国取物語
しろくま:作

■ 14

その夜、皇帝はまた部屋を訪れた。
皇帝「クリス、さぁ始めますよ?」
クリス「・・・・・はい。」
皇帝は服を脱ぎ、ベッドに入る。この時のクリスには、皇帝を殺すことしか頭になかった。
皇帝「クリス、まずは口で奉仕なさい。今度は、朝のようにはいかせません、貴女も感じるのです。」
クリス「・・・・・はい・・・」
そうして、クリスが皇帝のモノを銜えようとしたその瞬間、1人の兵士が血相を変えて部屋の中へ飛び込んできた。
兵士「陛下!!!」
皇帝「何事です! いったい何が・・・」
兵士「オーガが!!!・・・オーガどもが!!!」
皇帝「落ち着いて話しなさい!」
兵士「はい・・・オーガ達が暴走を! 我々の手には負えません!!!」
皇帝(・・・暗示が切れた!? しかし・・・)
いや、これは必然だったのかもしれない。攻を焦ったためか、十分な研究をしないまま実践投入してしまったのだ。それに、コントロールの方法も暗示をかけるだけと、かなり不安定なものだった。知能の高いオーガを完全に操れるはずもないのだ。
この暴動は、クリスにとって最大の好機であった。神が味方したのであろうか・・・
皇帝「何をしているのです! せめて指揮をしているオーガだけでも仕留めなさい!!」
兵士「は、はい!!!」
皇帝「・・・・くっ!・・・・こんなはずでは・・・・」
クリスは、布団の中に隠しておいたナイフに手をかける。
皇帝「ん?・・・・」
そしてクリスは、皇帝の喉へ、そのナイフを突き刺す。
皇帝「が!!!!・・・・お・・・おのれ・・・・」
皇帝の喉から、おびただしい量の血液が噴出す。そして、皇帝は床に倒れこみ息絶えた。いかに強化を受けている皇帝も、この距離では避けることが出来なかったようだ。
悪党の最後などあっけないものだ・・・
クリス「はぁ・・・はぁ・・・」
クリスは緊張が解けたのか、床に座り込んだ。



オーガとオークは、目に付いた女性を端から連れて去っていった。抵抗した兵士も皆惨殺されたようだ。兵の多くをオーク化したため、残った兵だけでは止められなかったのだ。
そして、オーガ達は城を荒らすだけ荒らして、その後は散り散りにいずこかへと去っていった。この暴動で、城の中にいた者に限らず、町で普通に生活していた、多くの女性が連れ去られたようだ。
座り込んでいたクリスの下にセレナが現れた。
セレナ「王達は先ほど無事脱出されました。この城の中にはもうオーク達はいません。我々も脱出しましょう。」
そう言って、セレナはクリスに服を渡した。2人は人質になった兵士たちを逃がした後、スーザンの城を後にした。
兵士「クリス様・・・先日の御無礼、お許しください・・・」
クリスは笑って許した。
城の中には惨殺されたスーザン兵の屍が多数転がっていた・・・

スーザン国内の混乱もあって、クリス達は無事ロマリアに帰ることが出来た。
兵士や国民は、王の帰還を心から喜んでいたようだ。
アレク「アンナ、クリス・・・すまなかった・・・酷い目にあわせてしまったな。それにレオナも・・・辛かったであろう・・・」
しかし、誰もアレクを恨んでなどいなかった。
クリス「父さん・・・スーザンは・・・・」
アレク「仕方があるまい。人の触れてはいけない領域に触れてしまった者の末路・・・今はどうすることも出来ない。」
兵士「アレク様。スーザンでは一体何が?」
アレクは、スーザンで起きたことの一部始終を皆に説明した。アンナ達が暴行を受けたことだけは除いて・・・
その後、国民の前でも演説をし、国民もすべてを納得したようだ。国民達は、勝利こそ出来なかったものの、ロマリアの危機が回避されたことを祝い、町はお祭り騒ぎになった。
クリス「父さん・・・スーザンを侵略するのですか?」
アレク「いや・・・今回の件で、敗戦国の人間の気持ちを、身をもって知ることが出来た。侵略など・・・」
クリス「・・・そうですね・・・」
その後、皇帝と兵の大半を失ったスーザンの、国としての機能は完全に麻痺し、治安は乱れた。オーク達も、幾度となく人間を襲ったため、一時スーザンは崩壊寸前まで追い詰められていた。
アレクは、ロマリアの再建はもちろんのこと、スーザンの建て直しにも尽力した。そのため、スーザンは少しずつではあるが、確実に復興していった。そして、スーザンは共和制の国として生まれ変わっていくことになる。
その後、オーク達と人間の戦いは永きに渡り行われた。ロマリアとスーザンは同盟を結び、オーク討伐に協力して対処することになる。
その後のロマリアとスーザンの関係は非常に友好的で、交易も盛んに行われたため、争いごともなく共に発展していった。
ちなみに、アレクの引退後はクリスが王位を受け継いだ。アンナが王位継承権を放棄したからである。しかし、その呪縛から開放されたアンナは清清しい顔をしていた。

この戦争は「支配力に溺れた《暴君》スーザン皇帝を、見事に滅ぼしたロマリアの《勇者》クリス」として解釈され、その後も広く、そして永く語り継がれていくことになる。この戦争も時代が進むにつれて、歴史となり、さらには伝説となっていったのである。

ただ、クリスが、そのスーザン皇帝の子を身篭っていたこと、そして、その事実が一部の人間の手によって闇に葬り去られたことなど、誰も知らない・・・

表があれば裏がある。光があれば影ができる。どんな物語にも、必ず闇の部分は存在する。
これは、その英雄壇の裏側で繰り広げられた《真実》の物語である。
(完)
『設定と解説』

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊