清めの時間
ドロップアウター:作

■ 42

「両手を前に出して」
「えっ……」
 唐突に言われて、少し戸惑いました。
 兵藤先生は、右手に小さく丸められた包帯を持っていました。たぶん、わたしの手に巻くつもりなんです。でも、わたしは別にどこもケガしてないのに、どうしてだろうって思いました。
「はい……こうですか?」
 わたしは言われたとおりに、両手を前に差し出しました。
 すると、先生はわたしの両手首に、包帯を巻きつけて縛り始めました。
「あっ……」
 びっくりして、声を上げてしまいました。
「静かに」
 先生が、厳しい口調で言いました。
「動かないで。じっとして」
「はい、すみません……」
 先生がすることを、わたしは黙って見ているしかありませんでした。
「心配しないで」
 先生は、今度はわたしをなだめるように言いました。
「みんな、儀式の時は同じようにしてるんだから」
「あっ、はい」
 先生が言ったとおり、恵美ちゃんや他のみんなの手首を見ると、紐を巻きつけられたような赤い痕が残っていました。
 みんなも、恥ずかしいことさせられて、嫌な思いしたんだ……そう思うと、ほっとするような、胸が痛むような、変な気持ちになりました。
「……これでいいわ」
 包帯を巻き終わると、先生はふっと笑みを浮かべました。
「北本さんは肌が白いから、包帯の白が目立たないわね」
「あっ、はい……」
 両手を縛られて、すごく戸惑いました。これじゃあ、恥ずかしいところを隠すこともできません。
 うまく身動きが取れないでいると、何となく気持ちが焦ってきました。だから思わず、包帯に縛られた両手を左右に引っぱってみました。でも、手首に巻かれた包帯はかたく結ばれて、簡単にはほどけそうにありません。
 これじゃあ、罰を受けるのとそんなに変わりないじゃない……
「それじゃあ、北本さん」
 兵藤先生は、低い声で言いました。
「これから、残りのけがれを、あなたの体に戻すからね」
「えっ、残りって……」
 思わず「おしっこ」と言いそうになって、慌てて口をつぐみました。その言葉を口にすると、自分が辱められているような気持ちになるんです。
 先生は、自分の足下に置いてあった紙コップを拾い上げて、わたしの胸の前に持ってきました。
 わたしは、また不安になってきました。まさか両手を縛られるなんて……今度は、何をされるんだろうって……
「北本さん」
 先生は、もう一度わたしの名前を呼んで、言いました。
「自分のけがれを、体にしっかり受け入れるのよ」
「はい……」
 わたしは、素直にそう返事しました。

 ここでは、何をされても耐えるしかありません。女の子は、どんなにつらいことも受け入れるしかないんです。
 しきたりを守るというのは、そういうことなんですから……

 兵藤先生は、わたしの胸元で、紙コップをゆっくりと下に傾けました。
 そして……先生は、わたしの左の乳房に、おしっこをかけました。

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