清めの時間
ドロップアウター:作

■ 24

 これから、また服を脱がなきゃいけないんだ。パンツ1枚にならなきゃいけないんだ。そう思うと、憂うつになりました。後ろの方には、B組の生徒が十五人くらい座っています。みんな女の子だけれど、やっぱり人前で服を脱いで、裸を見られるのは、恥ずかしくて……
 何だか、内科検診を思い出しました。
 恥ずかしいけれど……今は我慢して、ちゃんと脱がなきゃ。あの時みたいにぐずぐずしてたら、またみんなに迷惑かけてしまう。だから、今度は耐えなきゃ。裸にされて嫌なのは、みんな一緒なんだから……自分にそう言い聞かせました。
「……ああ、ちょっと待って」
 シャツの裾に手をかけたところで、わたしはふいに、宮下先生に呼び止められました。
「はい……」
 先生は、意外なことを言いました。
「脱ぐのは、今は上だけでいいわ。短パンははいたままで」
「えっ、どうしてですか?」
「初めてだからよ。思春期の女の子がパンツ1枚になるのは、恥ずかしいでしょう? 初めての子には、それくらいの配慮はしてあげるわ」
 短パンを脱がなくていいなら、本当はありがたいです。上半身裸になるというだけでも恥ずかしいけれど、その上パンツまで見られてしまうのはそれ以上に嫌だから。でも……
「でも、みんなに悪いです」
 わたしがそう言うと、宮下先生はため息をつきました。
「あなたって、本当に真面目な子ね。でも、聞きなさい。初めての子に配慮するのは、恥ずかしいだろうからってだけじゃないのよ」
「えっ」
「女性の下半身は、露出させているとけがれが溜まりやすいのよ。他の子達は、定期的に『清めの時間』に参加しているからいいけど、初めての北本さんは、『お祓いの儀式』と『洗浄の儀式』だけでは落としきれないけがれが体に溜まっている可能性があるの。だからこれ以上溜めないように、短パンは脱がない方がいいのよ」
 わたしは、思わず唇をきゅっとかみしめました。けがれが溜まっているという先生の言い方に、胸の奥がずきっと痛みました。自分の体はよごれているんだって思いこんで、ずっと苦しんでいた時期を思い出して……すごく悔しかったです。
「……じゃあそろそろ、脱いで」
 先生に言われて、はっとしました。そうだ、こんなところでぐずぐずしている場合じゃないんだ……
「はい……」
 わたしは、一度大きく深呼吸して、それから……体操服のシャツの裾に両手をかけて、引き上げました。
 白いブラジャーだけの上半身が露わになって、わたしは後ろのB組の子達の視線が気になってしまいました。ちょっと屈み込んで、脱いだシャツを膝の上で軽く畳んで、鳥居の足の付近に置きました。
 それから、みんなに背を向けて、背中に両手を回して、ブラジャーのホックを外しました。
「あの子の純白のブラ、かわいい」
「まだ新しいよね」
 後ろの方で、B組の子達がひそひそ声で話しているのが聞こえて、顔が熱くなりました。でも、我慢して……ホックを外して、肩ひもを下げて、ブラジャーを体から離しました。
 わたしが上半身裸になると、またひそひそ言っているのが聞こえました。
「今の脱ぎ方、色っぽかったよね」
「オトコってああいう仕草に弱いんだよね。もしかしてわざとかな。彼氏の前で、ああいうことしてたりして」
「まさか。だってあの子、まだ何も知らなさそうな顔してるもん。それに、ここにいるの女子だけだよ」
 恥ずかしかったです。いじめられていた時のことを思い出して、ちょっとみじめな気持ちになりました。

 ブラジャーを畳んで、シャツの中にくるむようにして入れると、宮下先生に、背中をぽんと叩かれました。
「北本さん、こっちに来て」
「あっ、はい……」
 わたしが立ち上がると、先生は、またわたしの肩を抱くようにしました。そして……
 えっ、やだ……。
 わたしは先生に、B組の子達のすぐ目の前に連れて来られました。しかも、体の横を向けた状態で立たされました。これだと、乳房が丸見えになってしまいます。わたしは仕方なく、両腕を組んで胸を隠しました。
「北本さん、セクシー!」
「もう遅いよ。北本さんのおっぱいも、乳首も、見ちゃった」
「でも、恥じらいながら隠すのがセクシーだよね。そろそろオトコがほっとかないかも」
 またはやし立てられて、顔が火照ってきました。
 すると、宮下先生が、ビン詰めの脱脂綿を一つ取り出しました。
「泉に行く前に、ちょっとあなたの上半身を消毒しておくわね」
 わたしはびっくりしました。
 えっ、消毒? そんなこと、他のみんなにはしてなかったのに……
「じゃあ、両手を頭の後ろに組んで」
 やだ、胸が……見られちゃう!
「A組の子達が待ってるから、早くしようね」
「はっはい……」
 結局、わたしは言われるがまま、しぶしぶ両手を頭の後ろで組みました。
 B組の子達の前で、わたしの乳房が丸見えになってしまいました。
「ピンク色の乳首、かわいい!」
「おっぱい結構大きいんだね。こんなに細いのに」
 今度は、はっきりと聞こえる声で言われました。
 やだ、それ以上……言わないで。恥ずかしいよ……
 わたしは、ただ耐えるしかありませんでした。
 宮下先生は、何も言わずに……いきなり、わたしの右の乳首を脱脂綿で拭きました。
「ひゃっ」
 思わず、声を上げてしまいました。
 先生は、乳首を中心に円を描くように、わたしの右側の乳房を脱脂綿で拭いていきました。それが済むと、今度は左側も同じように。
 脱脂綿はアルコールを湿らせていて、ひんやりとして気持ちがよくて……乳首が少しずつ立ってきて……それも見られているから恥ずかしくて、ちょっと涙ぐんでしまいました。
「やだぁ、乳首立っちゃってるぅ! 感じてるんだぁ……」
「敏感なんだぁ。そういうのもオトコが好きそうだよね」
 やっぱりそんなことを言われて、涙がこぼれ落ちてきました。
 どうしてわたしだけ、こんなことを……
 次に、先生はわたしの右のわきを、脱脂綿でゴシゴシと拭き始めました。右が済むと、今度は左の方を……。
「くふっ……んひゃっ……」
 時々変な声を出してしまって、余計に恥ずかしくなりました。

 先生が、わたしの乳房とわきを拭き終わった頃には、わたしはちょっと息が荒れていました。涙が少し頬を伝っていました。
 先生は、わたしの体を拭いていた脱脂綿をビニール袋に入れると、汗がにじみ出てきたわたしのひたいを軽くなでて、言いました。
「ごめんなさいね、嫌な思いをさせて」
「い、いえ……でも、どうして……」
 そう言って、わたしがまた両手を組んで胸を隠すと……宮下先生は、低い声で言いました。
「悪く思わないでね。こういう配慮をしたのは、わけがあるの」
「わけ……ですか?」
「そう。あのね……」
 そして、先生は妙なことを言いました。

「あなたは、今日は……特別なんだから」

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