狂牙
MIN:作

■ 第4章 回り始める舞台11

 良顕は一歩間合いを詰め、一也に近付く。
 ピリリと、緊張の糸が2人の間で、張りつめて行った。
「叶良顕と申します。近藤一也さんですね…」
 良顕が一也に問い掛けると
「警察の方ですな、どう言ったご用件でしょう?」
 一也は頷きながら、良顕に問い掛けた。
 この挨拶だけで、お互いが有る程度の情報は所持している事を知らせている。

 良顕は頷きながら
「腹の探り合いは、無しにしましょう。今日は、率直なお願いに参りました」
 一也に申し出ると
「お願い…ですか…。それはどんな…?」
 一也は探るような視線で、良顕に問い掛けた。
 良顕は力強く頷き
「はい、お願いです」
 一也の目を見つめ、言い切る。

 一也はス〜ッと目を細めながら
「それは、どう言った物でしょう…」
 良顕に問い掛ける。
 良顕は麻のジャケットを持ち上げて示しながら、親指と人差し指を胸ポケットにソッと差し込み、ゆっくりと1枚の写真を取り出した。
 その写真を一也に見せながら
「この娘を返して欲しいんです」
 静かに告げる。

 一也はその写真を見て
「このお嬢さんは、どう言った関係の方かな? 差し支えなければ教えて頂きたい」
 良顕に問い掛けると
「妹…です。そう、掛け替えの無い、私の家族です」
 力強い声で、一也に答えた。
 一也はその言葉を聞き、スッと視線を鋭くすると
「そのお嬢さんは、確か名字が貴方と違いましたな」
 低い声で問い掛ける。
「はい、血は繋がっていません。ですが、それより深い物で、私達は繋がっています。ですから、私は単身でここに立ったんです。1%でも、望みがあるならと…」
 良顕は、低く固い声で一也に告げた。

 2人は暫く無言で見つめ合い
「残念ながら、私の手元に、そのお嬢さんは居ない」
 一也は呟くように告げると
「ご老人!」
 良顕は、苦しそうな表情で一也に詰め寄る。
 しかし、直ぐに一也は手を挙げて良顕の言葉と動きを制し
「だが、心当たりが無い訳でもない…」
 静かに告げた。

 その言葉で、良顕の肩からスッと力が抜ける。
「で、取引の条件は?」
 緊張がゆるんだ良顕に、一也がスッと刃のような視線を向け問い掛けた。
 だが、良顕はその視線をまともに受け止めながら、低く静かな声で
「マテリアルという組織をご存じですか?」
 一也に問い掛ける。
 一也はその言葉を聞いた瞬間、良顕の言葉を制し
「店の中の監視装置を切れ! この会話の傍受も許さん!」
 天井を睨み付けて指示を出した。
 すると、天井の四隅と中央に小さく灯っていた、緑色のライトがフッと赤に変わる。

 それを確認した一也は、良顕の前から手を降ろし
「お前さん、今の言葉の意味、分かってて言ったんじゃろうな…」
 伝法な口調に変わりながら、良顕に問い掛けた。
 良顕はジッと一也の目を見つめ、静かに力強く顎を引いた。
 その返事を見た、一也は大きな溜息を吐き、右手で両目を押さえ身体を後ろにもたせかける。
「ふぅ…。やっかいな事に、首を突っ込んだもんじゃ…。困ったもんじゃわい…」
 ブツブツと呟くと、肩をガックリと落として、再び溜息を吐く。
 しかし、直ぐにある事に気が付いて、顔を跳ね上げて良顕を見つめた。
 良顕は、一也の表情で大きく顎を引き頷く。

 そして、良顕の口が重々しく開いた。
「ご子息は、ある[ゲーム]の当事者の家族と接触してしまいました。私は、情報を操作する立場に居り、その情報を封じています」
 静かな良顕の言葉に、いぶかしむような表情を浮かべ
「封じる…。と言う事は、お前さんは受け手という事じゃな…」
 問い掛けると
「はい。私の相手は、天童寺と言います」
 良顕は腹を決めていたのか、決して語ってはいけない事を一也に告げる。
「なんと! こりゃ、とんでもない大物…。お前さん、何者じゃ…?」
 良顕の答えに、一也が目を剥いて思わず問い掛けると
「はい、国内でNo.4の位置にいますが…、本部から疎んじられています」
 良顕は包み隠さず、事情を告げた。
「じゃろうの…、あいつらとは、毛並みが違うわい。匂いとでも言うのかの…。随分儂らに近い…」
 一也の言葉に、良顕は無言で頭を下げると
「私は出来うる限り、ご子息の情報は隠します。ですから、ご子息には…。この件に近付かないようにして頂きたい」
 自分の思いを一也に告げる。

 一也は暫く考え込むと
「つまりお前さんは[儂らの事は忘れるから、儂らもにも忘れろ]と言う事じゃな…」
 ボソボソと良顕に問い掛けた。
 良顕はその問い掛けに、大きく頷くと
「出来れば…です。お立場も、有ると思いますが、どうかお願いできますか…」
 一也に依頼する。
 一也は再び考え込み
「あんた達の暗躍に、目を瞑れと言うんじゃな…。しかし、この情報を儂が漏らしたら、お前さんは、処分されるじゃろ。それはどうする?」
 良顕に問い掛けると
「家族を囚われている状況より、容易いです。地下にでも何にでも潜り、私は私の目的を果たします」
 良顕は不敵な笑みを浮かべ、一也に答えた。

 その笑みにつられた一也が
「ほう、お前さんの望み?」
 思わず問い掛けてしまうと
「マテリアルを食い破る事です」
 重く鉛を呑んだような声で、静かに答えた。
 一也はその声と、思い詰めたような瞳の色に、思わず息を呑む。
 しかし、直ぐにクッと笑みを浮かべると
「変わりもんじゃな…、お前さんは…。良いじゃろ、儂の責任でその条件呑んでやる。ところで、お前さん、儂らの組織が何か気付いて居るのか?」
 良顕の依頼を承諾し、問い掛ける。
「はい、推察ですが[紳士会]だと思っています」
 良顕はハッキリと一也の質問に答え、自分の考えを告げた。

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