清めの時間
ドロップアウター:作

■ 22

 あたしは、今日初めて、玲ちゃんの裸を見た。体つきはきゃしゃなのに、玲ちゃんは、きゃしゃな体つきなのに、胸はけっこう大きくて、肌が透きとおるように白くて……すごくきれいだった。
 でも、それ以上に……パンツ1枚だけの裸にされた玲ちゃんは、すごく痛々しかった。
 空き地を出てから、玲ちゃんはずっと……右腕で胸を隠して、恥ずかしそうに頬を赤らめていた。「お祓い」を受けてまだ少し痛むのか、時々胸を右手でさすったりしていた。
 玲ちゃんのそんな姿を見ているのが、あたしはつらかった。でも、あたしにはもう止めることはできなかった。
 玲ちゃんが不登校だったことを思い出して、あたしはやっと、玲ちゃんが「清めの時間」に参加し続ける理由が分かった。
 玲ちゃんは、きっと……ひとりになりたくないんだって。ずっと学校に行けなくて、寂しい思いをしてきたから、どんなにつらくても、みんなと一緒にいたいんだって。
 それが分かって、あたしは……もっと切なくなった。

 あたし達は、砂利道を五分くらい歩いて、やっと山の入り口の前にたどり着いた。
 山の入り口には、小さな鳥居が立っていて、奥の方に細い山道がずっと上まで伸びている。
 山道をずっと登っていくと、小さな泉があって、そこで……最後の儀式をすることになっている。
「十分間休憩します」
 養護の先生がそう告げると、玲ちゃんは右腕で乳房を押さえたまま、その場にしゃがみ込んでしまった。
「大丈夫?」
「うん。ちょっと……疲れちゃって」
 そう言って、玲ちゃんは息を弾ませた。
 養護の先生が、続けて言った。
「風邪を引いてしまうといけないので、休憩時間の間は服を着てもいいです」
 玲ちゃんは、それを聞いて……ほうっとため息をついて、心の底からほっとしたという表情になった。
 ブラジャーを着ける玲ちゃんを見て、あたしは……また切なくなった。休憩時間が終われば、どうせ……すぐに脱がされてしまうというのに。

   ※

 鳥居のちょっと手前に、公衆トイレと小さな水飲み場があって、わたし達は、しばらくそこで休憩することになりました。
 わたしは、恵美ちゃんと一緒に服を着ました。ブラジャーと、シャツの感触にほっとしました。やっと恥ずかしいところを隠すことができます。休憩時間が終われば、またすぐに脱がなきゃいけなくなるんだろうなって分かってたけれど、それでも……ありがたかったです。
 バドミントン部に所属している恵美ちゃんは、ピンク色のスポーツブラをしていました。「かわいいね」って言うと、恵美ちゃんは「やだ、恥ずかしいよ」と言って、うつむきました。でもその後、「このまえ、お母さんに買ってもらったんだ」と言って、何だかうれしそうにちょっと笑いました。
 そういえば、恵美ちゃんは体のことで悩んでたんだって、思い出しました。
 内科検診の時、わたしは初めて、恵美ちゃんの裸を見ました。
 恵美ちゃんの体は、たしかに、わたしが小学校の四、五年生の頃とそんなに変わりません。別に、発育が遅いことが悪いというわけではないんだけれど、女の子だから、やっぱりそういうことを気にしてしまうんです。わたしだって……。
 恵美ちゃんが悩んでしまう気持ちは、わたしにも分かります。わたしは恵美ちゃんのように、発育の遅い早いを気にしているわけではないけれど……わたしはそのことで、いじめられて、嫌なことをされたから……。


 こんなものがあるから、あんなひどいことされたんだ……。
 家の脱衣室で、パンツの上から股間にそっと手を当てて、手のひらに恥毛の感触を覚えたわたしは……そんなことを思いました。
 あのプールでの出来事から、一週間……わたしは、家の外に出ることさえできませんでした。家族以外の人に会うのが怖くなって、すごく体が重くて、ご飯も食べられなくて……一日のほとんどを部屋の中で過ごしていました。
 あれは、学校を休むようになって三日目のことでした。
 平日だったので、両親は仕事に出ていて、あたしは一人家にいました。部屋の中で、ベッドで横になっていたけれど、プールで水着を脱がされたこととか、クラスのみんなに言われたこととか、そういうのがずっと頭から離れなくて、眠ることもできませんでした。
 そのうち、体がかゆくなってきて……でもシャワーを浴びる元気もなくて、下着だけでも替えようと思って、わたしは替えのブラジャーとパンツと持って部屋を出ました。
 脱衣室で、パジャマの上は脱がないで、ブラジャーだけを取って籠の中に入れました。それからズボンを脱いで、パンツも取ろうと思って指をかけました。その時……ばかみたいだけれど、恥毛の「生え方が気持ち悪い。病気じゃないの」って言われたことを思い出してしまって、わたしは両耳を押さえてその場にしゃがみ込みました。
 わたしは、股間にそっと右手を当てました。下着の上からだけど、手のひらに恥毛の感触があって……わたしは思いました。
 こんなものが……こんなものがあるから、あんなひどいことされたんだ……。
 脱衣室の奥の、ドアの開いている浴室をちらっと見ると、母が使っている安全カミソリがタイルの上に落ちていました。
 わたしは、ほとんど衝動的に……パンツを脱ぎ捨てて、浴室に入って安全カミソリを拾い上げました。そして……上着の裾をまくって、シャワーの水で股間を濡らしてから、股間の恥毛の生えている部分に、カミソリを当てました。

 大丈夫……そんなに大したことじゃない。生えてない時の状態に戻すだけなんだから……。
 そうして、わたしは恥毛を剃り始めました。少しも残さないように、カミソリを何回も何回も動かしました。カミソリ負けをして少し痛かったけれど、そのまま続けました。
 恥毛がなくなれば、プールでのことを忘れられると思ったんです。
 シャワーの水で洗い流すと、ひどくしみて、わたしは股間を右手で押さえました。
 その時……人指し指の先が、たて筋の中にちょっと食い込んで、股間が熱くなるような、むずがゆくなるような、変な感触を覚えました。
 そのまま、指先をワレメの線に沿って上下に動かすと、ぬるっとした液がにじみ出てきて……気持ちがいいような、興奮するような感じがしました。
 ちょっとびっくりしたけれど、わたしはそのまま指先を上下に動かしていきました。すると息が荒くなってきて、「くふっ……」と声を漏らしてしまいました。何となく、いけないことをしているような気もしたけれど、嫌なことを忘れるにはいいと思って、やめずに続けました。
「あっ……くふっ……んん……」
 何度も、うめき声が漏れました。
 指先が、自然とワレメの奥の方に少しずつ入っていきました。そうしていると、しびれるような快感がわき出てきました。
 でも、そのうち股間が少し痛くなったので、やめました。指をワレメから引き抜いた時には、股間がぬるっとした液でぐっしょりと濡れていました。
「んくっ……はぁ……はぁ……はぁ……」
 息が荒くなっていたので、落ちつくまでしばらくじっとしていました。
 パジャマの上着がだいぶ水に濡れてしまっていたので、わたしは上着も脱いで、そのままシャワーを浴びることにしました。
 シャワーを浴びながら、わたしは、自分がボロキレのように思えてきて……泣いていました。

 あの日から、生えてきた乳毛を全部剃ってしまうのが、習慣になってしまいました。プールでのことが今でも忘れられないから、やめることができないんです……。
 時々……股間を弄ったりもしています。どうしても気分が落ち込んでしまう時に、シャワーを浴びながら。いけないことだって分かってはいるけれど、こうしていると少しでも嫌なことを忘れることができるって、知ってしまったから……。

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