清めの時間
ドロップアウター:作

■ 48

 前にも、よくこんなことがありました。水を入れられるのはまだマシな方で、ひどい時にはマジックで落書きされたり、カッターで切り裂かれたりして、二度とはけなくなってしまったこともあります。
 たぶん、プールでわたしの水着をはぎ取った子達です。わたしが靴箱に靴を置かないようにして、教室のロッカーやバッグの中に入れるようにしても、わざわざ引っぱり出して同じことをするんです。
 わたしは、自分の不注意を悔やみました。学校へ行けば、こういうこともあるかなって予想してたのに、どうして靴を靴箱の中に置きっぱなしにしたんだろうって。保健室に持っていけば、手を出されることはなかったのに。
 ただ、今回は水を入れる以外は何もしていないみたいでした。久しぶりだから、手加減してくれたのかなって思いました。
 でも、そうじゃないことがすぐに分かりました。
 靴下が濡れてしまうといけないから、裸足になって靴をはくことにしました。足を片方ずつ上げて、右手を伸ばして、わたしは靴下を脱ぎました。
 真冬だから、裸足になると足がすごく冷えました。濡れた靴をはいて歩くと、足の感覚がなくなってしまいそうです。
 たぶん、こうなることを分かってて、あの子達は靴に水を入れたんです。そう思うとすごく悔しくて、みじめな気持ちになりました。
 水を少しでも絞ろうと思って、わたしは靴を右手でつかみました。
 ふと、その時気づきました。靴の下に、一枚の紙が二つ折りになって敷かれていました。女の子が手紙を書くのによく使う、おしゃれなピンク色の紙でした。
 手に取って広げてみると、それは思ったとおり、わたしへの手紙でした。カラフルな色ペンの文字が、小さな紙にびっしりと記されています。
 誰が何のために書いたのか、見なくても分かります。怖くて体が震えました。それでも、わたしは勇気を振り絞って、その手紙を読みました。
 読み終わった時、わたしは思わずつぶやきました。
 どうして、こんなことまで……

 手紙には、こう書かれていました。

 北本さん、久しぶり。ずいぶん長いこと顔を見せないから、もう死んじゃったかと思ってた。どうでもいいけど、先生にひいきされてる子ってうらやましいわね。あんなに長いこと学校を休んで、それで卒業できるなんて。
 しばらく保健室にいるみたいだけど、それであたし達から逃げられるなんて思わないでね。ていうか、あたし知ってるんだから。あんたがプールでされたことを、まだ親に話してないってこと。
 ありがとう。おかげであたし達、助かったの。でも、どうせあんたのことだから、恥ずかしいから、親に心配かけたくないからって、純情ぶったんでしょう。
 何なら、あたしから話してあげようか。電話して、あんたのママに。自分の娘が全裸にされて、おしっこまでさせられたって聞いたら、どんな顔するかな。
 冗談だなんて思わないで。番号なんて簡単に調べられるし、非通知でかければ、誰がかけたかなんて分からないしね。
 黙っていて欲しかったら、あたしの言うことを聞きなさい。今、玄関でしょう? そこで下着を脱いで、ノーパン、ノーブラになるの。それと、校門を出るまで長袖と長ズボンは禁止。せっかくきれいなナマ腕とナマ足なんだから、隠していたらもったいないしね。
 あと、証拠として、ブラとパンツを靴箱の中に入れておくこと。人に見られたくなかったら、袋に入れておいてもいいわよ。あたしが中をちゃんと確かめてあげる。
 別にできないことじゃないでしょう? あの時みたく、裸になれって言ってるわけじゃないんだから。あっ、でもブルマとか持ってなかったら、下半身丸出しで外歩かなきゃいけないわね。まっ、それぐらいがんばりなさい。大好きなママのためなんだから。
 ちゃんと言うとおりにできたら、次の日あんたが帰る時までには、靴箱の中に戻しておいてあげる。ちょっと他の子に見せるかもしれないけど、それくらいはいいでしょう? あんたが今している下着と、明日着けてくる下着を交換するの。
 ああ、それと家から別の下着を持ってきて代わりに入れるなんてことしたら、許さないから。脱いだ下着かそうでないかなんて、見ればすぐに分かるんだからね。
 もし言うことを聞かなかったらどうなるか、分かるわね。またプールの時とおんなじ目にあわせるわよ。
 じゃあ、明日楽しみにしているわ。がんばってね、北本さん。

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