狂牙
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■ 第6章 狂った牙12

 天童寺は、その様子を見ながら金髪碧眼のメイド奴隷を呼び、耳打ちをする。
 メイド奴隷は、天童寺の言葉に頷くと、直ぐに壁際のメイド奴隷を連れて退出した。
 天童寺は視線を良顕に向けながら
「魅夜、魔夜。こっちに来い」
 キリングドールズに命令すると、直ぐに2人は立ち上がり、天童寺の元に駆け寄り、左右に分かれて立った。
「叶君。本部の束縛は解除された。今では只の奴隷で、君の物だ」
 天童寺は、良顕にそう告げながら強い視線をぶつける。

 暫く視線を交わし、良顕が口を開く。
「俺にどうしろ…と?」
 良顕が問い掛けると
「これは、儂の娘だ。この期に及んで、勝手な申し出かも知れんが、この2人の事を頼む。身体強化の改造を受け腕は十分に立つから、面倒を見続けて欲しい。絶対に本部には、渡さないで欲しいんだ。頼む、儂の願いを聞いてくれ」
 天童寺は、身を切られるような声で、良顕に懇願する。
「勝手な言い分だな…、人の家族は壊し尽くして、自分の家族は守りたいってか? どの口が言うんだ」
 良顕が呆れ気味に問い掛けると、背後で錯乱していた小夜子が、更に酷くなり始めた。

 天童寺の腕の中で、小夜子は奇声を発しながら、暴れ回り
「きぃ〜〜〜っ! まだよ! 足りないの! もっと! もっと作らなきゃ! ご主人様が! ご主人様が〜〜〜! ひ〜〜〜っ! 宗治…! 私の宗治が…! 殺されちゃう…! 壊されちゃうの〜〜〜っ…!」
 狂ったように叫び始めた。
 天童寺は、更に身体をきつく抱きしめ、落ち着かせようとする。
 だが、良顕は小夜子の言葉に、驚きを隠せなかった。
(今、小夜子は宗治が殺されるって、言って無かったか? どういう事だ)
 良顕が考え込んでいると、小夜子が激しく咳き込み、口から肉の塊を吐いた。

 天童寺は、小夜子を見て驚き、苦しそうな視線で小夜子を見詰める。
 小夜子の肉体が、限界を向かえたのだ。
「もう少し、待ってくれ…。直ぐに楽にしてやる…」
 天童寺は、優しい視線を小夜子に向け、耳元に力強く言った。
「天童寺…。小夜子は、ひょっとして…」
 良顕が[家族か?]と聞こうとした時、天童寺が先に口を開く。
「ああ、小夜子は儂の母だ…。今年で、66才に成る…」
 天童寺の言葉に、良顕達が絶句する。
「ちょちょ…ちょっと、待って! それじゃ、小夜子は老化防止剤を使って、何年経ってるの?」
 晃が驚きの余り、飛び出し天童寺に問い掛けると
「儂を産んで直ぐ、先代に処置をされたらしいから50年で、投与回数は99回だ…」
 天童寺は、その事実を打ち明けた。

 それを聞いた晃が
「はいぃ〜〜〜〜っ! 99回って、嘘でしょ? そんなの、聞いた事も無いわよ!」
 素っ頓狂な声で、喚き散らす。
「研究データーは、全て地下のコンピューターに入ってる。嘘だと思うなら調べてみろ」
 天童寺が静かに晃に告げると、晃は腕組みをしながら
「そうか…。小夜子が本部でも、特別な存在だったのは、こういう事だったのね…。正に生きる奇跡だったんだ…」
 晃が納得したように呟くと
「人体改造は、儂の趣味でも母の趣味でも無い。先代の趣味だ…。母は、儂を人質に取られ、先代の望む人形を作らされていた。儂が、先代を殺す30年前まで、20年間ずっとだ。だが、儂に代が変わり、母は解放されたが15年前、薬の副作用で脳をやられた…。その頃から、母は儂を先代と間違えるように成った。人体改造を行わなければ成らないと言う強迫観念が、その頃から強く現れ、それをしなければ母は、狂ってしまう…。言い訳かも知れんが、儂には鬼畜の連鎖を選ぶしかなかった…」
 強く痙攣する小夜子の身体を抱きしめ、天童寺は苦しそうに語る。

 そんな天童寺が、キッと強い視線を良顕に向け
「だが、それだけでは無い。お前もまた、鬼畜の道を進まねば成らん。何故なら、それをしなければ、この国が滅ぶからだ!」
 天童寺が言い切った。
「この国が滅ぶ?」
 良顕が問い掛けると、天童寺は大きく頷き
「[マテリアル]の[ゲーム]は世界中で起こっている。そう、最早国家間の損益に関わって居る。お前が[ゲーム]に手心を加えれば、この国は各国の狩り場に変わるぞ。お前は、それを抑えられるのか?」
 良顕に問い掛ける。
 良顕は突きつけられた問い掛けに、即答できなかった。
 元々、巻き込まれ、妻と妹を取り返すだけの戦いだった良顕に、この国の運命をどうこうしようと言う意識は無い。

 暫く考えた良顕は、天童寺を見据え
「やらなきゃ成らないなら、キッチリと仕事はする。ようは、俺の信念を貫いて、そいつらを叩き潰せば良いんだろ」
 良顕が天童寺に答えた。
 良顕の言葉を聞いた天童寺が、フッと笑い
「その情がお前の運を引き寄せたのかな…。最早何も言うまい…、細かい事は由木に聞け。その仕事の重さに、潰されるなよ…」
 良顕に告げる。

 良顕が頷くと、天童寺の視線が出入り口に向き
「おお、来たようだ…。娘を頼む交換条件だ…、お前が約束するなら、催眠を解いてやろう…」
 入ってきたメイドが連れて来た2人の女を顎で示す。
 その姿を見た良顕の目が大きく見開かれ、晃や乙葉達も表情が固まる。
「お前は、情に流され目が曇る…。[マテリアル]の整形技術を舐め過ぎだ…。山内は、儂の依頼には逆らえんから、殺される前に引き取った。どうだ、必要ないか?」
 天童寺が良顕に告げると、ボンヤリと宙に視線を飛ばし、ユラユラと揺れている女達の名前を呼んだ。
「和美! 千恵!」
 だが、和美と千恵はその声に反応すらせず、只涎を垂らしながらユラユラと揺れるだけだった。
「無駄だ。2人は、深々度催眠で外界との意識を完全に断っている。2人を目覚めさせるのは、儂の声でキーワードを告げなければ、絶対に元には戻らない」
 天童寺が良顕に言い切った。

 良顕は天童寺を見詰め、ギリッと歯噛みをすると
「卑怯よ!」
 晃が天童寺を罵倒する。
「卑怯でも何でも構わん! コレが今の儂に出来る、最後の交渉だ!」
 天童寺が晃に怒鳴り返すと
「鬼でも何でも、全部俺がまとめて面倒見てやる! 直ぐに2人を元に戻せ!」
 良顕の身体から、強い獣の気配が立ち上る。
「おお〜っ! 約束だぞ!」
 天童寺は、喜色を浮かべて大声で、和美と千恵のキーワードを告げた。

 すると、2人の身体がビクリと震え、キョトンとした表情で周りを見渡し
「あれ〜? 何で、ご主人様…。居るんですか〜?」
「おりょ? ここって…、何所? 何してんの私?」
 惚けたような声で、良顕に問い掛ける。
 良顕はブルブルと震えながら
「天童寺さん…心から感謝する…。約束は、絶対に守り通します」
 天童寺に敬意を込め感謝を告げた。

 天童寺は、スッと頭を下げながら
「実は、もう1人も生きている…」
 良顕に静かに告げる。
 良顕の顔が驚きに染まり、天童寺を見詰めると
「もう1人は、儂が手を回す前に、徳田が連れて行った…。恐らく、まだ生きてはいるが、無事かどうかは解らん」
 天童寺は静かに首を振って、良顕に取って重大な情報を教えた。
「感謝します!」
 良顕は再び、深々と頭を下げる。

 天童寺はそんな良顕にフッと笑うと
「感謝は要らん。その代わり、譲って欲しい物が有る…」
 そう言うっておもむろに立ち上がると、入り口に立つ1人のメイド奴隷の元に走り、革のジャケットを奪い去る。
 天童寺はそれを素早く羽織り、起爆可能状態にするとグリップを握り、ピンを抜いて放り投げた。
「天童寺さん!」
 良顕が驚いて、天童寺を呼ぶと
「自分のケリは、自分で付ける。この屋敷の事は、このアリサに聞け。儂に20年仕えて、殆どの事は熟知しとる」
 天童寺は金髪碧眼の20代後半に見えるメイド奴隷を示し、小夜子を抱えて中庭に向かう。
「魅夜、魔夜。息災でな…。主人に尽くせよ…」
 中庭に出る前に、2人に向かってニヤリと笑う。
「「お父様!」」
 キリングドールズが、悲痛な声を上げると、天童寺は良顕に向かって
「庭を汚す」
 一言告げて、飛び出して行く。

 中庭を抜けて、森に入る寸前で、天童寺は起爆スイッチを入れる。
 凄まじい爆音と爆風が巻き起こり、リビング自体も振動した。
 バラバラと音を立てながら、巻き上げられた土砂が、辺りに降り注ぐ。
 天童寺が散った場所は、直径10m程地面が抉れ、その爆発の威力を示していた。
 天童寺は自害し、その全ての権利は良顕の物となった。
 こうして、良顕は[マテリアル]日本支部長に就任する。
 新たな牙と爪を手に入れて。

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