狂牙
MIN:作

■ 第5章 血の連鎖21

◆◆◆◆◆

 孝司はその連絡を成田で聞いた。
「な、何だと! 啓一が自殺? な、何を馬鹿な事を言ってるんだ。一体君は、誰なんだ!」
 国際線の発着ロビーで、孝司は声を張り上げ携帯電話に怒鳴る。
『えっ? 先程も申した通り、私は刑事の室川と申します。ご子息の遺体が、検死を終えたんですが、奥様とお嬢さんは…。その、大変ショックを受けておられまして…。一向に、要領を得ないんで…。こちらの方に足を運んで頂け無いかと…』
 電話口の刑事は、丁寧に孝司に依頼する。
 孝司の顔から、サッと血の気が引き
「ほ、本当なんですか?」
 震える声で、再度問い掛けた。
『ええ…。誠に残念でしょうが、コレは事実です…。旦那さんに来て頂かないと、どうにも収拾がつきそうも無いんですよ…』
 刑事の困った声に、孝司は返事を返すと場所を聞く。
 通話を切った孝司は、呆然とした表情でその場に立ちつくした。

 その孝司を探しに来た副社長の矢口が、蒼白な顔で孝司を呼んだ。
「か、葛西! た、大変なんだ!」
 矢口が大声で啓一を呼び、啓一は我に返って出口に向かう。
 発着ロビーを出た孝司に、矢口が蒼白な顔で
「け、今朝。うちの会社の前で、全裸の男が自殺する事件が有ったんだが。連絡を聞いて確認したら、お前の所の啓一だったんだ」
 矢口が説明する。
 矢口は葛西の昔からの友人で、共同経営者だった。
 2人で小さな貿易会社を始め、共に力を合わせ葛西貿易をここまで大きくした。
 孝司にとっては、無二の親友であり、毬恵よりも長い付き合いをしている。

 その矢口の言葉に、孝司は蒼白な顔を向け
「ちょ、ちょっと待て矢口。お、お前啓一の姿を見たのか? ほ、本当に…、啓一だったのか?」
 にじり寄りながら、震える声で問い掛けた。
「あ、ああ…。変わり果てた…。本当に…、変わり果てた姿だったが…。間違い無く、啓一君だ…。こんな物…見せるのは、どうかと思うんだが…。内緒で、撮った物だ…」
 そう言いながら、矢口は自分の多機能携帯を差し出し、啓一の変わり果てた姿を見せる。
 ここで、孝司が冷静で有れば、矢口の悪意を理解出来ただろう。
 矢口が差し出した数枚の写真は、[内緒で撮った]と言うには、あまりにも鮮明で、あまりにも悪意に満ちていた。
 仰向けの足下から、全身像を舐めるような写真。
 正面から焼き印がしっかり読み取れる、顔のアップ。
 改造された、下半身がしっかりと写り込んだ、斜め上からの写真。
 そして、どこで死んだかがよく分かる、ズームアウトショット。

 4枚の写真を見た孝司の身体から、ガックリと力が抜ける。
 それを見た矢口の項垂れた口角が、キュッと引き上がった。
 そんな、矢口の表情の変化に気付かず、孝司は蒼白の顔でワナワナと震えている。
(な、何が有ったんだ…。お、俺が出張に行ってる間に、一体何が有ったんだ…)
 孝司の思考は、考えても解らない事を何度も問い掛け、無限にループした。
「ここです。着きました」
 運転席に座る、男が静かに告げると、孝司は思考を止め顔を上げる。
 目に飛び込んできたのは、警察病院だった。
 孝司は後部座席の扉を開けて、転げるように車を飛び出し、警察病院に駆け込む。

 受付カウンターで問い掛けると、警察官に案内されて、地下に移動する。
 地下の薄暗い廊下で、長椅子に座り抱き合う女性達が居た。
 その前に、くたびれたスーツを着た、中年の男が立っている。
 毬恵と晶子の啜り泣く声が、地下の廊下を満たし、刑事と覚しい男が沈痛な表情で見守っていた。
 刑事が孝司に気付いて、歩み寄ると
「葛西孝司さんですね? 私、所轄の上原と申します。この度は、何と言って良いのやら…。遺書も残っていましたし、状況的に言っても自殺は確定的なんですが…。その…、少し…。身体的にですね…。問題が有って…」
 上原と名乗った刑事が、困った表情で孝司に説明する。
 その刑事の説明を遮るように
「啓一はどこですか!」
 思い詰めた声で、問い掛けた。

 刑事は一瞬ギョッとし、肩を竦めると
「こちらです」
 目の前の鉄製の引き戸を示し、静かに告げる。
 孝司は直ぐにその扉に近付き、引き戸を開いた。
 薄暗い6畳程の中心に、ストレッチャーが一つ置いてあり、頭の上に台が据えられ、そこで線香が薄く煙を上げている。
 ストレッチャーの上には、シーツが掛けられた遺体が置かれ、顔の部分には大きな白い布が被せられていた。
 孝司は蹌踉けるような足取りで、ストレッチャーに向かい、顔の部分にある布をはぐる。
 そこには、無毛の啓一の顔が有った。
 いや、正確には生首だ。

 啓一の胴体から離れた生首は、頭部の後ろに楔のように宛て布を敷かれ、固定されて始めて上を向いている。
 満足げな顔をした額に、皮膚が引きつり火傷で書かれた[チ○ポ奴隷]の文字。
 孝司は沈痛な表情で、その頭部を撫でながら、身体にかけられたシーツに手を伸ばす。
 勢い良くはぐられた、シーツの下から現れた、啓一の身体は胸骨の上から恥骨まで真っ直ぐに断ち割られ、それを縫い合わせた跡が有った。
 その縫合跡は、生者にする物では無く、あくまで内臓がはみ出さないように縫い合わせた、雑な仕上げである。
 孝司は、その縫い跡にムッと怒りが込み上げたが、死して尚勃起したような啓一のチ○ポに驚き、下腹部に有る[Human Dildo]の火傷跡を見てガックリと肩を落とす。
「彼…。なんと言いますか…相当マニアックな世界に居たみたいですな…。コレが遺書になります…」
 刑事はそう言うと、一通の手紙を孝司に手渡した。

 孝司が受け取った手紙には、長々と[主人]に対する感謝と忠誠の為に死を選んだ事が書かれ、家族に対する言葉は、只の一文字も書かれていなかった。
(な、何だこの遺書は…、啓一は…この主人と言う奴の為に、こんな身体に成って…、あまつさえ、死を選んだと言うのか…)
 確かに啓一の字で書かれた手紙を孝司は握りしめ
「こ、この遺書の中の…[主人]って、誰なんですか?」
 震える声で、刑事に問い掛ける。
「いえ、それはこちらも知りたいんですが…、完全な自殺ですからね。捜査と言う訳にもいかないんですよ…。これが、偽装自殺とかならまだしも、状況は完全に揃ってますし…」
 刑事が頭をガリガリと掻きながら、ぼやくように答えた。

 孝司は刑事の言葉を聞いて、シーツと布を元に戻すと
「啓一は、いつ返して貰えるんですか?」
 呟くように問い掛ける。
「あっ。ご遺体は、手続きして頂けると今直ぐにでもお返し出来ます。どうぞ、こちらになります」
 刑事はホッとした表情で、孝司を案内しようとした。
 その態度と言葉で、刑事の心境が理解出来る。
(こんな、自殺に時間は割きたくないか…。こいつにしてみれば、厄介者以外の何物でも無い…)
 孝司の頭の中には、笑いながら将来を語る啓一の表情が駆け巡っていたが、目の前の刑事には単なる業務内の1案件でしか無い。
 孝司は刑事の後に続き、手続きを済ませ啓一の遺体を引き取った。

◆◆◆◆◆

 啓一の遺体は、一旦自宅に引き取ったが、直ぐに矢口が手配した葬祭場に運ばれる。
 矢口の取り計らいで、親戚一同や友人関係には、既に連絡が行き届き啓一の葬儀の準備は、ほぼ終わっていた。
 孝司は、啓一が安置された部屋でガックリと肩を落とし、死に化粧を施された啓一の顔を見詰めている。
 孝司の後ろには、毬恵と晶子が涙声で、啓一との思い出を呟き合っていた。
(そうだ…。本当に…良い子だった…。正義感もあり…、真っ直ぐで…、希望に胸を膨らませていた…。優しくて…、まじめで…、自慢の息子だった…。それが…、何故…)
 孝司は毬恵と晶子の言葉で、自分自身も啓一との思い出を揺り動かされ、溢れる涙が止まらなかった。
「おい、孝司…。親族の方、集まって来たぞ…」
 矢口が霊安室に入り孝司に耳打ちすると、孝司は涙を拭って立ち上がり
「矢口、済まんな…何から何まで…」
 矢口に頭を下げて、霊安室を出て行く。

 矢口は扉が閉まったのを確認すると、身体を起こしてニヤリと笑うと
「気にするな、それ以上の事はさせて貰うから。おい、お前らしゃぶれ」
 ボソボソと呟いた後、後ろも見ずに毬恵と晶子に命令した。
「「はい、畏まりました」」
 矢口の命令を聞いた毬恵と晶子は、ピタリと啜り泣きを止めると、矢口の前に回り込むとワンピースのスカートを捲り上げ、足をM字に開いて両手を床に着け犬の[待て]の姿勢を取る。
 毬恵も晶子もガーターにストッキングを止めているだけで、パンティーは穿いていない。
 ギンギンに勃起したクリチ○ポは、目立たないように、亀頭部分をガムテープで下腹部に貼り付けられている。
 下半身を晒した2人は、濡れた瞳で矢口を見上げ、従順に許可を待った。

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