清めの時間
ドロップアウター:作

■ 29

 いやっ、こんなのいやぁ……人前で全裸なんて、恥ずかしいよ……
 パンツを脱いで、わたしは右腕で胸を、左手で股間を押さえて、その場でしゃがみ込みました。
 恥ずかしいと、何だか興奮しているような感じになるんです。そのせいで、股間が少し濡れていました。手のひらにぬるっとした感触があって、それが余計に恥ずかしくて……涙が止まらなくなってきました。
「パンツと短パンは、そこにみんなのと一緒にして置きなさい」
「はい」
 兵藤先生に言われて、胸を押さえながら右腕をどうにか伸ばして、パンツを拾って太ももの上に置きました。恥ずかしいところを隠すのに両手を使っているから、とてもきゅうくつで……涙を拭くこともできません。
「あっ」
 鈴木先生が、わたしが畳もうと思って太ももにのせたパンツを取り上げて、クラスのみんなに見せびらかすように、下着の両端をピンと張りました。男の人に目の前で自分の下着を触られて、気持ち悪くて……
「いやぁ……」
 鈴木先生は、わたしのパンツの中に少し指を入れて、一旦ゴムの部分を広げてから畳みました。その後、先生は短パンも拾い上げて、パンツと一緒にクラスのみんなの下着とまとめて一カ所に置きました。
「北本さん、こっちに来なさい」
 兵藤先生に呼ばれて、はっとしました。
 そうだ、行かなきゃ……わたしみんなを待たせているんだ……
「これから、『洗浄の儀式』を始めるわよ。こっちに来て、さっきの『お祓いの儀式』の時みたいに、お辞儀をするのよ。今度はクラスのみんなに向かってね」
 兵藤先生の言葉に、わたしは追い打ちをかけられたような気持ちになりました。
 みんなに向かってお辞儀って……さっきみたいに、両手を体の前で合わせて頭を下げるの? それじゃあ……恥ずかしいところを隠すこともできないじゃない。みんなに、おっぱいも、あそこも、見られちゃうんだ……いやっ、いやぁ……
 思わず、左側の乳房を右手で痛くなるくらい強くつかんでしまいました。
「さあ、そんなところでしゃがみ込んでないで。こっちに来なさい」
「はい……」
 泣き声で返事をしてしまいました。立とうとしたけれど、膝が震えてなかなか立つことができません。
 やだ、こんな格好見られたくない……
 それでも、わたしは両膝に力を入れて、何とか立ち上がりました。軽くめまいがして、ちょっとよろけてしまいました。
 行かなきゃ……みんなだって同じ思いしたんだから。どんなに恥ずかしいことをされても耐えるんだって、自分で決めたんだから……
 わたしは、両手で胸と股間を押さえたまま、一歩一歩前に進んでいきました。そうして、クラスのみんなが座っているすぐ手前に立ちました。
「そこに立ちなさい。かかとを揃えて」
「はい」
 鈴木先生が立つ位置を指さしたので、わたしはそこに足を置きました。少し顔を上げると、みんなの視線が自分に向いているのが分かって、顔が火照ってきました。
 一番前の列に、恵美ちゃんが座っていました。わたしが前に立つと、恵美ちゃんはつらそうな顔で、「玲ちゃん……」とつぶやきました。
 恵美ちゃんごめんね、ごめんね……
 心の中で、恵美ちゃんにあやまりました。わたしのこんな姿を見たくなかったから、恵美ちゃんはわたしが「清めの時間」に参加するのを止めようとしたんです。
「北本さん、何をもたもたしているの」
 兵藤先生が、厳しい口調で言いました。
「儀式を始めるわよ。早くお辞儀をしなさい」
「はっはい……すみません」
 そうだ、わたしがんばらなきゃ……恥ずかしくても、耐えなきゃ……
 一度目をつむって、大きく深呼吸しました。それから目を開けて、まず……乳房を押さえていた右腕を、体の横にゆっくりと下ろしました。
 左手……左手も下ろさないと、お辞儀できない。でも……
 股間をずっと押さえているせいか、さっきよりも濡れてきて……ぬるっとして左手がすべりそうでした。
 はぁ……はぁ……はぁ……んくっ……
 怖くて、恥ずかしくて……呼吸が荒くなってきました。
 みんな、お願い……わたしの体を見ても、何も言わないで。心の中でどう思ってもいいから、せめて何も言わないで。お願い……

 そうして……わたしは、股間を押さえていた左手を、思い切って離しました。
 とうとう、わたしが一番人に見られたくなかった部分が、恥毛のない女の子の部分が……露わになってしまいました。

 いやっ、見られちゃった……みんなに、あそこを見られちゃった……嫌だよ、恥ずかしいよ……
 人前で全裸にされたのは、あのプールの時以来でした。その時のことを思い出して、また……涙があふれ出てきました。

 両手をよけると、みんな少し驚いたような顔になりました。股間の辺りに視線を感じました。
 右肩をぽんと叩かれて、はっとしました。いつの間にか、兵藤先生がわたしの背後に回っていました。
 先生は、紙コップを持っていました。
「北本さん、忘れてるわよ」
「あっ……はい」
 そうだ、ここでお辞儀しなきゃいけなかったんだ。兵藤先生に言われて、やっと気づきました。
 わたしは「お祓いの儀式」の時と同じように、もう一度かかとをしっかりと揃えて、両手を体の前で合わせてました。それから、ゆっくりと頭を前に傾けていきました。
「よ、よろしくお願い……いたします……」
 また、泣き声になってしまってしまいました。
 頭を上げると、兵藤先生が紙コップを持って、わたしの体の横で屈み込みました。それから……
「んひゃっ」
 先生が下腹部をいきなりぱちんと叩いたので、びっくりして声を上げてしまいました。
 これから、何をされるんだろう……
「ごめんなさい、痛かった?」
「い、いえ……」
「あのね、これから泉の水で、あなたの体を清めるの。それが『洗浄の儀式』よ」
「はい」
 兵藤先生の今の話を聞いて、わたしは少しほっとしました。

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