狂牙
MIN:作

■ 第2章 ゲーム11

◆◆◆◆◆

 絶望的な状況は、1ヶ月近く経っても何ら変わらなかった。
 天童寺の調教師は、その調教を全て内密に行っていたからだ。
 闇に紛れ、人目を避けて染めて行くやり方は、目撃者の数を減らし、リスクを最小限に食い止める。
 それをこの魔女は熟知しているのか、今調教されている3人も、コレが同時に行われている事自体気付いていない。
 取り付く島も無いとはこの事だった。

 だが、そんな時1人のギャラリーが、調教に対する口出しを始めた。
[同じシュチエーションで、詰まらない]そう言う意見だった。
 そして、そのギャラリーはポイントを提示し、調教内容に[屋外調教]をリクエストした。
 この申し出を天童寺が受け、調教内容に[屋外調教]が加わった。

 これは、ゲームの内外で様々な意味を持つ。
 ギャラリーがリクエストする一番直接的な理由は、テーマの提示だ。
 自分が提示したテーマに[他のプレーヤーが、どう言う調教をするか見てみたい]と言う欲求である。
 それにより、ギャラリーは感化され研究し、新たな自分の調教を産み出す。
 その次に上げられる理由は、勝者が行うオークションの時、より優位な位置に立つ為だ。
 ギャラリーがポイントを出して、ゲームに関与した場合、そのポイントに応じ[優先権]が与えられる。
 この[優先権]は、場合により一発で奴隷を落札する事もある権利で、それ以外にもかなり優位にオークションを進められる。
 最後はこう言った注目度の高いゲームにのみ言える事だが、自己顕示欲を満たす為だ。
 注目度の高いゲームの最中に、ポイントを出して、自分の嗜好や存在をアピールし、組織内での力を示すのだ。
 まぁ、この場合天童寺が受けなければ、この男は[金を払って恥を掻く]と言う結果に成るんだがな。

 兎にも角にも、これでゲーム内に動きが現れる。
 俺には、願ってもない展開だったが、このギャラリーの申し出を知って、胡散臭そうな表情を浮かべた。
 国内bPとbSのゲームで有り、基本ポイント10,500で始まったゲームに、リクエスト出来る者など数える程しか居ない。
 俺はその相手を聞いて、大きく溜め息を吐いた。
 案の定申し出たのは、国内bQの徳田だった。
 この時、徳田は俺から巻き上げた金で肥え太り、前bQを俺がロストさせた事で、棚ぼたのポジションに座っていた。
 その徳田が、俺に有利に成るような行動を取る筈が無いのである。
 俺がこのゲームに負ければ、俺はこの地上から消えるし、俺がこのゲームに勝てば、次の俺の狙いは徳田自身に成るのだから。
 そんな徳田が、このゲームにしゃしゃり出てくる意味が分からなかった。

 だが、俺の不信感などお構いなしで、徳田の申し出は受理され、毬恵の露出調教が始まった。
 初めは買い物中の露出だけだったが、調教内容は加速し、野外奉仕に迄及んでいった。
 俺の元に届く映像は、6時間遅れの無修正映像だ。
 これに、現場に配置している工作員から、送られる映像が加味される。
 ルール上、天童寺は俺が吟味した加工映像しか見る事は出来無い。
 そのため、あいつの手元にこの情報が行くのは、24時間のタイムラグがある。
 [時間と情報]これが、唯一の俺の武器なのだ。

 俺は様々な角度から撮られる、毬恵の屋外奉仕を見詰めている。
 この映像の再生はもう何度目か解らないが、なにがしかの突破口をここから見付けるしか、今の俺には手だてが無かった。
 すると、俺の足下に蹲っていた優葉が、荒い吐息を漏らし始めた。
 俺は優葉に視線を向けると、優葉は蕩けた視線を俺に向け、切なそうに腰を震わせていた。
「なんだ…、お前もコレがしたいのか…?」
 俺が静かに問い掛けると、優葉はコクリと頷いて
「はい〜…、ご主人様〜…。優葉は、お外でご奉仕したいですぅ〜…、誰かに見られるかもって思うと、身体が熱くなりますぅ〜…」
 甘えた声で、俺に擦り寄ってくる。

 最近構って遣っていないから、不満が溜まって居るんだろうが、今はそれどころじゃない。
 俺は小さく溜め息を吐き
「そうか、お前はこんな風に、ご近所の旦那さんに、その身体を弄ばれたいんだな? 良いだろう、今すぐ行ってこい」
 優葉に静かに告げると、優葉はブンブンと首を左右に振り
「違います! 違います〜っ! 他の誰かじゃなくて、ご主人様にされたいんです〜っ!」
 泣きそうな顔で、俺に懇願する。
「今は、それどころじゃないのは解ってるだろ…。それとも、お前はそんな事も解らないのか?」
 俺は優葉を睨みながら、窘めた。

 優葉は泣きそうな顔で、俺を上目遣いに見ながら
「で、でも〜…、優葉見付けたんです〜…、ご褒美頂ける物…」
 ボソボソと呟いた。
 優葉の呟きを聞き、俺の表情が一変した。
 眉間に寄せた皺が消え、目を大きく開きながら優葉を見詰める。
 俺の背後で、乙葉がピクリと動く。
 恐らく今の乙葉の表情は、氷のように冷たくなってるだろう。
 最近の2人は、俺を取り合って余り仲が良く無い。
 構う回数が減ってる分、その少ない回数を取り合っているのだ。
 飼い主としては失格だが、今は本当にそれどころでは無い。

 俺は2人の奴隷の確執を気にしながら、優葉の肩を掴んで
「何を見付けた! 俺が気に入る情報なら、いくらでも褒美をやるぞ」
 優葉に問い掛ける。
 優葉は間近に迫った俺の顔をウットリとした目で見ながら
「あ、あの人…、私知ってます。私とも知り合いなんです。と言うか、千春さんのお店で、私をしきりに誘って居るんです」
 毬恵のアナルを犯している男を指さした。

 優葉の言葉を聞いて、俺はモニターを振り返る。
 そして、乙葉に指示を出そうとした時には、乙葉は既に動いていた。
 乙葉はキーボードを叩き、モニターに映る男の情報を検索し、映像に反映させる。
[川原栄吾(かわはら えいご)45歳 ○○物産営業第2部長、妻、長男、次男、実父母の6人家族。性格は強引で緻密、暴力的性癖有り…]
 毬恵にのし掛かり、腰を振っている映像の横に現れた、小さな窓に簡単なプロフィールが映し出された。
 俺がその映像を見詰めていると
「ご主人様…、コレをご覧下さい…」
 乙葉が静かな声で、俺に別の映像を見せた。
 その映像は、川原が毬恵を犯しながら、何かに気付き表情を訝しげに歪めたシーンだった。
 この後確か、川原はもう1人の男に、油性のペンを手渡している。

■つづき

■目次

■メニュー

■作者別


おすすめの100冊