黒い館
けいもく:作
■ 10.売春婦の屈辱2
そんなことをしてわたしが逃げ出せばどうなるの? テーブルに縛り付けたままでわたしを抱いてそのままで帰るのが、彼らのあいだでは話す必要もない当然の了解事項だったの。
結局、わたしは、そのままの格好で放置されていた。
朝になって、明るくなってもわたしは、縛られていた。子どもが私のそばにやってきた。四つか五つくらいの坊やだった。しきりとわたしのおっぱいをさわるのね。わたしは、どう言っていいのかわからずに、そのままにさせておいたのだけど、きっとお母さんのおっぱいと比べていたのね。チュウチュウって音を立てて吸い始めた。
それを遠くのほうで見ていたお母さんが、かけよってきて、『汚いから触っちゃだめ』と凄いけんまくで、子どもを叱るの。あわてて連れて帰った。お母さんは帰る間際に、『ぺっ』とわたしの顔につばを吐きかけていくのを忘れなかった。
当たり前のことだわね。そのお母さんだって、わたしが好きでそんなところで縛られているのではないくらいのことはわかっていたと思う。でも、子どもに絶対見せたくない姿をわたしは路上で堂々とさらしていたのだもの。
お母さんのつばが、私の眼に入った時、それまで我慢していた涙がいっきにこぼれ始めた。それくらい惨めだった。
こんなこともあった。
その日は、お祭りで男たちはみんな酒に酔っていた。月夜の晩だった。わたしは、裸で手首と足首をシーツの布のようなもので縛られてボートに乗せられていた。
そんなことは、それまでもよくあったのよ。大勢の男たちの中に裸で放り出されるなどというのは、数えればきりがないほど、でも、その日は、男たちの態度が違った。ボートに乗せられて縛られてるわたしに誰も触れてこないの。
いつもなら乳房をさんざんに揉まれて、何本もの指をわれめに突っ込まれて、泣き出すわたしを笑いものにするはずなのに。酒臭い息を吐きながら、みんな、真剣にわたしを見ているの。とくに手足を縛った布をね。そこだけ手で触ったりして硬さを確かめていた。
わたしを乗せたボートは池の中央部に進み、わたしは放り出された。そして、その時わたしは、初めて気づいた。男たちは、わたしが生きるか死ぬかで賭けをしていたのだと」
わたしは、お館様の横であぐらをかくように、座っていました。お館様は、私の股間に、そこの毛を隠すようなかたちでふんわりと左手を置いていました。おやかた様の顔は裕美さんの胸に密着され、乳首を吸っているのか唇を触れさせているだけなのか、わたしにはよくわかりませんでした。
ただ右手は握り締められ、眼は潤んでいました。もしかすれば、お館様は泣いているのかもしれませんでした。涙を隠すために裕美さんの胸に顔を密着させているのかもしれませんでした。きっと、それは悔し涙でした。
「わたしには、子供のいない伯父がいてね。子供のときから、よくかわいがってくれた。企業の重役で退職したから、各方面に交友もあった。その伯父が何度もメキシコに来てわたしを探しているようだった。
伯父の元にグアテマラに日本人らしい売春婦がいるという情報が入った。さすがにすぐに、それがわたしだとは思わなかっただろうけど、外交ルートを通して、裏表を混ぜてだけど、探りを入れたところ、わたしだった。
伯父は秘密裏に身代金を払って、わたしを日本に連れ戻してくれた。グアテマラで五年間が経っていた。いつ殺されていてもおかしくない毎日の連続だったわ」
お館様は、ようやく密着させた裕美さんの乳房から顔を離しました。そして手で私の後頭部を抱え顔を引き寄せるようにして唇を吸いました。二度三度と下から弾くように私の乳房をさわったあと、しばらくそこを見つめていました。
そして、歯を見せて、口を大きく開けました。わたしは直感しました。お館様はわたしの乳房を咬むつもりだと、わたしは眼を閉じ、腰を引いていました。咄嗟のことでした。でも、わたしの乳房には何事もおこりませんでした。
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