清めの時間
ドロップアウター:作

■ 25

 そして……わたしは上半身裸、素足の格好で、山の中を走らされました。今は人に見られているわけじゃないから、そんなに恥ずかしいとは思わないけれど、何となく落ちつきません。
 山道は緩やかな上り坂で、人が二人並んでやっと通れるくらいの細い道でした。両側に背の高い樹木が繁っていて、空がほとんど見えなくて、とても心細いです。
 胸の膨らみが、邪魔でした。走っていると、乳房が揺れてしまって、少し痛いんです。せめて、ブラジャーだけでも許してくれたらって思っていました。
 しばらく小降りになっていた雨が、また強く降り出してきました。肩とか背中が濡れて、少し寒いです。
 走り始めてまだ五分くらいしか経っていないのに、だんだん息が苦しくなってきました。恵美ちゃんみたいに運動部に入っていないから、あまり体力がないんです。そのうち、苦しいのを我慢しきれなくなって、わたしは山道の途中で立ち止まってしまいました。
 両膝に手をついて、呼吸を整えました。そうしていると、雨がどんどん強くなって、胸とかおなかも濡れて、おへその中にまで水が入ってきました。
 はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……んくっ……
 少し休んで、また走り始めました。まだ少し息が苦しいけれど、みんなを待たせてしまっているから、いつまでも休んでいるわけにはいきません。足もとがぬかるんでいるから、時々すべってよろけてしまいます。
 しばらくして、どこからか水の音が聞こえてきました。もうすぐかなって思っていると、前方の木の陰から、白衣を着た兵藤先生と、ジャージ姿の鈴木先生が出てきました。
 今さらだけれど、男の先生に裸を見られるのが恥ずかしくて……わたしは両腕を組んで、乳房を隠しました。それから、走るのをやめて、歩いて先生達のところに行きました。
 先生達の前に行くと、兵藤先生がわたしの髪をそっとなでました。
「まだ、恥ずかしいの?」
「はい。とっても……恥ずかしいです」
 兵藤先生に聞かれて、わたしは正直に答えました。先生の白衣はずぶ濡れになって、中に着ている服が透けて見えていました。
「珍しいわね。『清めの時間』が始まって大分経ってるから、普通は見られることに慣れてくる頃なのに」
 わたしはうつむいて、「ごめんなさい」と言いました。
「あやまることはないわよ。初めてだもんね。それに、女の子が恥じらいの気持ちを持っているっていうのは、すごく大切なことだから」
「はい……あっ」
 先生が、ふいにわたしの乳房の隠し切れていない上の部分に触れてきたので、びっくりして声を上げてしまいました。
「さっきちょっと痛い思いさせちゃったけど、まだ痛む?」
 先生は、乳房を軽く押したり、谷間の部分をたてになぞったりしながら言いました。
「い、いえ……くぅ……んふっ……だ、大丈夫です」
 また変な声を出してしまって、恥ずかしくなりました。
「そう、よかった」
 手を離して、兵藤先生は低い声で言いました。
「それにしても……あなた、よくここまで来られたわね」
「えっ」
 顔を上げると、先生は真顔に戻っていました。
「あなたのような真面目で羞恥心の強い子が、初めての『清めの時間』でここまで長くいられるとは思わなかったわ」
 一呼吸置いて、先生は言いました。
「ここまで来たら、もう逃げられないわよ。覚悟……しなさいね」
「はい……」
 口ではそう答えたけれど、本当は怖かったです。自分がこれから何をされるんだろうって考えたら、やっぱり……
「これから、お友達のところに連れてってあげる。ついて来なさい」
 そう言って、兵藤先生は微笑みました。

 そうして、わたしは兵藤先生に先導されて、少し手前で枝分かれしている細い道を歩いていきました。すぐ後ろを、鈴木先生がついて来ます。
 歩いていると、水の音がだんだん大きくなって、人の話し声も聞こえてきました。
「……あっ、そうだ」
 ふいに、兵藤先生が立ち止まって、わたしの方を振り向きました。
「北本さんは、短パンをまだはいているのね」
「あっ、はい。さっき、B組の宮下先生に言われて、脱ぐのは上だけでいいって」
「知っているわ。休み時間に私と宮下先生で相談して決めたの。初めてなんだから、せめてそれくらいの配慮はしてあげようって」
「あっ、ありがとうございます」
「ううん、別にパンティ一枚で山道を走らなきゃいけないっていうしきたりはないから……でも、時間短縮のために下も脱がせる習慣になっているみたいだから、あなたもここで脱いでもらった方がいいのかもしれないわね。でも、恥ずかしいよね?」
「……はい」
 上半身だけ裸の方が、まだマシです。おしりとか股間の形は下着の上からも分かるから、短パンも脱がされてパンツ1枚にされてしまったら、全裸とあまり変わらなくなってしまいます。だから、短パンを脱がなくてもいいのなら、このままでいたいです。
 もし……後になって、短パンもパンツも、全部脱がなきゃいけないんだとしても……
 兵藤先生は、言いました。
「じゃあ、任せるわ。脱いでも脱がなくても、どっちでもいいわよ」
「はい……」
 そっか、脱がなくていいんだ。よかった……
 先生に言われて、一瞬ほっとしたけれど……でも、何となく落ちつきませんでした。
 思い出してしまったんです。短パンをはいているのは自分だけだって。他の子はみんなパンツ1枚にされて、わたしよりももっと恥ずかしい思いをしているんだって……
「北本さん」
 先生に名前を呼ばれて、はっとしました。
「何を悩んでいるの? 脱がなくていいって言ってるじゃない。もう行くわよ」
「はっ、はい」
 パンツ1枚になるんだって考えたら、嫌だし恥ずかしいです。でも……
「せ、先生……あの」
 でも、初めてだからって自分だけ特別扱いしてもらうのは、みんなに悪くて……
 わたしは、ぽつりと言いました。
「……脱ぎます」

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