黒い館
けいもく:作

■ 2.ハーレム2

 男は裕美さんの乳首を指先ではじきました。裕美さんの全身が、少し震えたようでした。そして、男は、裕美さんの腰を抱き寄せるように自分のひざに乗せ、あごをつかみ、唇を吸いました。

「すると、ちょっといじめてみたくなる。子どもが母親を困らせているようなものかな。もっとも、同じ歳なのだが」

 話しながらも、男は指先で乳首を挟んだり、乳房の歯形のついた部分に爪を当てたりしていました。

 裕美さんの身体を好きなように弄んでいる男も、好きなようにされている裕美さんも、平然としていました。それは、ここでは日常的にこういうことが行われているということの証でしかありませんでした。

「痛いか」男は、裕美さんの頬や耳たぶをなめながら聞きました。

「痛いわよ、そりゃぁね」
 でも、裕美さんの顔は、怒っていませんでした。悲鳴を押し殺したように、じっと、耐えていました。

「だけど、最近はあまり裕美を抱かないことにしているんだ」

 男は、ポツリと言いました。半裸の裕美さんを抱きしめながら、何を言っているのだと思いました。でも、なぜか寂しそうな言い方でした。

「裕美、スカートをたくし上げて、明日香さんに見せてごらん」

 裕美さんは、軽くうなずき、「ごめんね、明日香さん」といってから、両手でスカートの裾をつかみ、上にあげました。

 裕美さんは、パンティをはいていませんでした。黒い恥毛に男が指を絡めました。

「ここでは、女は下着をつけてはいけないことになっているんだ」

「明日香さんは別よ、お客様なのだから」

「ハハハ、当たり前だ。君がそんなに怖い顔をすることはない。君にはパンツを脱げなんてことは言わない」

 異様な雰囲気に不安げな表情を見せたわたしに、男は笑顔で言いました。

「君は、明日になれば、約束どおり、駅までおくる」

 裕美さんの股間から抜き取った恥毛を口にくわえ、裕美さんが取り戻そうとすると、あわてて飲み込んでしまったようでした。裕美さんは、苦笑いするしかありませんでした。

「裕美はここでは一番の古参だ。わからないことは、裕美に聞けばいい」

「明日香さん、案内するわ」と言い、ブラウスのボタンを留めて、立ち上がりました。

「驚いたでしょう」
 部屋を出ると裕美さんは言いました。

「ええ」
 わたしは、頷きました。

「これから、もっと驚くことがあると思うわ。わたしたちは、どんなことでもお館様に逆らってはいけないの」

「お館様?」

「さっきの人のこと。古風な呼び方でしょ。時代錯誤もいいとこ」
 裕美さんは続けました。
「お館様は、わたしたちの支配者なの。でも、この建物の所有者ではないの」

 その意味は、それからしばらく、わたしにはわかりませんでした。そのときは、単に借家なのかな、くらいに思っていました。

「ここはね、倒錯した性の館ね」

 言われるまでもなく、お館様の裕美さんに接する態度は、十分に怪しいものでした。

「でも、お館様は、約束は守る人よ」

 裕美さんは、立ち止まり「ここよ、みんなに紹介するわ」といって、ドアを開けました。

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