清めの時間
ドロップアウター:作

■ 40

 私は、玲に指示を出した。
「すぐ飲んじゃダメよ。口いっぱいに広げて、ちゃんと味をたしかめて」
 それは、玲の屈辱にさらに追い打ちをかけるものだった。この少女の清潔感を、少しでも汚してやりたかった。
「んくっ……うぅ……」
 苦しそうな声が漏れた。玲は、目にいっぱい涙を溜めて、唇を強くかんでいる。尿がただ口の中に入っているというだけでも、生理的な嫌悪感は相当なものだろう。それを味わって飲めということは、レイプされるに等しい屈辱かもしれない。
 だが、玲は逆らわなかった。ほんのりと赤く染まった頬をくぷっと膨らませて、言われたとおりに、尿を口いっぱいに広げて味わうようにした。
 思わずため息が漏れた。なんという従順さ、そして健気さだろう。級友とのつながりを守るために、そこまでするのか……
「さあ、飲みなさい」
 私は、厳しい口調で言った。逆らう意思のない少女を、さらに逃げ場のない方向に追いつめていくように。
「けがれを、自分の体に戻すのよ」
 そう、こういう少女こそ……「清めの時間」の、最後の生け贄にふさわしいのだ。
「んっ……んくぅ……」
 玲は、またも苦しそうにうめき声を漏らした。私は一瞬、玲が口の中の尿を吐き出してしまうのではないかと思った。
 だが、それに反して……少女は、まるで祈りを捧げるかのように、そっと目を閉じた。

 そして、玲は……ごくんと喉を鳴らして、自分の尿を飲んだ。

 尿を飲み込むと、玲はふいに、激しく咳き込んだ。そして、そのまま膝から崩れ落ちるように、その場に屈み込んでしまった。
 んくっ……けほっ、けほっ、けほっ、けほっ……くぅ……
 咳が止まると、玲は大きく息を吸い込んで、くはっと吐き出した。そうして、しばらくその場で深呼吸をくり返した。
 呼吸を整えるというよりは、口の中にこびりついているものの感触をかき消そうとするような息の仕方だった。舌先に残っている尿の味が、よほど嫌なのだろう。つらそうな表情で、何度も息を吐いては吸い、吸ってはまた吐き出した。
 私は、玲の背後にしゃがみ込んで、背中を右手でさすってやった。全裸で雨に打たれたせいで、少女のつややかな白い肌は、まるで陶器のようにひんやりと冷たかった。
「大丈夫?」
 声をかけると、玲はこくんとうなずいて、唇をゆっくりと動かした。
「だい、じょうぶ……です」
 言葉とは逆の、弱々しい声が返ってきた。苦しいだけじゃなく、かなり動揺してもいるのだろう。無理もない。自分の尿を飲まされるなんて、こんな風習にさえ参加しなければ、十二、三歳の少女が普通は経験しないことなのだから。
 私は、やや場違いなことを聞いてみることにした。
「どう、おいしかった?」
「えっ、何が……ですか?」
 玲が、少し息を弾ませながら、かすれた声で聞き返してきた。
 私は、にこっと微笑んで、言った。
「おしっこよ」
 玲は、「あっ……」と小さく声を漏らして、頬をほんのりと赤く染めた。さっきの自分の恥態を思い出してしまったのだろうか、唇をきゅっとかみしめて、うつむいてしまった。
 私は、たたみかけるように言った。
「答えなさい。おしっこの味、どうだったの? さっき、ちゃんと味わって飲んだんでしょう?」
 もちろん、これも辱めの一つだった。自分の尿を飲まされた屈辱を、そう簡単に忘れさせたくなかった。そうやって、少女の繊細な心を、じわりじわりといたぶっていくのだ。
「あ、あの……」
 玲が、何かを言いかけて、口ごもった。
「ん?」
「あの……お、しっこ……」
 口に出して言うのが恥ずかしい単語だから、玲は口ごもって、言うのをやめてしまった。
 私は、問いつめるように強い口調で言った。
「何? はっきり言いなさい」
「は、はい……」
 玲は、びくっとして、うつむいてしまった。羞恥心の強い少女だから、「おしっこ」と声に出して言うことさえためらってしまうようだった。
 だが、少し間を置いて、少女は顔を上げた。そして、今度ははっきりと聞こえる声で言った。

「お、おしっこ……おいしかったです……」

 期待していた通りの答えだった。私は、この少女の口から、自分の尿が「おいしかった」という言葉を聞きたかったのだ。
 玲にとっては、他に答えようがなかったのだろう。「おいしかったです」と答えないと、また何か罰をされると思ったのだろうか。それとも、そう答えることがしきたりだと考えてしまったのだろうか。
 だが、さすがにかなりの屈辱だったのだろう。答えた後、まぶたから涙がこぼれ落ちた。もしかしたら、衣服を脱がされて全裸にされることよりも、つらかったかもしれない。
 本当に、哀れな少女だ。私は、心の中でほくそ笑んだ。

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