清めの時間
ドロップアウター:作

■ 49

 読み終わった手紙を二つ折りにして、靴箱の中に戻しました。捨ててしまいたいと思ったけれど、そうするとまた何かされる気がして、怖かったです。
 ただの脅しとは思えませんでした。あの子達なら、家に嫌がらせの電話をかけることくらいは平気でします。
 こんな手紙、できれば見なかったことにしたいです。でも、無視するわけにはいきませんでした。
 あのことを、母に知られてしまうかもしれないからです。
 この頃、母は少し体調を崩しています。心労がたたったせいだって、お医者さんに言われたそうです。母は、わたしがいじめられていたと聞いて、すごく自分を責めていたんです。娘が何ヶ月もひとりで苦しんでいたのに、どうして気づかなかったんだろうって。
 そのうえ、わたしがプールで素っ裸にされたなんて聞いたら、母はきっと耐えられないと思います。わたしだって、あんな恥ずかしいこと、親に知られたくありません…
 でも、このままじゃ防ぎようがありません。母は専業主婦だから、一日中家にいます。あの子達は、わたしの知らないうちに、わたしが家を留守にしている時間に電話をかけることだってできるんです。
 悔しいけれど、わたしはあの子達の言うとおりにします。それしか、あの子達を止める方法がありません…
 靴箱の前で、わたしは周りに誰もいないことを確かめて、トレパンに両手をかけました。
 何ヶ月もいじめを受けていたから、自分が何かされることはもう慣れています。それよりも、自分のせいで、誰かにつらい思いをさせるのは嫌です。わたしさえ我慢すれば、誰も傷つけずに済むのなら、わたしはその方を選びます。
 わたしなんか、どうなってもいいんです…
 トレパンを、膝のあたりまで一気に下ろしました。ブルマと太ももが露わになって、顔がちょっと火照りました。
 これからしなきゃいけないことを考えると、恥ずかしくて、みじめな気持ちになりました。でも、もう後戻りはできません。
 今なら誰も見てない…
 両手をシャツの下に入れて、背中のブラジャーのホックを外しました。そのまま肩紐に手をかけて、ブラジャーを肩と胸元からそっと脱ぎ去っていきました。
 取ったブラを、トレパンに包んで床に置きました。それから、両手の親指をパンツのゴムの部分に入れて、ブルマと一緒につかみました。
 パンツも早く脱がなきゃ。急がないと、見つかっちゃう…
 思い切って、ブルマとパンツを足首のあたりまで下ろしました。股間にうっすらと生えた恥毛が見えて、そろそろ剃らなきゃって、変なことを考えてしまいました。
 足を片方ずつ上げて、ブルマとパンツを足首から抜き取りました。恥ずかしい下半身がむき出しになって、わたしは少し泣いてしまいました。股間とおしりがひんやりして、どきっとしました。
 ブルマの中からパンツを引っぱり出して、軽くたたんでブラジャーと一緒にトレパンでくるみました。それから、急いでブルマをはいて、下着を包んだトレパンを靴箱に押し込みました。
 わたしは、ブルマとシャツを着ただけの、ノーパン、ノーブラの姿になりました。こんなエッチな格好、よくなれたなぁって自分でも思います。いじめられて、どこか感覚が麻痺しているのかもしれません。
 バッグとジャージを肩にかけて、裸足でぬれた靴をはきました。足がちょっと気持ち悪いけれど、水を絞っている時間はなさそうです。誰かに見られてしまうといけないから、わたしはバッグの紐を握りしめて、急いで外に出ました。
 あっ…
 その時、わたしは足もとの段差に気づかなくて、つまずいて転んでしまいました。この時変な倒れ方をしたせいで、バッグをかけていない右の肩を、地面に強く打ちつけました。

 あぐっ…
 これぐらい平気と思ったけれど、打ったところが少しずつ痛くなって、わたしは唇をかみました。
 起き上がると、軽くめまいがして足もとが少しふらつきました。痛むところを左手でそっと押さえて、肩を動かさないようにしました。
 今頃になって、保健室にコートを忘れてしまったことに気がつきました。晴れてはいるけれど、真冬だからすごく寒いです。でも、こんな恥ずかしい格好だから、今さら取りに戻るわけにはいきません。
 肩の痛みをこらえて、わたしは校舎の前を走りました。校門を出るまでは、どのみち半袖シャツにブルマの格好でいなきゃいけません。家に着くまでの辛抱です。走ったら体も温まるし、どうにか我慢できるかもしれないって思いました。
 走っていると、シャツの上から乳首がうっすらと浮き出てしまって、ちょっと恥ずかしいです。それに、パンツをはかないでブルマを身につけたことなんてなかったから、股間がとても変な感じです。キャミとショーツでいるのと変わらなくて、すごく嫌でした。
 校門を出て、わたしはすぐ隣のフェンスにもたれかかりました。そのまま地面に座り込んで、大きく息を弾ませました。
 この時間は人通りも少ないから、しばらくこうしていようと思いました。ずっと運動不足だったし、体育とか元々そんなに得意じゃなかったから、少し走っただけで息が切れました。
 さすがに寒いから、上着だけでも着ることにしました。肩の痛むところを動かさないように、そっとジャージに袖を通しました。
 でも、まだ足がむき出しになったままだから、寒いことに変わりありません。小刻みに震えている両膝を見下ろして、わたしは小さくため息をつきました。
 お母さんに、なんて言い訳しようかな。
 心配性の母のことだから、わたしがトレパンをはいてないのを見ると、またいじめられて取られたって思うかもしれません。母に心配をかけたくなくて、手紙の恥ずかしい命令に従ったのに、これじゃあ意味ないよねって、自分をちょっと笑いました。
 ブラとパンツ、ちゃんと返してもらえるかな。
 下着を取られた胸元を押さえて、そんなことも考えました。
 他の子にも見せるって言ってたけど、あんまりたくさんの子に見られたら、やだな。見られるのは仕方ないけど、買ったばかりのブラ、切ったりとかしないで無事に返してくれるかな…

 その日から、学校から帰る時には玄関で下着を取って、ノーパン、ノーブラになるのが習慣になりました。
 時々要求がエスカレートして、下着をつけないで登校するようにとか、コートの下は上半身裸になって(さすがに全部脱ぐのはやりすぎと思ったのかもしれません)帰るようにとか命令されることもありました。そういう指示にも、わたしは全部従いました。
 手紙には、ちゃんと言うとおりにしたか確かめに行くからって書かれていて、その日はずっとビクビクして過ごしました。結局そこまではされなくて、ほっとしたけれど、みじめな気持ちにもなりました。こんなことなら、どうして言いなりになったんだろうって。
 せめてトイレで脱ぎたかったけれど、それもできませんでした。あの後また靴箱に手紙が入っていて、下着は必ず玄関で取るようにって書かれていました。トイレには見張りをつけるから、もし入ってきたら痛い目にあわせるって。
 本当かなと思って、一度遠くからのぞいてみました。そしたら、あのリーダー格の子が本当にトイレの前に立っていて、わたしは慌ててその場を離れました。
 だから、わたしは玄関でいつも人目を気にしながら、ブラとパンツを脱いでいくしかありませんでした。すごく悔しかったけれど、お母さんに知られないためには耐えるしかないんだって、何度も自分に言い聞かせました。
 下着をちゃんと返してもらえるのが、せめてもの救いでした。でも、クラスの子達に見られたり、触られたりしたんだろうなって思うと、嫌な気分になりました。

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