狂牙
MIN:作

■ 第2章 ゲーム3

 晃の告白は1年前に遡る。
 晃はフリーのテクニカルVIPとして、組織に籍を置いている。
 この組織にいる間は、人体実験用の素材など腐る程供給されるし、それ以上に最先端の医療技術や工学技術が駆使出来るからだ。
 研究者にとって[倫理]と言う枷を取ってしまえば、この組織程魅力的な職場は無いだろう。
 だが、この組織に在籍する為には、それなりの成果を出さなければならない。
 この成果によって、テクニカルVIPという立場を維持出来るし、フリーと言うスタンスも貫ける。
 相当の能力と実力が無ければ、晃の地位は維持出来ない。
 まぁ、今回の件は、その[能力の高さ]が裏目に出た物だった。

 元々この組織は、大昔にヨーロッパ辺りのどこかの国で、貴族達が集まって作った、趣味の会が始まりらしい。
 その会は徐々に大きく成り、国を越えてメンバーが集まって、やがて秘密結社のような組織を作った。
 その頃は、只のサディストの集団だったらしいが、馬鹿程権力を持ったサディストの集まりが、鬼畜に変わるのにそれ程時間は掛からない。
 魔女狩りや異端者狩りは、この組織が始めたと言う話だ。
 だが、遣りすぎにより、この組織の存在が表に浮き上がり掛けると、それを嫌った一派が歯止めを掛け、また闇の中に沈んでいき、厳格なルールを決め、秩序を持たせた[紳士の会]と言うスタンスを取り始めた。
 この統率を始めた一派は当時の組織の中でも国家の根幹に近い権力者達で、非道な事がバレると他の者より失う物が多い連中だろう。

 ウン百年の月日が流れ、組織のメンバーも全世界に拡がり、様々な考えを持つ者が現れる。
 そんな中、近代に成って、経済を握る国を持たない民族の集団が、伝統や格式に縛られるのを嫌い始めた。
 だが、どう足掻こうと組織内で使用される、薬物や技術は、全て伝統派に握られていた為、反抗する訳にも行かず従っていた。
 そんな時、全世界を巻き込む戦争が起き、そのどさくさに紛れてこの腐った組織の創始者が、当時の技術者や医師を引き込み、経済支援をしている顧客も引き抜いて組織から離れた。
 ヨーロッパのある国を操り、非道の限りを尽くさせ世界中の非難を受けさせて、その国の崩壊とともに行われた裏切りは、見事に功を奏して伝統派は一切創始者達の裏工作に気が付かなかった。
 創始者グループは自らの同胞を地獄に堕としつつ、この[マテリアル]と言う組織を作った。
 後手を踏んだ[組織]は、技術者と薬物と言う知的財産と、資金の柱で有るスポンサーを粗方持って行かれ、立て直しに奔走する。
 その間に[マテリアル]は地盤を確立して、[組織]に対抗出来る組織となった。
 誕生当初から[マテリアル]内でランクが決められ、ゲームが行われ始める。
 そして、強者のみが生き残って、今に至ると言う話だった。

 この話がどこまで本当かは、俺には判断のしようもないが、まぁこの組織のスタンスは理解出来た。
 要はこの組織は新興勢力の分派で、実力の有る物がどうしても必要だった。
 当時は、その敵対する[組織]に対抗しうる、人間の養成が急務だったんだろう。
 しかし、今はそれがこの組織の全てだった。
 目的など無い、強者が弱者を食い荒らし、弱者は強者に勝てる牙を研ぐ。
 [実力至上主義]それが、この組織の全てだ。
 そう[自分1人が強ければ、後の者は全て餌。何をされても、文句は言えない]それが、この組織の根幹だった。

 そして、強者は自分を守る為にルールを作る。
 堆く積み上げられたルールは、今では要塞のように、強者を守っていた。
 それがランクルールでありポイント制だった。
 この[マテリアル]と言う組織は全世界に根を張り、上位ランクの者だけが国を越えてゲームを行う。
 この国を越えたゲームは膨大な利権が遣り取りされ、それこそ国家の経済にまで影響する。
 だが、そのゲームを行うには、国内を勝ち抜き、地域を勝ち抜いて初めて可能となる。

 日本国内には、bPからbV0迄、プレイヤーと言う者が存在する。
 このプレイヤーと言うのは、言わずと知れた俺達の事だ。
 それぞれのbヘプレイヤーが所有する、ポイントで決まる。
 言わば序列だ。
 俺は、この組織に入った時、単純に組織のプレーヤーとして登録され、ポイントなんかは持っていなかったから、当然bV0から始まった。
 誰かから、ポイントごと譲られてプレーヤーになれば、当然その譲ったプレーヤーのbゥら始まる。

 このbヘ組織の中で、様々な意味を持っていた。
 資産であり、ゲームの種類であり、組織での権限である。
 これらのランクを管理し、ゲームを裁定するのが、[本部]と言う組織だった。
 この[本部]と言うのは、運営や医薬・技術の開発を統括する[事業部]と、各国のプレーヤートップが集まる[議会]に依り構成されている。
 その[議会]でも北欧、南欧、北米、南米、中東、極東と六つの地域に区切られた、各地域長が[理事]と呼ばれ、絶大な力を握っていた。
 因みに日本は当然、極東地域に所属し現在の地域序列は、7番目だ。
 経済力の有る香港を抱き込んだ中国がダントツのトップで、次いでオーストラリアが続き、韓国、北朝鮮、インドネシア、シンガポールがほぼ団子状態で、日本は少し落ちてその次だった。
 これは、単純に国土の大きさや、経済力、人口などでは決まらず、奴隷の保有量や質、医薬や技術の特許、プレーヤー達の総資産など、あらゆるポイントが判断材料とされている。

 そんな中、今回問題になったのが、[パテント]で有った。
 [パテント]とは文字通り[特許]の事で、晃のようなテクニカルVIPがその地位を維持する為の重要な物である。
 この組織は知的財産にはことのほか五月蠅く、その[パテント]もポイントとして認められていた。
 テクニカルVIPが開発した医薬品や技術は、それが使われる度、個人にポイントが振り込まれる。
 そのポイントは、全てテクニカルVIP個人の物であった。
 通常このテクニカルVIPに対しては、望まない限り、暗黙の了解として[不可侵]が守られている。
 だが、晃がこの1年で得たポイントは、フリーと言う立場で居られる程、少なくは無かったのだ。
 そう、晃が1年前に組織に登録した[洗脳薬]は、その効果と利便性のため世界中で爆発的に使用され、晃の元には膨大なポイントが振り込まれた。

 まぁ、それはそれで良しとしよう。
 だが、ここからが晃が俺に謝った理由となった。
 晃は登録時に俺の名前を[開発協力者]として入れていた。
 晃は2年前俺と知り合った事件で、開発中の新薬を使った。
 それは、俺も覚えている。
 和美や千恵、乙葉を堕とす時に使った薬だった。
 その時の臨床データーが、新薬の開発に大きく影響したという理由で俺の名前を挙げたらしい。
 この[開発協力者]と言うのが曲者で、[パテント]の譲渡権を持っている。
 つまり、晃と俺がセットに成らない限り、この新薬の[パテント]は他人には渡らないという事に成っていた。
 そして、この新薬の[パテント]に目を付けたのが、今回の相手[天童寺 宗治(てんどうじ むねはる)]だった。
 俺は晃のトラブルに巻き込まれた事を初めて知った。

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