清めの時間
ドロップアウター:作
■ 38
いいえ、わたしは……本当にばかです。
わたしは、罰がみんなと話せなくなることじゃないって聞いて、ほっとして……つい忘れてしまってたんです。これから、別の嫌なことをされるんだってことを……
「これから、あなたに罰を与えます」
兵藤先生が、静かに言いました。
「えっ、あっ……はい」
先生に言われて、わたしはやっと思い出しました。ひとりぼっちになることから逃れられただけで、罰を受けることに変わりはないんだって……
そう気づいたら、急に……怖くなってきました。
「罰というのはね」
「はい……」
「『お祓いの儀式』で落としたけがれを、もう一度あなたの体に戻すことよ」
「えっ、けがれを……」
わたしは、先生が言ったことの意味がよく分からなくて、戸惑いました。
「……しきたりによるとね」
先生は、話を続けました。
「『洗浄の儀式』はね、『清めの時間』が始まって二時間以内に終わらせなければいけないことになっているの。二時間が過ぎると、さっき空き地でやった『お祓いの儀式』の効力が消えて、祓い落としたモノが、また戻ってきてしまうの」
「はい……」
「それでね、祓い落としたモノが戻ってきてしまうと、『洗浄の儀式』で最後の仕上げとして、泉の水で残ったけがれを洗い流すことができなくなってしまうの。だから……けがれを祓い落とすことはもうあきらめて、全部体に戻さなきゃいけないの。それが、罰よ」
そこまで言って、先生は、わたしの裸の肩にぽんと右手をのせました。
「理不尽に思えるかもしれないけど、これもしきたりで決まっていることだから、仕方ないの。だから、我慢して罰を受けなさいね」
「はい、分かってます」
わたしは、少しうつむいて言いました。
「しきたりだから、仕方ないですよね……」
わたしが返事すると、先生は一瞬、にこっと微笑みました。
「分かってくれたみたいね。賢い子」
そう言って、また真顔に戻りました。
それから、先生は……ふいに、地面に置いてあった注射器を拾い上げて、先についている管を外しました。
わたしは、顔が火照ってきました。注射器の中には、まだわたしの尿が入っています。さっき、みんなの前でおしっこをさせられたこと、管を引き抜かれておしっこの穴から尿が飛び散ってしまったことを、思い出してしまいました。
どうして、こんなことするんだろう……罰と、何か関係があるのかな……
先生は、救急箱の傍に置いてあった紙コップを拾い上げて、尿を注射器から紙コップに移し始めました。注射器が空になると、先生はそれを地面に置いて、代わりにわたしの尿を入れた紙コップを、両手で抱えるようにして持ちました。
「さっき説明したとおり、これから……けがれをあなたの体に戻すからね」
先生はそう言って、尿の入った紙コップを持って、わたしのところに来ました。中を見ると、うすい黄色の液体がいっぱいに入っていて、わたしは少しみじめな気分になりました。
先生は、少し厳しい口調で言って、わたしに紙コップを差し出しました。
「受け取りなさい」
「はい……」
その時、わたしは気づいてしまいました。先生が、わたしにこれから何をさせようとしているのか……
わたしは、動揺しました。
もしかして……いやっ、そんなこと……
「それじゃあ、始めるわね」
兵藤先生が、紙コップを指さして言いました。
「紙コップの中の、あなたのけがれを……おしっこを、飲みなさい」
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