耐えなさい」
「んん、んくっ……はっ、はいっ……」
 続けて、鈴木先生が、わたしの乳房を両手の指先でもみ始めました。指先に強く力を込めて、押しつぶすように……。
「あぐぅ!」
 激痛に、わたしはまた、悲鳴を上げました。生理中で胸が張っていたら、もっと痛かったかもしれません。
「くぅ……んくっ、あぐっ……はぁ……はぁ……」
 呼吸が乱れて、もう何がなんだか分からなくなってしまいそうでした。
 美佐に優しくもまれた時のような快感は、少しもありませんでした。大人の男の人の力は、想像以上に強くて……痛くて、痛くて、乳房がちぎれてしまうんじゃないかって思ってしまいました。
 それから、鈴木先生は……両手を下の方に移動させて、お腹を指先で強く押し始めました。
「ふぅ……ふぅ……んくっ」
 胸よりは痛くないけれど、でも今度は、息が苦しくなってきて……。
「うぐっ……」
 ふいに、先生の指がみぞおちに入って……一瞬、呼吸ができなくなりました。
「くぅ……けほっ、けほっ……けほっ……」
 思わず、両手で胸元を押さえて、激しく咳き込みました。
「北本!」
 鈴木先生が、さすがに手を止めて、背後から呼びました。ちょっと前につんのめりそうになったけれど、鈴木先生にお腹を支えてもらう格好になって、倒れずに済みました。
「けほっ、けほっ……はぁ……はぁ……」
「大丈夫か、北本」
「はぁ……はぁ……せっ、先生……」
 まだみぞおちが痛くて、苦しかったけれど、どうにか声を絞り出して、言いました。
「だめ、です……やめ……ないで……下さい」
「きっ、北本……何を」
「続けて下さい! ここで止められたら、わたし、わたし……」
 わたしは、必死に言いました。
「鈴木先生」
 兵藤先生が、言いました。
「この子の言うとおり、このまま儀式を続けて下さい」
「で、ですが……北本はこんなに、苦しそうに……」
「この子が健康面で問題ないことは、私がさっき確認済みです。それに、さっきこの子にも言ったとおり、よほどのことがない限りは、儀式を中断することはできないの」
「しかし、兵藤先生」
「もし、このまま儀式を中断すれば……この子がどんなつらいペナルティを課せられるか、先生もご存じのはずでしょう?」

 わたしは、二人の先生のやり取りに割り込んで、言いました。
「このまま、続けて下さい。お願いします」
「北本、しかしなぁ……」
「心配しないで下さい。わたし……何をされても、耐えますから」
 涙混じりの声になってしまいました。
 鈴木先生が黙り込んでしまうと、兵藤先生が言いました。
「鈴木先生、この子の担任としてよく考えてみて下さい。何が、本当にこの子のためになるのかを」
 少し経って……鈴木先生は、低い声で言いました。
「分かりました。このまま、儀式を続けます」
 その言葉を聞いて、わたしは、ほっとしました。
 でも、そのすぐ後……先生の指が下腹部に食い込んだので、わたしは悲鳴を上げました。
「んっ……あぐっ!」

 ああ、わたし……マゾなのかな。だから、あんなふうにいじめられたりするのかな……。
 だって、おかしいでしょう? こんなに恥ずかしくて痛いことを、もっと続けて欲しいって必死に頼むなんて……。

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