黒い館
けいもく:作
■ 14.香子さんは妊娠?1
その日は、香子さんの危険日でした。
お館様は、裸の香子さんに胡坐を組むように座らせて、足首を平行にして縄で縛りました。手も背中の後ろで縛りました。
首にかけた縄を足首につないで、そのまま前方に倒せば、膝頭と頭のみで体重を支える座禅ころがしいう体型になりました。
昔、日本の官憲は独立運動や革命運動にかかわった、朝鮮や中国の女工や女子学生を拷問にかけた後、こういうふうに縛ってから犯したといわれていました。
それは、身体全体を三角形にして縛られている香子さんの姿を見れば、わかりました。
香子さんは、ベッドの上でしたが、額と膝をコンクリートに付けていれば、さらに苦しいはずでした。
独立運動に身をささげた女工は、すでに抵抗をあきらめていました。動くことさえできず、本来がもっとも憎むべき相手に、陵辱されるのを待っていなければなりませんでした。
女を拷問にかけても、苦しみ涙を流す姿から、かもし出されるような女体の艶めかしさで、性欲は昂じさせられるばかりだと思いました。
竹刀でひと打ちするごとに発せられる、苦悶するうめき声に、おもわず乳房に頬ずりをして、女工の身体中を舐めまわしていたのでは、拷問になりませんでした。乳首に歯を当て咬んでみても、下半身はうずくばかりでした。
そこで官憲の出した結論は、『心を乱される原因は拷問を受ける女の身体の悩ましさにあり、その膣によって一方的に罪を償わせなければならない』でした。
早い話が、『一発、やる』でした。
おいしそうな獲物を前に、これ以上のお預けをさせられるのはたまりませんでした。
一方、女工にも官憲に辱めを受けなければ、その屈辱的な姿勢から開放されないことがわかっていました。
それくらいのことは、百戦錬磨の女工でなくても、活動経験の浅い女子学生にさえわかっていました。
問題は、拷問を受ける自分の身体が、いったい、何人の官憲を性的に興奮させたかでした。それによって、自分のレイプにどれだけの時間がかかるのか、推し量ろうとしました。
官憲は煙草をくゆらせながら、ゆっくりと正確にむき出しの下半身を女子学生の膣に沈めていきました。
万が一、火のついた煙草の葉が、女子学生の背中に落ちたとしても、大声で悲鳴をあげ、縄を打たれて本来は動けないはずの身体を揺らせ、もがいたとしても、つかんだ腰を放さないことが肝要でした。
女子学生の苦しみを顧みるよりより、自分の快感を求めることのほうが大切だと思いました。
いまさら、女子学生の背中に水ぶくれがひとつ増えたからといって、憐れみをかけていたのでは拷問自体がなりたちませんでした。背中に残る無数の傷跡を見ました。
泣いて許しを請う女子学生に自らが竹刀で打ち据えた傷でした。
官憲は大きくため息をついて、女子学生の肉体がもたらせてくれる快感に酔いました。
そして思いました。もうひと責めすればこの身体では耐えられないだろう。
でも、仲間の名前を吐かせるのは、拷問に携わったひと通りの者が、女子学生を犯し終えてからでいいと。
そして、願うことなら仲間も女であってほしいと。その仲間を捕まえるまで、一週間は、留置しておかなければならないと思いました。
もちろん、それは、もはや取り調べ対象としてではなく、官憲の性欲を満たしてくれる女が必要だったからでした。
官憲が、かってに他民族の女を自由に拷問にかけたり犯したりできるのは、支配民族の特権だとしたのは、考え方としては誤りでしたが、現実には、必ずしも誤りといえないものがありました。
ただ、お館様は以前、この座禅ころがしという縛り方を知りませんでした。
この方法をお館様に教えたのは、意外なことに、今、縛られてベッドのシーツに額を付けている香子さんだったのです。
以来、おやかた様はこの縛り方が気に入って、裕美さんや愛子さん、当然のことながら香子さんにも幾度となく試していました。
お館様は、自分の手の人差し指にハンドクリームを付け、香子さんに見せて「尻の穴に入れてもいいか?」と聞きました。
香子さんは、そういう答えにくいことをヌケヌケと聞いてくるお館様にも困ったものだと思いました。いやだといっても、どうせ入れるに違いありません。
『そういう、いたずらができるように自分がこんなにも恥ずかしい縛られ方をしているのだ』と思いました。
だから、本当ならば、『わたしはこのとおり、身動きできないのだからあなた勝手に好きなように遊びなさい』とつっけんどんに突き放したかったのかもしれません。
でも香子さんは、笑顔をつくり、「はい」と答えました。
一方では、女性たちに恥ずかしい質問に答えさせるのも、お館様の楽しみ方であることも知っていました。
また、答えさせながら、女性たちにお館様の女であることを認識させていくということも必要なような気がしたからです。
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