黒い館
けいもく:作

■ 22.香子さんの処女喪失4

今の香子さんから見れば、内容的には稚拙かもしれませんが、領主を実在の人物にしたため、羽織の家紋まで調べる徹底ぶりでした。

そんな努力が報われてか、香子さんは有名漫画家としての地位を築いていくわけですが、この『五島の百合』にはふたつの余談がありました。

舞台になる場所を突然、変更したことと、ふたつめは、取材中に香子さんがレイプされて処女を失ったことでした。

香子さんは、若い女の長期一人旅ということで心配する家族や友達に「田舎の素朴なおじさんばかりだよ、心配することなんてないって」と言って笑いました。

事実、そのとおりでした。民宿のおじさんもおばさんも親切でしたし、道で会う漁師さんやお百姓さんも人懐こい笑顔を向けてくれました。

ただ、田舎の素朴なおじさんでも、都会育ちの若い女のくらいレイプできるということを香子さんは忘れていました。

山道を歩いていると、突然納屋に連れ込まれました。大声を出しても誰も助けには来てくれませんでした。

香子さんが泣いていると、素朴なおじさんが言いました。

「初めてだか?悪いことしたもんさな。けんどおめえが悪いんだ。よそもんの若い女がこげな山道を一人で歩いてみれな。襲ってくれって、ゆうてるみてえもんじゃなかか」

香子さんは『じゃあ、若い女はどんな道をあるけばいいのか?』思いましたが、おじさんの言ってることにも、一理あると思いました。

でも、このおじさんは、その後がいけませんでした。

「ばってん、おめえもこげんこと、村中のうわさになって、国の両親や友達に知られよったらこまるばい。おら駐在とも仲良しだけ、つかまらんばい。誰にも言わんごとするけん、明日もここにこいや」

素朴なおじさんは最低の男でした。レイプしたことをねたにして、香子さんに関係を迫ったのです。男として絶対してはいけない卑劣な手段でした。でも、香子さんは従いました。

それから10日間、毎日納屋で男に抱かれました。逆らうことが怖かったのだと思います。もし拒めば、島全体が香子さんに牙を向けてくるような気がしました。

誰かに打ち明けたところで「都会から来た若いおなごがよ、島の男ば、挑発しょった」という噂が立って、さげすまれて、島から追い出されるだけでした。

帰る時は、もうあの男に会わなくてもいいのだと思いました。そして、二度とこの島を訪れることはないだろうと思いました。

そんな、いやな思い出が秘められた『五島の百合』は好評でした。皮肉にもその五島列島での二週間が今の香子さんを築いたともいえました。

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