狂牙
MIN:作

■ 第5章 血の連鎖18

◆◆◆◆◆

[ピンポロン]と間の抜けた、チャイムの音が良顕の居るコントロールルームに響く。
 良顕の頭が、その音に跳ね上がると
『天童寺様より通信が入っております。コレは[強制告知]ですので、拒否は出来ません』
 スピーカーから、女の声が響いた。
「強制告知ですって! それは、本部権限じゃないの!」
 女の声を聞いた晃が、声を張り上げて反論するが、モニター画面に天童寺が現れ
『随分、コソコソと動いてるな? どうした、一体どこに行こうとしてたんだ?』
 良顕に問い掛けて来た。

 その言葉を聞いた、乙葉・優葉・晃の3人の表情が強ばる。
「どこも、ここも、無いだろ…。こんな番犬を付けたんだ。あんたなら、解ってたんだろ?」
 良顕は1人だけ、ソファーにもたれ掛かり、鷹揚に天童寺に問い掛けた。
『ふん、可愛げが無いな…。そんな所も、儂はお前を気に入ってる……。まぁ、この話は良い…。ところで、お前の友人達がどう成ったかは、知りたくないかな?』
 天童寺の言葉の流れに、乙葉と優葉が顔面を蒼白にして、良顕を見詰めた。
 だが、良顕はそんな天童寺の言葉に、少しも動じる事無く
「まさか、手荒な真似はしてないよな。いや、出来ないか…。ルールを重んじるこの組織で、敵対相手の所有物に危害を加える事は、その場で反則だもんな…」
 低く響く声で、天童寺に問い掛ける。

 天童寺は、かみ殺した笑いを上げながら
『気付いていたか…、やはり食えない奴だな…。いつから気付いた?』
 良顕に問い掛けて来た。
「一昨日…かな…。俺が命じてた事に、何ら報告が無くなったのが、その頃だ…。俺の[家族]は、少なくとも俺の頼みを無視しない…」
 良顕がボソボソと呟くように告げると
『はははっ、[奴隷]を[家族]と言い切るか…。甘いの…大甘だわい…。それで、この世界を渡って行けると、本気で思っておったのか?』
 天童寺は、大笑いした後、直ぐさま低い威圧を込めて、良顕に問い掛ける。

 良顕はそんな天童寺の威圧をどこ吹く風で
「渡って来た。今も、渡っているつもりで居る…。無理をすれば、渡りきる事も出来るぜ…」
 薄く獣の笑いを浮かべながら、天童寺を睨み付ける。
 良顕の背後で、爆発的に殺気が膨れ上がった。
『よせ! 止めぬか…。まだ、ゲームの最中じゃ!』
 天童寺が[キリングドールズ]に鋭い声を掛ける。
 天童寺の命令を聞いて、スッと双子の殺気が収束した。

 良顕は、フッと笑いながら
「でっ、俺達も[お招きしよう]って話しなのか?」
 殺気を掻き消し、天童寺に問い掛けると
『ああ、勝負は見えとるが、儂の屋敷で寛ぎながら結末を見守らんか? 勿論、拒否は出来んがな…』
 天童寺は、楽しそうに良顕に告げる。
 良顕は軽く両手を上に上げ
「へいへい、解りましたよ。どこにでも、お出まししますよ…」
 軽い口調で、告げながら立ち上がり
「晃…。その黒のレザージャケット取ってくれ…」
 晃にかなり、重量感のあるジャケットを指さす。

 晃はそのジャケットを見た瞬間、顔を強ばらせて
「り、良ちゃん…。これって…」
 レザージャケットを指さし、良顕に問い掛ける。
「ん? そうだ、そのジャケットだ…。いざと成ったら、後はお前頼みだ…頼むぞ…」
 良顕はそう言いながら、晃の手からライダースーツのようなレザージャケットを受け取り、袖を通す。
 レザージャケットは、ハーフコート程の丈で、かなりの重量感があり、まるで鎧のようだったが季節感が無いだけで、特殊な物のようには見えなかった。
 だが、このジャケットの本当の用途は、用意させた良顕と用意した晃以外知らない。
 重さ11s有るジャケットの1sは、普通の素材だが、後の10sは、糸状にしたコンポジション爆薬の繊維で出来ていた。
 このジャケットの火薬は、ボタン1つで半径50mを爆砕出来る量である。
 基本的には無線で起爆させるが、貫通痕が付いたり、切断部分が出来たり、決まった手順で脱がないと、内臓の発火装置が作動する。
 つまり、この重厚なジャケットは、自爆用で有った。

 ジャケットを身につけ、ニヤリと晃に笑いかけ、乙葉達の方を向くと
「乙、優に千佳を連れて来させろ。全員でお出かけだ…」
 良顕は乙葉に命令する。
 そんな良顕の背中を見詰め、晃は項垂れ下唇を噛み締めた。
 優葉が千佳を連れてコントロールルームに現れると、良顕は乙葉を横に並べ
「良いか。俺に何か有ったら、必ず晃の指示に従え。こいつなら、必ず上手くやってくれる…」
 そう言って、晃の指示に従うように命令する。
 晃は、良顕の大切な者を預けられてしまい、泣きそうな顔に成った。

 良顕は双子に向かって顎を引くと、ロングヘアーの魔夜が先頭に立ち、ショートボブの魅夜が一番後ろに付く。
 7人が地下に降りると、良顕所有のワンボックスに近付き
「誠に恐れ入りますが、ドライバーの方以外は、拘束させて頂きます」
 ショートボブの魅夜が告げ、ロングヘアーの魔夜が拘束した。
 拘束は、最小限で完璧な物だった。
 両手首を前面で固定し、両肘を背面で繋ぎ、両膝頭を拘束する。
 椅子に座る事は出来ても、暴れる事は不可能な拘束だった。
 車に乗った良顕達は、5分程走ったホテルの地下駐車場に入った。
 拘束されたまま、エレベーターで屋上のヘリポートに移動し、そのままジェットヘリで2時間のフライトを経て天童寺所有の孤島に着いた。

 白亜の邸宅の中庭に降り立った良顕達は、拘束を外され邸内に招き入れられる。
 屋敷の広大なリビングには、既に良顕サイドの主要人物がソファーに座り、仏頂面を並べていた。
 良顕がリビングに入ると、その仏頂面が驚きに変わり、沈鬱な表情に染まる。
「なんて顔(つら)してるんだ。俺がここに居るんだ、腹据えろ」
 良顕が笑いながら、全員に告げると
「で、やすね。グチグチやっててもしゃ〜ねぇや」
 忠雄がドッシリと腹を据え
「ご主人様に無様な姿は、見せたくありません」
 啓介が虚勢を示した。
 すると、千春と夏恵の姉妹も開き直る。

 天童寺は、忠雄達の掌の返しように、笑い始め
「結束が強いな…。ウチの組織では珍しい限りだ…。だが、それだけでは、話に成らん。適切な駒を所有するのが、勝者の秘訣だ…」
 良顕に楽しそうに言った。
 良顕は、天童寺の言葉を鼻で笑いながら
「例えば、[組織最高の暗殺者を奴隷に持つ]とかか?」
 目の前のグラスを煽りながら、天童寺に問い掛ける。
 その言葉を聞いた瞬間、天童寺の眉がピクリと跳ね上がり、良顕を計るように睨み付けた。

 良顕は天童寺の視線に気付きながら、空になったグラスをテーブルに起き
「悪いが、もう1杯貰えるかな」
 直ぐ横にいるメイド奴隷に、ウインクしながらグラスを示す。
 メイド奴隷は、顔を引きつらせ天童寺にチラリと視線を向けるが、その表情に顔を更に引きつらせながら、グラスを下げて奥に引っ込んだ。
「それは、どういう事かな…」
 低く響く声で、天童寺が良顕に問い掛けると
「あんた、俺を馬鹿にしてんのか? 本来、本部の指示しか受けない連絡員が、あんたの命令を恭しく聞きゃ、誰でも解るだろ? この双子が俺の元に[連絡員]として来たなら、指示を聞くのは[俺の指示]で[あんたの指示]じゃ無い。そんな中、逆の事が起きれば必然、この双子の目的は俺の監視って事で、あんたの息の掛かった者って事に成る。違うかい?」
 良顕は、天童寺に自分の得た情報を整理し、その結果から弾き出された答えを提示した。

 問い掛けを突きつけられた天童寺は、表情を掻き消しジッと良顕を見詰める。
 天童寺に取って、極秘となっていた事が、既に良顕に知られてしまったのだ。
 だが、天童寺は次の瞬間大声で笑い始め
「簡単に見破ったな…。そうだ、この2人は儂の奴隷だ。本部に、条件付きで貸し出しておる。たまたま、儂の元に配属されているがな…」
 あっさりと事実を認める。
 良顕は、空惚けた表情で新しく差し出されたグラスを手に取り、チラリと視線を向け鼻で笑う。
 舌戦の鍔迫り合いが始まった。
 敵の懐に取り込まれた良顕は、全てを理解した顔で、天童寺の前に座る。
 天童寺は、この若い獣の度量の深さに、心の中で笑いをかみ殺した。

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