清めの時間
ドロップアウター:作

■ 45

 それからしばらく、兵藤先生はわたしの上半身を弄り続けました。おっぱいを揉んだり、乳首を指先で摘んだり、腋の下とかおへそのあたりを手でこすったり…わたしは、ただされるがままでした。
「んくっ…あぐっ、くふぅ…」
 こらえきれなくて、いやらしい声を漏らしてしまいました。頭がぼうっとして、気が遠くなっていくような感じがしました。
 薄れていく意識の中で、わたしは一人の女の子のことを考えていました。ずっと昔…この場所で命を落とした、若い娘さんのことです。
 その娘さんは、たぶんわたしとそう年の違わない少女です。だから、つい生々しく想像してしまいました。その子が、男達に着物をはぎ取られて乱暴されるのも…その後、泉の水に身を沈めていくのも…
 寒気がしました。素っ裸で雨に打たれているからじゃなくて、もっと体の芯から冷えていくような感覚です。
 心の中で、わたしは少女の魂に問いかけました。
 お願いです。そろそろ、みんなを…この町の少女達を、許してあげてください。
 こんな言い方、傲慢かもしれないけれど…あなたの気持ち、少し分かります。わたしもいじめられて、ひどいことされたから…
 ごめんなさい。あなたがされたことに比べると、わたしなんか全然大したことないですよね。でも、この町の少女達には…恵美ちゃん達には、何の罪もないんです。
 呪うなら、わたしを呪ってください。わたしは、もう他の子達と同じように生きていくことはできません。わたしの体は、もう汚れているから。
 だから、わたしはどうなってもかまいません。せめて、みんなを…


 ジャージを脱ぐと、二の腕がぶるっと震えました。ストーブを入れてはいるけれど、一月だから、部屋全体が底冷えする感じがします。
「あら、北本さん」
 若い養護の先生が、身長計を調節しながら言いました。
「もうブラジャー、してるのね」
「えっ…」
 どきっとして、わたしは胸の前で両腕を組んで、肩を押さえました。下着姿になったわけではありません。上着の白いシャツは生地が薄いから、ブラジャーの線が透けて見えてしまうんです。
「ごめんなさい。恥ずかしがらせるつもりじゃなかったんだけど…」
 先生は苦笑いを浮かべて、ぺろっと舌を出しました。
「ちょっとデリカシーのないこと言っちゃった。着け始めの頃って、恥ずかしいもんね」
「いえ、別に気にしてないです」
 両腕を下ろして、トレパンを脱ぎました。体操服の半袖シャツと、ブルマだけの格好になると、余計に寒いです。
「よかった。あのね、変な言い方かもしれないけど…」
 優しい先生は、にこっと微笑んで言いました。
「ちょっと感動しちゃった。北本さんも、もうお姉さんになっていくんだって」
「もうすぐ卒業だから、当たり前です」
 そう言って、わたしも少し笑って見せました。
 ブラジャーのことを言われたのは恥ずかしかったけど、少しうれしくもありました。自分の成長に、先生が気づいてくれたんだって。



 三ヶ月ぶりの登校でした。
 あのプールでの出来事から、わたしは体調を崩して一ヶ月近く入院しました。退院した後も、ちゃんとご飯も食べられなくて、部屋の中でほとんど一日中、パジャマ姿のままで過ごしました。
 年が明けて、やっと少し落ちついたから、病院にカウンセリングを受けに行ったりして、少しずつ家の外にも出られるようになってきました。
 そして、この日から保健室登校という形で、学校に通うことになりました。久しぶりの登校で最初にすることは、身体測定でした。

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