狂牙
MIN:作

■ 第4章 回り始める舞台8

 昌聖はクスクスと笑いながら、千佳を見つめ
「って、みんなが言ってるけど、どうする?」
 唐突に問い掛ける。
 千佳は、昌聖の声に全く反応せず、項垂れた身体をぴくりともさせない。
「千佳ちゃん? 起きてるのはバレてるよ。足がブルブル震えてるし」
 昌聖が指摘すると、千佳の頭が跳ね上がり
「気付いてるなら、早く言ってよ! 何でも好きにすれば良いじゃない!」
 真っ赤な顔で、昌聖を睨み付け、喚き散らした。
 千佳の表情には、乙葉に教わった女王様の気迫が漲り、昌聖を圧倒しようとしている。

 だが、昌聖はその気迫をそよ風のように受け、クスクスと笑う。
 訝しそうに辺りを見渡すが、美咲達も一向にその圧力に押されていない。
 それどころか、昌聖同様クスクスと笑い合っていた。
 とまどう千佳に、昌聖がソファーからゆっくりと立ち上がると
「駄目だよ、そんなおいたをしちゃ…。でも、そんな雰囲気を出すなんて、訓練されてるのかな」
 千佳の前で眼鏡の奥から、気配を解放した。

 千佳は昌聖の物腰の柔らかさと、封印していた雰囲気に完全に騙されていた事を悟る。
(あっ、駄目…。こいつ、役者が全然上だ…。この雰囲気、ご主人様に…メチャクチャ近い…。こんな雰囲気…組織の…マテリアルの奴らしかいない…。私も、和美さん達みたいにボロボロのグチャグチャにされて、死んじゃうのね…。ご主人様ごめんなさい…)
 ガックリと項垂れ、全てをあきらめた千佳は
「好きなようにしなさいよ…。だけど、絶対私は何も話さないわ…。殺すなら、早く殺して…」
 蚊の鳴くような声で、ボソボソと呟いた。
(あらあら? 何…、この諦めの早さ…? そう言う世界で生きてるって事…)
 昌聖は千佳の反応に、少なからず驚き首を傾げる。

 暫く考えた後、昌聖は美咲達に視線を向け
「取り敢えず、美由紀、美咲、佐知子、歩美の順番で、尋問してみて」
 指示を飛ばした。
「はい、分かりました」
 4人は声を揃え、千佳の洋服を脱がせ始める。
 千佳は、一切の抵抗をせず、されるがままに成っていた。

 美由紀はいつの間にか部屋の隅に移動し、天井クレーンを操作して、嬉しそうに駆け戻ってきた。
 天井クレーンには、直径2m程の分厚い金属板がぶら下がっている。
 そんな美由紀の姿を見た、美咲が溜息を吐くと
「美由紀は、本当にそれが好きね…」
 苦笑混じりに呟いた。
「だって、美咲お姉様。私、これが一番感じるんですもの。上下左右何がなんだか分からないのに、全身を快感が走るあの感覚は、絶対ぶっ飛びますよ」
 美由紀が目を見開いて熱弁すると
「美由紀。言葉遣いが、下品に成ってるわよ。どんな時でも、心構えは忘れずにね」
 美咲が注意する。

 美由紀はペロリと舌を出して、首をすくめ
「はぁ〜い、美咲お姉様。申し訳ありませんでした。以後気を付けます」
 美咲に謝罪した。
 そんな美由紀を見て、美咲達がクスクス笑う様を、千佳は不思議そうに見つめている。
(何? この人達…、何か雰囲気違う…。私たちの所に、何か似てる…。聞いた事無いよ…マテリアルの中のメンバーは、全員鬼畜の筈なのに…この人達…本当に、鬼畜?)
 千佳は美咲達の醸し出す雰囲気に、疑問を感じながら更に別の事にも興味を抱き始めた。
(それに、この人達、身なりが可笑しい。何で、こんなバサバサの髪や、野暮ったい格好なの? マテリアルのメンバーなら、着飾らせるのが普通でしょ? ブスじゃ無いけど、奴隷のレベルから言うと良いところB? …なのに、物腰や雰囲気は…乙葉お姉様並み…何か、変! ちぐはぐよ!)
 千佳は美咲達の私服姿に困惑し、更に頭を混乱させ始めた。

 そんな中、美由紀の準備は着々と進み、千佳は腰と肩にベルト、四肢にそれぞれ金属板を付けられた。
 それらはそれ程大きくなかったが、異様な程重く千佳は目を見張る。
 美由紀はニコニコと何かのコントローラーを操作すると、天井の金属板が真ん中から上下に分かれ、ユラユラと揺れながら降りてきた。
 地面に付いた円盤は、ゴトリと音を立てて床に落ち着く。
「ほ〜ら、開始〜っ」
 美由紀が楽しそうに告げ、千佳の身体を押して、その円盤に乗せると、いきなり地上から1m50p程の高さに、千佳の身体が俯せに浮き上がる。
「きゃ〜っ! な、何これ!」
 千佳は悲鳴を上げて、身体を動かそうとすると、千佳の身体はまるで無重力のように、クルリと身体を回転させ、逆さまに浮いていた。

 千佳は手足を上下に引っ張られる感覚に驚き、身体を縮めると、またクルリと水平に浮き上がる。
「はわわわわっ! こ、これ何なのよ」
 慌てた千佳は、美由紀に向かって喚くと
「うふふふっ。これはね、昌聖様が開発した、吊り具よ。ロープも何も無いけど、空中に浮かんで逃げられないの。磁力の力で浮いてるんだけど、かなり自由度は高い設定にしてるから、どんな格好でも出来るでしょ」
 美由紀は楽しそうな顔で千佳の顔をのぞき込み、優しく説明する。
「さぁ、私達も用意しましょ。ご主人様の前ですからね」
 美咲が涼やかな声で告げると、全員昌聖の元に行き、身支度を調え、首輪を嵌めて貰った。

 視界から美咲達が消えた千佳は、途端に不安に襲われるが、直ぐに戻って来た美咲達を見て、息を呑んだ。
 宙吊りに成った千佳の顔を覗き込む、美咲達は既に変装用のレベルダウンメイクを落として、素顔を晒している。
(えっ! だ、誰この人達!)
 千佳は一瞬そう思ったが
「お待たせ〜。今から本番よ〜」
「可愛がって上げますわ」
「怖くないわよ…。リラックスして感じてね…」
「気持ちをしっかり持って、狂わないで下さいね」
 4人の口々に告げる声に、同一人物だと認識した。

 千佳は、この不思議な4人の美女に目線を奪われ
(な、何で? こ、こんなの反則だよ! だって、いきなりレベルが跳ね上がるなんて…。やだ、この雰囲気乙姉様みたい! よ、4人の乙姉様に…私どうなっちゃうのー!)
 初めて、自分の得た情報がピッタリと符合し、戦慄を覚え震え上がる。
 だが、それは千佳の経験から感じた事で有って、事実とはいささか違う物が有った。
 千佳が恐れた乙葉は、女王様で有るが基本的には良顕の奴隷である。
 その、技術の大半は、良顕を楽しませるために有り、千佳に与えたレズプレイは、所詮技術の流用に過ぎない。
 その上、良顕はほぼ留守にする事が無いため、乙葉も良顕に対する技術は磨いても、レズの技術は磨いていなかった。

 だが、この4人は違う。
 昌聖が、優駿の罠を攻略する間は、美咲を長にした訓練が行われ、日夜[昌聖様のため]を合い言葉に、各自の快感をコントロールしてきた。
 相手は当然、同じ立場で有る自分達である。
 24時間耐久勝負や、1対3の快楽訓練は、お手の物。
 女がどこのポイントでどう感じるか、熟知しているので有った。
 しかも、昌聖に心酔した快感を覚えさせられているため、その快感点は恐ろしく深い。
 お互いが、お互いの身体を嬲り抜き、その快感点まで達する事の有る4人のテクニックは、乙葉のそれを軽く凌駕する。
 千佳は、その4人のテクニックをこの後叩き込まれて、その恐ろしさに震え上がるだろう。
 いや、ドップリと嵌るのかも知れない。

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