狂牙
MIN:作

■ 第5章 血の連鎖20

 感情を押し殺した良顕の問い掛けに
「何を怒っている? これは、彼らの望んだ事だ。ほら、見てみろ」
 天童寺がモニターを手で指し示すと
『啓一…。素晴らしい死に方だったわ。これだけ、無様な死体をあの人の会社の前に晒せるなんて…』
『お兄ちゃん、凄いわ。こんな、恥さらしなお兄ちゃんを子供に持ったって知ったら、パパは絶対落ち込むわ…』
 毬恵と晶子はうっすらと笑みを浮かべながら、啓一の死を賞賛する。
『さぁ、アレの役目は終わったわ。次は、お前達よ。アレに負けないように恥を晒して、孝司を絶望のどん底に落として上げなさい』
 小夜子が無表情に告げると
『はい、由梨様。痴態の全てを晒して、あの人を裏切りますわ』
『お姉様、任せて下さい。私の、変態な身体で思いつく限りの、恥を晒してパパを絶望させます』
 嬉しそうに、小夜子に応えた。

 毬恵と晶子は、最早完全に狂っていた。
 自分の血肉を分けた息子が、思い慕っていた兄が、屈辱の屍を晒し、父親を貶める事を心の底から望んでいる。
 3人の女達は、啓一の死体に何の興味も無くすと、散歩の帰りのように談笑を交わしながら家路に着いた。
 それを薄笑いを浮かべ、酒を片手に見守る天童寺。
 顔色1つ変える事無く、天童寺を世話する無数のメイド奴隷。
 良顕達は、まるで自分達が異常で有るような錯覚に囚われ、その状況を見詰める。
「さぁ、明日は又イベントが有るぞ。明日は、孝司が帰って来る。さてさて、告別式が見物に成るぞ」
 天童寺は楽しげに呟きながら、グラスを空けると席を立つ。
「眠れんかも知れんが、眠る事を勧めるよ…。明日も長い…。まぁ、明日でケリが付くかもな…」
 天童寺は大声で笑いながら、リビングを後にする。
 残された良顕達は、鉛を飲んだような、沈鬱な表情を浮かべていた。

◆◆◆◆◆

 良顕は自室に戻ると、晃を呼んだ。
 良顕に呼ばれた晃は、沈鬱な表情で良顕の前に現れる。
「晃…。お前、いつでも有る程度の薬品は持ってたな…?」
 良顕の問い掛けに、晃は訝しげな表情を浮かべ
「えっ、ええ。でも、軽い麻痺薬や、麻酔薬、消毒薬程度よ…」
 晃が良顕に答えると
「ああ、2・3時間程動けなければ、それで構わない…。そんな薬有るか?」
 良顕は頷いて、再び問い掛ける。

 良顕の言葉に、晃は頷くと
「乙葉達に使う積もりね…。あの部屋に来させないで、[ボン]ってやるつもり何でしょ…」
 良顕は薄く笑って
「差し違えるぐらいしか、俺にはもう手が無い。忠雄に手配させてる、みんなでこの島から逃げろ…」
 晃に静かに告げた。
「あんた、やっぱり馬鹿でしょ…。あんたが死んだら、乙葉と優葉が生きてる訳無いじゃない。ううん、忠雄や啓介、千佳に千春や夏恵…。それに、私だって生きて無いわよ! 死ぬなら、みんなで死のうよ…」
 晃が涙を浮かべ、良顕に訴える。

 だが、良顕は穏やかな微笑みを浮かべ
「そう言うと思ってた…。だから、俺はお前に俺の頼みを聞いて貰いたい。俺の意志を明日、みんなに伝えて欲しい…。俺は、乙葉と優葉を愛してる。だから、あの2人は絶対に死なせたく無い。お前や忠雄達で、あの2人を守って欲しい…。あいつらが、死を選ばないように…説き伏せて欲しい…。これは、俺の命令じゃ無い…、友として…家族としてのお願いだ…。頼む、俺の我が儘を聞いてくれ…」
 頭を深々と下げて、晃に懇願した。
 晃は、込み上げる涙が、止まらなかった。
 晃は口を開け閉めし、言葉を呑み込んで項垂れる。
 俯いた晃は、固く目を閉じ何かを呟いて
「解ったわ…。みんなにそう伝える。これが、薬よ…。この薬で、3時間は身体が動かなくなるわ。解毒剤も持ってるから、なるべく寸前で投与して…」
 顔を上げて、ポケットの中からタブレットを取り出す。

 良顕は晃の手から、薬品を受け取り
「有り難う…。みんなを呼んでくれ、今日は最後の別れだ…」
 微笑みを浮かべると
「うん、解った。思い切り騒ごう…」
 晃も精一杯の微笑みを浮かべ、良顕に答える。
「おい、念のため釘を刺しておくが、さっきの話しは、オフレコだぞ。ベラベラ喋るんじゃねえぞ」
 良顕がニヤリと笑って、晃に告げると
「もう、馬鹿! 言う訳無いでしょ。私、こう見えても口は固いんですからね」
 晃が、笑顔を作って右手で叩く真似をし
「今呼んでくるね…」
 踵を返して、部屋を出て行く。

 良顕は晃の背中を見送り、扉が閉まった時
「ああ、解ってる。お前の口の固さも…、性格も…、頑固さも…。全部解ってるよ…」
 薄く笑いながら、ボソボソと呟いた。
 そして身体をベッドに仰向けに倒し、天井を見詰めながら
「だから俺は、お前を信頼するんだ…。頼んだぜ…晃…」
 優しい微笑みを浮かべ、更に静かに呟く。
 その表情は、穏やかさの中に強い意志が通っており、見る者を魅了する物だった。
 良顕は、自分の中にある余分な物を全て吐き出し、一つの決意だけを心に留める。
 全ての責任を負い、切腹する武士(もののふ)のように、良顕の表情は澄み渡り、清々しさを漂わせた。

 皆を呼びに行った晃が数分で戻って来ると、良顕の部屋はにわかに賑やかに成る。
 だが、その賑やかさの裏には、そこはかと無い絶望感が漂っていた。
「もう、何暗く成ってんのよ。どうせ、明日はみんな死ぬんだし、今日は最後の晩餐よ。思い切り楽しまなきゃ損だわよ!」
 晃の言葉を聞いた全員が、ギクリと顔を引きつらせる。
 その言葉を聞いた良顕が、ベットから上体を起こし
「ああ、晃の言う通りだ…。今日は何でも許す、楽しめ…」
 静かに、乙葉達に告げた。
 良顕の言葉に、一斉に全員が良顕を見詰め、その顔を見て息を呑み込む。
 全員が良顕の意志をその表情から読み取り、そしてその表情に魂を奪われた。

 乙葉と優葉の瞳が滲み、涙がポロポロと流れ落ちる。
 千佳は、ガクガクと震え、強い後悔の念で泣き崩れ、千春と夏恵はポカンと口を開けていた。
 啓介は、良顕の表情に憧れを抱き、忠雄はクスリと笑って
「ご主人様…。俺は、貴方に出会えて本当に、満足です…。感無量って奴です…」
 良顕に頭を下げる。
 そんな中、晃だけは下唇を噛み、苦しそうな表情で俯いていた。
 良顕は、上着を脱ぎ捨て
「抱かれたい奴は、好きなように抱いてやる。みんな、好きなように振る舞え、今日は無礼講だ!」
 微笑みを浮かべながら、全員に告げる。

 良顕の言葉で、乙葉と優葉が良顕に泣きながらしがみ付き
「あう、あう〜…。ご主人様…、ご主人様…愛しております…。死ぬ程、愛しております…」
 乙葉が感情を爆発させて、良顕に愛の告白を行う。
「ああ、俺もだ…。乙…、俺もお前を愛してる…。面と向かって言うつもりは無かったがな…」
 乙葉の頬を優しく両手で挟み込み、顔を持ち上げソッと優しい口吻をした。
「許されないのは、解っています。ですが…、ですが…私も、ご主人様を愛しています…。どうか、愛する事をお許し下さい…」
 優葉が泣きながら、良顕に告白すると
「俺は、お前を恨んでなんか居ない…。以前から言っていたが、お前も被害者だ…。俺も、優葉を愛してる…。女としてだ…」
 良顕は乙葉を離し、優葉の頬に手を添え、乙葉と同じように優しく口吻する。
 乙葉と優葉の感情は爆発し、良顕の身体に自分達の身体を押しつけ、何度も[ご主人様]と呟きながら、身体に唇を這わせた。

 乙葉と優葉の激情で、主を占有された忠雄達は、それぞれ自然に分かれる。
 忠雄は千春の手を取り、啓介は千佳を慰め、夏恵は晃に絡み付いた。
 4組はそれぞれ、思い思いの場所で、身体を絡め肌を合わせ、最後の夜を謳歌する。
 次のステージの幕が上がるまでは、10時間は有るだろう。
 だが、9人の男女には、何ら手段を講じる方策など無い。
 ただ、ゲームの終わりを見届け、自分達に降りかかる死を受け止めるだけだった。
 それぞれの思いを胸に、乱交は続けられるのだった。

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