国取物語
しろくま:作

■ 5

一方城では。
クリス「父さん、私はレオナを・・・洞窟に向かった部隊を救出に向かいます!」
クリスの叫び声が聞こえる。
アレク「しかし、第2騎士団は今や13名。お前達が向かったところで・・・」
クリス「しかし! まだ死んだと決まったわけではありません! どうか、兵をお貸しください!! お願いします。」
今のクリスには冷静な判断が出来ていない。精鋭揃いの騎士団でさえオークを倒すことは困難である。一般の兵士を何人連れて行ったところで、結果は見えている。
アレク「分かっている。何もわしとて、みすみす見殺しになどしたくない。しかし・・・」
そこへ1人の男が部屋に入ってきた。
その男「アレク様。彼らの救出には我々第1騎士団をお使いください。」
彼は第1騎士団の団長のボルス。第1騎士団はちょうど今しがた、任務を終えて帰還したばかりだった。
アレク「・・・そうだな。ただ、討伐隊隊長のクリスの下についてもらう。いいな?」
ボルス「はっ!」
クリス「・・・・・」
クリスは何も言わず頭を下げた。

ボルスは第1騎士団の団長にして、全騎士団の団長の総大将であった。
ちなみに、第1〜第3騎士団は城や都市及び都市周辺の警護を勤める。そして第4、第5騎士団が国境、特にスーザン帝国の行動を監視する。第6騎士団は情報収集など特殊な任務を担当する。
第1騎士団は、先ほどまで第2騎士団の代わりに、町の中で暴れていたオークを1匹始末していた。メインの討伐隊は第2騎士団ではあるが、臨機応変に対応させている。
アレク「しかし、一時的にとはいえ町の守りが薄くなることになる。これ以上兵を就けることは出来ない。」
確かに、兵は足りなくはないが、余っているわけでもない。
クリス「構いません・・・感謝します。」
そしてボルスとクリスは部屋を出た。
クリス「ボルスおじさん。ありがと!」
クリスは親しげに話しかける。仕事の時の態度とはまるで違う。
ボルス「何言ってるんだよ! 水臭いじゃねーか。」
2人は非常に仲が良かった。そしてボルスは、クリスのかつての上司でもあった。
ボルスの年齢は40歳、ベテラン騎士である。クリスが入団する時に世話になって以来、年は離れているものの、友達のような関係が続いている。第2の父とも呼べる存在である。
彼は、クリスに剣の指導も施しており、彼女が騎士団において《王女》としてではなく、1人の《騎士》として接しられてきたのも、このボルスの協力あったからこそであった。
そのため、アレクからの信頼も厚く、彼も安心してクリスを任せられたのである。
ボルス「ではクリス隊長! さっさとレオナちゃん達を助けに行くぞ!!」
クリス「うん!」
相当ボルスになついているようである。普段の冷静な雰囲気は感じられない。いや、これが本当のクリスの性格であろう。普段の冷静さは、団長という仕事の重圧と、周囲からの期待に応えるべく、緊張していたからだと考えられる。
第1と第2騎士団、総勢63名の部隊で洞窟に向かうことになった。
出発の準備を整えているクリスに、ある科学者が声をかける。
科学者「クリス様! これをお持ちください。」
クリス「これは?」
科学者「まだ試作段階なのですが・・・そのピンを抜くと、3秒後に爆発を起こす、そんな代物です。ぜひ、お使いください。」
いわゆる手榴弾なのだが、恐らくこれほど精密な作りの兵器は、世界中探してもどこにも存在しないであろう。
クリス「すまない。ありがたく頂戴する。」
そして第1と第2の連合騎士団は城を後にした。

ボルス「ここに間違いあるまい・・・」
クリス「では、中にはいるぞ!!」
彼らは洞窟の内部に足を進める。そして、レオナ達が戦闘をした地点にまでたどり着く。
クリス「!!!!」
ボルス「・・・これは・・・ひでぇ・・・」
そこで彼らが目にしたものは、第2騎士団の団員たちの屍の山であった。
クリス「そ・・・そんな・・・みんな・・・」
異常な光景を前に、皆ショックを受けていた。
そんな彼らの前に、5匹のオークと、新手の化け物が姿を現す。まだ知られてはいないが、もちろんその化け物は《オーガ》である。
奥の方には女性が4名、裸にされて縛られた状態で倒れている。
クリス「レオナ!!!」
クリスが飛び出そうとするが、ボルスに止められる。
ボルス「クリス・・・奴らを殲滅するのが先だ・・・」
そう言われ、クリスも冷静になる。そして、団員たちはジリジリと距離を詰めていく。
先に攻撃を仕掛けてきたのはオークであった。しかし、ボルスがその攻撃を盾で受け止め、大斧でオークの頭を叩き潰す。
恐らく、オークの怪力に、曲りなりにも対抗できるのは、この国において、ボルス以外に存在しまい。
当初、戦況は騎士団のほうが圧倒的に優勢で、5匹のオークは瞬く間に倒された。
しかし、オーガだけは別である。その、オーク以上の圧倒的な怪力と速さで、団員たちは次々に倒されていく。騎士団の中で、彼に何とか対抗できるのはクリスとボルスの2人だけであった。
ボルス「クリス! 先ほどの爆薬を俺に貸せ!!! このままでは・・・」
クリス「う、うん。でも、あのスピードでは・・・」
ボルス「いいから早く!!」
そう言われ、クリスは爆薬を手渡す。この時、すでに団員の半数が殺されていた。

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