狂牙
MIN:作

■ 第4章 回り始める舞台6

 電話を切った優駿は、次々に電話を掛け、宗介に合流する事を依頼する。
 スペシャルチームを作り終えた優駿は、金髪の女性に視線を向け
「ヘルマ、スケジュールの調整だ」
 短く命じると
「はい、2ヶ月先迄のスケジュールを、調整いたしまた。睡眠時間は、1日2時間を目途に計算しましたが750時間で、対処可能です」
 ヘルマはバインダーを片手に、優駿に告げる。
「相変わらず、仕事が速いな。お前も、今回は同行しろ。妹に合わせてやる」
 ニヤリと笑い、ヘルマに伝えた。
「はい、仰せのままに、マイロード」
 ヘルマは嬉しそうに微笑み、深々と頭を下げる。

 ヘルマが頭を下げた瞬間、扉が開き赤毛の美女を先頭に、4人のそれぞれタイプの違う美女が、全裸で入ってきた。
「おう、スケジュール調整するから、今から24時間解禁だ」
 優駿が告げると、4人の美女が[イエス マイロード]と声を揃えて答え、優駿に群がる。
 扉横に控えていた、黒髪の美女も、いつの間にかスーツを脱いで全裸になり、綺麗に畳んだスーツをヘルマに手渡す。
 軽く会釈を返し合うと
「ルー。お前が来ないと、始まらんぞ。順番は、お前からだろ」
 優駿が黒髪の美女に告げた。
「イエス マイロード。ルー、頑張ります」
 ルーと呼ばれた、東洋系の美女はフワリと執務机に飛び乗り、股間を突き出して
「マイロード、ご奉仕しても宜しいでしょうか」
 優駿に熱いまなざしで問い掛ける。
 ヘルマはそんな様子を見ながら、スッと一礼して部屋を出て行った。

◆◆◆◆◆

 深い緑に包まれた、広大な敷地の中に建つ一軒の家。
 白亜の大豪邸と表現するのが、ぴったりと当てはまる家だった。
 芝生が敷き詰められた中庭に、大きな石で出来たステージが有った。
 10m四方のそのステージは、全て黒と白の大理石で出来ており、そのステージを見下ろす形で、2つの客席が用意されている。
 5m四方の客席は、高さ2m程で、屋敷に向かって右手が黒大理石、左手が白大理石で出来ていた。
 ステージの縁は、中央から黒と白に分かれていて、客席と同じ物で1m幅の外苑部が作られている。
 外苑部の中は、8×8マスの黒と白の大理石タイルが千鳥に収まっていた。

 ステージ上には、白く美しい裸体を晒す、32人の女性が立ちつくしている。
 女性の頭には、それぞれ黒と白に塗り分けられた、6種類の冠を被っていた。
 黒の冠を被る者は白い客席を向き、白の冠を被る者は黒い客席を向いている。
 白の冠を被る女性は、その殆どがブロンドで、一部赤や茶色の毛が入っていた。
 それに対して、黒の冠は全員が漆黒の髪を持っている。
 そして、圧倒的に黒髪の女性の方が、美しく品があった。
 白冠の女性で比肩し得るのは、一際大きな冠とそれに比べ、少し小振りの冠を被る2名だけだった。

 黒冠の女性は16人がステージ中央に散らばり、白冠は9人だけがステージ中央、後の7人は黒い外苑部で項垂れている。
 項垂れる7人は、1人を除いて2人ずつ同じ冠を付けていた。
「クラフト卿。駒が少なく成りましたな…」
 黒の客席に座る男が、白の客席に座る男に問い掛ける。
「ざ、雑魚なぞ呉れてやるわ、どうせAクラス以下だ! 代わりは幾らでも居る。[F4ビショップ]」
 白人男性が告げると、黒い大理石パネルに立っていた、白冠の女性が、盤上を斜めに進み、黒冠の質素な冠を付けた女性に襲いかかる。
 黒冠の女性は、床に押し倒されても身動き一つせず、白冠の女性の為すがままに成った。
 白冠の女性は、必死の形相で黒冠の女性のオ○ンコを嬲り、乳房を激しく揉む。
 黒冠の女性はそれを受け入れ、眉根を歪めて快感を押さえつけた。
 暫く、熱い吐息が辺りを覆い、ヌチャヌチャと言う粘液を掻き混ぜる音が、穏やかな陽光を浴びる中庭に響く。
「3分経過…」
 黒い客席の男が静かに告げると、黒い冠の女性が、白い冠の女性の身体に手を伸ばす。
 すると、1分も経たないうちに、白い冠の女性が淫声を上げて、激しく髪を振り乱し始め、直ぐに全身を痙攣させた。

 荒い息を吐いて、全身をピンク色に染めた、白冠の女性は盤上で横たわった。
 黒冠の女性は、何事もなかったかのように、スッと立ち上がり、白冠の女性に近づく。
 ビクビクと余韻に震える白冠の女性の顔に、黒冠の女性は足を下ろし踏みにじると、顔を蹴り上げる。
 白冠の女性は、顔を押さえながら平伏し、頭を擦りつけて謝罪すると、四つん這いのまま盤上を去り、黒の外苑部に他の女性同様項垂れながら立った。
「最後のAクラスが消えましたな…。でわ、次は私の番だ。[A3ビショップ]」
 男が告げると、先程と同じように、今度は黒の女性が襲いかかり、白の女性を押し倒す。
 先程と違うのは、白の女性が黒の女性に手を伸ばす事無く、絶頂を迎え同じように盤上から排斥された。

 これは、[マテリアル]内の幹部同士が行う、[チェス]で有った。
 普通のチェスと違うのは、ただ駒がその場所を占拠すれば良いのでは無く、その場に居る駒に勝たなくてはいけない。
 そして、攻めて側の駒も、負けてしまう事が有ると言うところだ。
 勝敗は簡単で、単純に制限時間内に相手を逝かせれば良いだけで、もし双方決着が付かない場合は、その攻め手は無効となり、駒を元に戻して、同じ攻め手が次の手を打つ。
 勿論、何度も同じ手を打っても構わないし、全く別の手を打つのも可能だ。
 だが、通常は同じ駒を目掛け波状攻撃を加えるのが、このチェスの常套手段だった。
 そして、クラフト卿もセオリー通り1人の[ポーン]に集中攻撃を掛け、全て敗北する。

 黒の冠の女性は、全てSクラス以上で、下位クラスの奴隷が束に成ろうと、叶う筈が無かった。
 このチェスは[ポーン]はBクラス以上、後列の駒はAクラス以上、[クイーン]はSクラス以上、[キング]はSSクラスと下限が定められているだけで、上限は決まっていない。
 全てSSクラスで固めてしまっても、それはそれで構わない。
 だが、このチェスは、勝敗にはあまり意味が無く、駒の取り合いだけが全てなのだ。
 ゲーム中に敗れた奴隷は、即座に所有権が変わる。
 駒の女性は、絶頂を迎えた瞬間、その全ての権利が、勝者の手に委ねられるのだ。

 これを理解しなければ、クラウス卿のように貴重なSSクラスを奪われて行く。
 この後、盤上は天童寺の狩り場に変わり、クラウス卿は16人全ての奴隷を天童寺に奪われた。
 項垂れ唇を噛むクラウス卿に
「お前達、卿をおもてなししろ…」
 天童寺は、静かに命じて席を立つ。
「く、くそ! この借りは必ず返すからな!」
 クラウス卿は、16人の美女に囲まれ、捨て台詞を吐きながら、屋敷の中に消えて行った。
「ふん、雑魚が…。あんなのが、ヨーロッパ地区のNo.7とは、質が落ちたもんだ…」
 天童寺は、手に持ったグラスを煽り、手元に置いたパソコンの画面を切り替える。

 画面上には、葛西家の乱れた様子が映り、晶子の人体改造が終わった事を知らせる。
「ふっ、お前はどうなんだ…。儂を失望させるのか…」
 天童寺は画面の隅に浮かんだ、良顕の顔を見ながら問い掛けた。
 天童寺は、ソファーの背もたれに体重を預け、晴れ渡った空を見ると
「それも、また道…」
 ぼそりと呟いた。
 呟いた怪人の顔には、一切の表情が無く、何を考えているのか読み取る事は出来なかった。

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