狂牙
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■ 第6章 狂った牙13

 良顕は[ゲーム]の終了後、日本支部長の引き継ぎを終わらせ、アジトに戻って来た。
 実際、天童寺の言っていた通り、日本は微妙な立場に有り、虎視眈々と狙われている。
 それは、奴隷としても研究材料としても、優秀な日本人女性の人気の高さが原因だった。
 現実を知った良顕は、そのプレッシャーを両肩に乗せ、慣れ親しんだコントロールルームに座る。
「やはり、ここの方が落ち着くな…」
 コントロールルームのソファーに身を投げ、大きな溜息を吐きながら呟く。
「このような、小さな建物。ご主人様にはお似合いに成られませんわ」
 金髪碧眼の美女アリサが、不満そうに呟くと
「なら、帰れば良いじゃありません? ここには、私が居ます。アリサさんはどうぞ、[要塞島]を管理して下さい」
 乙葉がアリサに嫌味を言う。

 アリサは天童寺所有の奴隷の中でも、トップとして仕えていた。
 その美貌、その知識、その技術は、トップの名に恥じない物である。
 そのアリサと乙葉が、事有る毎に衝突し、啀み合う。
 それは、良顕グループの一つの名物に成りつつあった。
 良顕は溜息を吐いて、頭を抱え
「おい、もう止めろ…。仲良くしてくれとは言わないが、喧嘩はするな…。アリサ、乙葉は俺の大事な奴隷だ。乙葉も、アリサが居ないと支部長の業務に支障が出る。2人とも、必要なんだから、好い加減にしてくれ…」
 2人に告げると
「「はい、ご主人様。仰せの通りに…」」
 2人とも全く同じ台詞を、同じ感情で告げる。

 良顕は視線をそんな2人から、リビングの真ん中に立つ、美由紀に向ける。
 美由紀はぼんやりとした表情で、視線を床に投げているが、その瞳には何も映っていない。
 小夜子にヘリコプター内で施された処置により、美由紀は一切の記憶を無くしたままの状態だ。
 生活的な物は覚えている物の、物事に対する興味すら無くしている。
 まるで、生きる屍だ。
 良顕は溜息を吐いて視線をその奥に向けると、こちらはこちらで痛ましさを覚える。

 そこには、ブラウスにタイトスカートの毬恵と、薄いグリーンのワンピースを纏った晶子が立っていた。
 どちらも、両手足を拘束され、洋服の下には貞操帯が嵌められている。
 毬恵と晶子は、小夜子が居らず、主人を設定していないから、誰の言う事も聞こうとしない。
 直ぐに、2人で絡み合い快楽を貪ろうとするのだ。
 小夜子に刷り込まれた事とは言え、お互いの存在意義はSEXに有ると思い込んでいる。

 晃に改造手術された部分を戻せないか診察させたが、既に脳が今の状態を認識しており、尻尾やクリ○リスを切除した場合、幻肢痛等を起こす恐れがあると診断された。
 その他の改造部位も、特殊な技術が応用され、元に戻す事は不可能だった。
 良顕は溜息を吐いて
(この2人は、もう一般社会に復帰するのは無理だ…。毬恵の旦那を説得して、俺の参加に入って貰うしかないな…)
 この2人の処遇に頭を悩ませる。

 良顕が溜息を吐いてると、もう一つの頭痛の種がコントロールルームに入って来て
「「ご主人様、周囲のチェック終了しました」」
 黒いスーツ姿で平伏し、報告した。
「ああ、魅夜、魔夜。ご苦労さん…、適当に寛いでくれ…」
 良顕が軽く双生児に告げると
「「はっ! 待機させて頂きます」」
 2人はスッと立ち上がり、良顕の座るソファーの背後に立って、[休め]の姿勢を取る。
 キリングドールズの2人は、今では良顕の専属ボディーガードとして、1日の殆どを共に過ごす。
 たまに離れるのは、トイレの個室と今のような四周警戒の時だけだ。
 良顕は天童寺に勝ったは良いが、膨大な悩みを抱え込んでしまった。

 そして、今最も良顕の頭を悩ませているのは、今日の会合だった。
 良顕は一也に[ゲーム]の終了後、誰にも知られないように連絡を入れていた。
 当然、美由紀の事も有ったが、孝司の身柄を確保しているのは、一也達[紳士会]である。
 毬恵達の今後も含め一度話しをしたいと、一也に告げると一也は煮え切らない声で、日にちを指定して来た。
 その約束の日が、今日なのだ。
 当然、良顕は極一部のメンバーで出向くつもりで居たが、[要塞島]を出る時点で雲行きが妖しくなり、結局大所帯の移動となった。
(マジで、洒落に成らない…。魔夜と魅夜も頑として俺から離れようとしないし…。アリスに至っては、未だ謎だらけだ…。あの天童寺の実質的な右腕だぞ…、得体の知れなさは、群を抜いてる…。[奴隷です]、[はいそうですか]って訳には行かない…)
 良顕はまたも大きな溜息を吐き、頭を抱え込む。

 そして、良顕が気にする通り、この二組にはそれぞれ思惑が有った。
(あの技を使う青年…。間違え無く[雷帝]の関係者…。あの若さで、あの技が使えるなら、昔噂で流れた[雷帝]の息子かも…)
 魔夜と魅夜は、モニターに映る昌聖を見て思い、尚かつ良顕が隠し通したい知り合いであると推測した。
 2人は昌聖の事を、自分達を散々苦しめた[雷帝]と呼ばれる、[紳士会]の元[ナイトマスター]の息子だと思い込んでいた。
 2人は、有る野望を持っていたが、本部の連絡員として働いている間は、絶対に叶わない事だった。
 それが、父の敗北により、立場的な問題は緩和され、尚かつ今まで探し求めていた、野望の手掛かりまで掴む。
 これが、魔夜と魅夜が良顕から離れない、真の理由だった。

 そして、もう1人の思惑は、ズバリ良顕の器だ。
(さ〜て、もっと見せて頂戴…。まだ、奥が有るんでしょ…? 全部私に見せて、私を満足させて…。私をひれ伏させて…)
 アリスは人物フェチだった。
 アリス自体は、奴隷として振る舞い、奴隷の登録をしているように、完璧にデーターは揃っていたが、実際はプレーヤーである。
 ただ、自分の性癖を満たす為、天童寺と組み、天童寺に仕えていた。
 アリスは、自分の服従癖を満たす為に、天童寺に従っていたのだ。
 だが、アリスは自分の認めた者にしか従わない。
 雄として、アリスの雌をひれ伏すに値しなければ、アリスは平気で寝首を掻くつもりで居た。
 その見定めの為に、アリスは同行したのだ。

 良顕は考え込み、今回の会見は晃と美由紀それと毬恵と晶子を連れて、出向く事にした。
 美由紀は何よりも早く昌聖の元に返してやりたいし、医学的な説明をする為にも、晃の同行は不可欠だ。
 毬恵と晶子の状態も、孝司に見せなければ成らないし、今後の対応を相談する上でも必要だった。
 そこまでの答えを出すと、後は如何にして達人姉妹と、得体の知れない奴隷を撒くか考える。
 良顕は腕時計にチラリと視線を向け
(時間がねぇな…。美由紀と毬恵達は晃に先に連れて行かせて、後で合流しよう…。俺1人なら、このアジトからも何とか抜けられるだろう…)
 考えをまとめると、晃に目配せをして
「晃、そろそろ知り合いの病院に行く時間じゃないのか?」
 無茶振りをする。
 晃は眉根に皺を寄せ、文句を言おうとしたが
「もう、解ってるわよ…。今、連れて行こうと思ってたとこよ…」
 良顕の視線に気付き、口裏を合わせ毬恵と晶子、放心している美由紀を連れて行く。

 ごく自然に事が運んで、良顕は心の中で安堵の溜息を吐き、周囲を見渡すと誰1人違和感に気付かず、それぞれ自分の用事をしている。
 そんな中、良顕は有る事に気が付き
「あれ? アリスはどこに行った?」
 姿の見えなくなった、アリスの行方を聞く。
「えっ? そう言えば、晃さんが出る前に、スッと居なくなりましたわ」
 乙葉が良顕の質問に、答える。
 良顕は姿が見えなく成ったアリスに、不気味さを感じながらも、タイミング的に別の動きと判断した。

 晃が出て行って、5分程経つとスッと良顕は立ち上がり
「クソだ! 付いてこなくて良い…」
 魔夜と魅夜に告げて出て行く。
 その言葉に、ピタリと足を止めて良顕を見送り、10秒程してから再び動き始める。
「あ、あの…。どちらに…」
 乙葉が魔夜と魅夜に怖ず怖ずと問い掛けると
「「お手洗いで御座います…」」
 丁寧な口調で有無を言わさぬ迫力を込め、乙葉に告げた。
 乙葉は、今まで奴隷達の長をして来たが、この2人を迫力で押し切る事が出来ず
「そ、そうですか…。場所解ります?」
 思わず下手に出てしまう。
「はい、この屋敷の配置は、完璧に入っております」
「お気をお遣いに成られないで下さい」
 優雅に頭を下げて、スタスタと出て行った。

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