狂牙
MIN:作

■ 第5章 血の連鎖16

 小夜子はコクリと頷くと
「そろそろ、使えるように成ったみたいね。振動球使いなさい」
 啓一に命じた。
 啓一は、無言で頷くと腕時計型リモコンを操作し、振動球を動かし始める。
「きゃひぃ〜〜〜っ!、あがっ、あがっ、くぐぅ〜〜〜〜っ」
 美由紀の頭が、狂ったように振り回され、髪の毛が暴れた。
「鬱陶しいわね」
 美由紀の正面に身体を密着させる晶子が、美由紀の暴れる顔を両手で挟み、唇を合わせる。
「ぐげっ…」
 美由紀の喉奥から、くぐもった声が漏れ、喉の中を何かが上下した。

 それは、晶子の舌だった。
 唇を合わせた晶子は、自分の舌を美由紀の喉奥に差し込み、蹂躙していた。
 美由紀は、込み上げる嘔吐感に喉を震わせるが、晶子の舌はそれを許さない。
 ピッタリと咽頭を塞いで、声すら漏らさせなかった。
 目を白黒させて藻掻く美由紀だが、晶子は楽しそうに美由紀を窒息させて遊んでいる。
 鼻の穴が大きく開いて、鼻水を吹き出し呼吸をしようとするが、気管を舌先で抑えられているため、どうしようもない。
 美由紀の顔が痙攣し、目がクルリと反転し掛かると、晶子は気管を解放する。
 ブバッと音を立てて、大量の鼻水と共に呼吸が回復し、酸素を求めた。
 そして、呼吸が落ち着き掛けると、又気管を塞ぐ。

 美由紀は、あらゆる快感とあらゆる苦痛を同時に味わい、何度も絶頂を迎える。
 ビクビクと白目を剥いて痙攣する美由紀の背後に、スッと小夜子が近付くと、首の静脈に注射針を立て、薬液を流し込み
「お前は肉鞘…。お前は道具…。お前の肉穴は、物を詰め込む為だけに存在する…。快感は空気…、痛みは水…。お前はこの2つ無しでは、生きていけない…。この2つの為なら、何でもする…」
 美由紀の耳元に囁き、少しの間をおいて
「何でも喋る…」
 付け足すように、呟いた。
 美由紀の身体はガクガクと震え、充血した眼球が左右バラバラに激しく動く。
 こうして、美由紀の脳に強い暗示が植え付けられ、美由紀は深い洗脳に沈められる。

◆◆◆◆◆

 モニターを見詰める良顕は、完全に表情を殺していた。
 もし、ここで感情を顕わにすれば、それはすなわち美由紀達と自分達の関係が、本部に知れ渡るからだ。
 それは、愚の骨頂であり、美由紀自身の身にも危険を招く。
 良顕は、感情を表に出す事も、ルールを破る強硬手段に出る事も、一也に情報を流す事も、何一つ出来ず、静観する事だけが唯一取れる行動だった。
(くっ…、情けない…。目先の事だけしか考えず、戦闘要員を育成しなかったツケだな…。いや、あいつら相手だと、只の自爆要員になっちまうか…。駒が少ない…、痛感するぜ…)
 良顕は、自分の今まで取った行動を悔やみ、溜息を吐く。
 しかし、そんな物は何の役にも立たない事を理解し、顔を上げた。

 すると、モニターの中では、小夜子が美由紀の首筋に薬品を注射し、暗示を掛け始める。
『お前は肉鞘…。お前は道具…。お前の肉穴は、物を詰め込む為だけに存在する…。快感は空気…、痛みは水…。お前はこの2つ無しでは、生きていけない…。この2つの為なら、何でもする…』
 そこまで言って、言葉を止めた時
(これは、尋問行為じゃない! 調教行為だ!)
 良顕は、少しでもポイントを消費させようと、咄嗟に抗議をしようとした。
 だが、小夜子は固定カメラに視線を向け、ニヤリと笑って
『何でも喋る…』
 一言付け足した。
 良顕は、完全に自分が遊ばれてる事を理解し、舌打ちしながら項垂れる。

 だが、良顕のその姿はポーズだった。
 実際の良顕は、相当焦っていたのだ。
(やばいぞ…。あの様子じゃ、確実にあの子は口を割らされる。[紳士会]の名前が出た瞬間、あの子の死刑が確定してしまう)
 良顕はそこまで考えた瞬間、腹を決めた。
(ここは、どんな怪我をしようと、あの2人を殺して救出に向かうしか無い。先ずは乙と優を避難させるか…)
 考えをまとめ、顔を乙葉に向けると、時既に遅く尋問が始まってしまった。
 良顕の身体が、咄嗟に反応し殺気が膨れ上がると、そこには思わぬ光景が繰り広げられる。

 床に降ろされた美由紀に、小夜子が問い掛けると
『私の…ご主人様は…、工学部の…桑原教授です…。大学に入って…直ぐに奴隷にして頂き…調教されました…』
 美由紀は虚ろな表情で、嘘をつき始めた。
 小夜子は啓一を見て
『工学部の桑原って知ってる?』
 問い掛けると、啓一は大きく頷いて
『はい、桑原教授は一部の生徒の間では、[学生喰い]で有名です。私の知ってる中でも、2人桑原の奴隷になっています』
 小夜子の質問に答える。

 良顕は、思わぬ展開に呆気に取られ、身体の力を抜いた。
『ふ〜ん…。エロ教授のペットか…。まぁ、大学だから調教するペットが多いのは、頷けるわね…。それで、これだけ完成度が高かったって訳か…』
 モニターの中の小夜子は、頷きながら美由紀に向き直り、様々な質問を始める。
 その質問は、桑原の個人情報から、調教の内容、期間、場所、2人で出かけた回数様々に及んだ。
 美由紀はその質問に、虚ろな表情のまま素直に答える。
 そしてそれは、様々に質問の仕方を変え、美由紀の答えの矛盾を探すが、美由紀の回答は、全て符合し何一つ矛盾が生まれなかった。
 それは、まるで美由紀が本当に、桑原教授の奴隷で、一から調教されたような証言である。

 呆然とモニターを見詰める良顕の横に、静かに晃が腰を下ろすと、携帯電話を弄り始めた。
 良顕が晃の行動に、訝しそうに視線を向けると、晃は目で携帯電話を示す。
 その合図に、良顕が視線を携帯電話に向けると[さいみんでぎじきおくがうえつけられてる]平仮名でメモ機能に打ち込まれていた。
 良顕が確認したのを見て取った晃は、変換前のその文字を素早く消し[たぶんやくぶつがすいっちになったとおもう]別の言葉を打ち込む。
 あまりの事に、良顕が驚きながら
「そんな事が出来るのか?」
 思わず声に出して呟いてしまう。
(ったく、折角内緒話にしてるのに…。まぁ、肝心な部分は隠せたから良いか…)
 晃は、良顕の呟きに驚きの表情を浮かべ
「理論的にはね…。まあ、私がウイザードクラスの催眠術師なら、可能かも知れないわね…」
 渋い顔をして答えた。
 晃が言った言葉は、晃程の薬学の知識があり、尚かつウイザードクラスの催眠を操れれば、可能だと言ったのである。

 恐るべき技だったが、この美由紀にされた処置は、主人である昌聖自体知らなかった。
 美由紀のこの処置は[ウィッチ]の異名を持つマインドマスター、デュディェが昌聖に内緒で行っていたのだ。
[被害者の会]で昌聖に再会したデュディェは、昌聖の甘さから奴隷である美咲達に、危害が及んだ時の事を予想した。
 昌聖の性格上、奴隷を盾に取られれば、間違い無くその身を投げ出す。
 デュディェはそれを危惧し、薬物などの洗脳が行われた場合、昌聖の記憶を奥深くに押し込め、関係を否定するように施したのだ。
 つまり[敵の手に落ちた場合は、自分だけで死ね]と言う意味だったが、美咲達はその趣旨を理解し、喜んで処置を受けたのだった。
 だが、その措置は昌聖を守るためだけでは無く、当の本人の命まで守るとは、術を施したデュディェすら思わなかった。
 そして、この後更に効果を発揮するなど、誰1人予想すらしていなかった。

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