狂牙
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■ 第6章 狂った牙20

 良顕が腕組みをしながら考え込んでいると、魔夜と魅夜はいつの間にか良顕の足元ににじり寄り
「でも、でも…私は、辿り着きました…。私の全てを掛けて、お仕えしお守りする方が、私の求め続けた方でした…」
「とうとう…とうとう、私は見つけました…。私の全ての支配者、私の命を捧げお慕いする方が、現実に現れました…」
 熱の籠もった瞳で、良顕を見上げ身体をすり寄せる。
「ちょっ、ちょっと待て! お前らの話は、解ったけど。俺の方は終わってないぞ! 俺はお前達を孕ませるとも、何とも返事はしてない! 落ち着け!」
 良顕は魔夜と魅夜から慌てて身体を離し、2人に告げた。
 魔夜と魅夜は縋るような、拗ねたような視線を向け、身体をくねらせる。

 良顕は困ったような顔で、頭を掻きながら
(こいつらは、正直今の俺達に一番足りない技術と力を持ってる。だが、こいつらの忠誠を得る為に、子供を作るのはな…。まだ、涼子も香織も助け出してないのに、迂闊な返事は出来ない…)
 良顕は困り果てた顔で、2人を見下ろした。
 無論、背後からヒシヒシと伝わる刺すような視線には、気付いている。
 良顕は更に強く頭を掻きながら
(乙葉にすら、子供の事は問題にしなかったのに、こいつらを孕ませる約束なんて、絶対無理だ…)
 大きな溜息を1つ吐くと
「実際の所、俺には誰かと子供を作る気持ちは無い。人の不幸を食い物にしている俺に、そんな資格は無いと思ってるし、俺の家族をまだ助け出しても居ない。そんな俺が、子供の事を考えるのはおこがましい」
 2人に自分の胸の内を吐露した。

 良顕の言葉を聞いた魔夜と魅夜は
「ええ、構いません。直ぐにとは申しませんので、いつかその機会を与えて下されば、私達は本望です」
「はい。秘術に因り、処女の証は御座いませんが、殿方を受け入れた事は御座いません。その時迄、私達の始めては、ご主人様に捧げるよう取っておきます」
 2人がまだ、未経験だと言う事を良顕に教える。
 良顕の顔が驚きを浮かべ
(って、おい。今の口調だと、こいつら処女か? まぁ、正直雌ライオンより剣呑だから、誰も手を出せないのは解るが…、秘術って…何か、嫌な感じだな…。でも、まさかな…)
 妙に納得して、溜息を吐きながら、ある疑念を思い浮かべ否定した。
 良顕の視線に気付いた2人は、妖艶な微笑みを浮かべ
「未経験ですが、アリスには色々教えて貰ってます」
「私達の教わった事を、ご主人様にご披露させて下さい」
 更に身体を密着させながら、懇願する。

 魔夜と魅夜が懇願を口にした時
「あらあら? 2人とも、私はそんな風に教えたの? お前達が私の教えた事を実践する時が来たら、どう振る前って教えた? もう、お嬢様じゃないし、[本部の者]でもない。お前達はただの奴隷なの。相応しい格好に成りなさい」
 アリスが魔夜と魅夜に告げる。
「「はい、先生」」
 魔夜と魅夜はアリスの言葉に大きく頷くと、身に纏っている黒のスーツを脱ぎ捨てた。

 真っ白な肌で、均整の取れた美しい裸身が晒される。
 大きくは無いが小振りでも無い、発達した大胸筋に支えられた張りの良い美乳が、ツンと乳首を持ち上げ挑戦的に震え、縊れた腰から大きく張った大臀筋が女の柔らかさを演出していた。
 ムッチリとした太股と、バネを秘めた脹脛は、鍛え上げられたアスリートのような硬さを湛えつつも、うっすらと乗る脂肪が柔らかさを伴わせる。
 鍛え上げられた腹筋は綺麗に分かれているが、それを覆う肌の滑らかさは、大理石のように肌理が細かい。
 良顕に知識が有れば、その裸身をアテネに準(なぞら)えて、賞賛したかも知れない程の美しさを持っていた。

 良顕は女の表情で迫り寄る、魔夜と魅夜にたじろぎながら
「ま、待て…。まだ、結論は出してない…」
 絡み付かれると
「うふふっ…。ご主人様…、お好きな時にお使い下さい…」
「私達は、いつでも捧げます。さぁ、暫し私達の学んだ成果をお試し下さい…」
 2人の言葉に押し切られながら、倒され衣服を剥ぎ取られて行く。
いつの間にか加わったアリスが
「あふ〜〜〜っ…凄いの…鍛え上げられた…身体…。鋼の肉体ってこういうのを言うのね…。日本人は
ペニスも硬いけど…鍛え上げた身体も堪らないわ…。この肌の滑らかさ…、女の私でも嫉妬しますわ…」
 アリスはうっとりとした表情で、良顕の胸板を撫で回す。
「お、おい! 何してるんだ。アリス、止めろ!」
 良顕がアリスの肩に手をかけると、アリスのメイド服が、ハラリと脱げ落ち白人特有の眩い肌が現れた。
 量感の有る柔らかな乳房の頂には、ピンクの乳首が存在を主張し、いきり立っている。
「あ〜っ…、ご主人様…何なりと、おなぶり下さい。アリスの身体は、ご主人様の玩具です。握り潰すも、打ち据えるも、ご自由にお使い下さい」
 アリスは、興奮した顔で良顕に懇願した。

 だが、良顕の雰囲気が突然変わり
「もう、茶番は終わりだ。魔夜と魅夜の狙いは判った。その気持ちも行動原理も理解は出来るし、言葉に嘘偽りも無い。他の奴隷達は、大層な意志は持ち合わせていない。後はアリス…、お前だけだ」
 良顕は低く静かな声で、アリスに問い掛ける。
「わ、私はただの奴隷です…。ご主人様にお仕えする事を望む、ただの奴隷です」
 顔を引きつらせて、誤魔化そうとした。
「本当にそれで良いのか? その答えが、お前の最終解答と受け取って良いんだな?」
 良顕が静かに問い掛けると、アリスは下唇を噛み締め
「私は…、奴隷じゃ有りません…」
 小さく呟いた。
 良顕は、肯くとボソボソと呟き始めるアリスの言葉に、耳を傾ける。

 全ての事を話し終えると、アリスは心細げに良顕を上目遣いに見詰める。
 良顕は、アリスの告白を呆れ顔で聞き
「乙葉、今の話どこまで確認取れてる?」
 良顕の問い掛けに
「はい、ご主人様。性癖云々は、確認が取れませんでしたが、経歴の話は8割符合しています。まさか、敵対組織の者と関係してたなんて、想像外でした」
 アリスを調べて居た乙葉が、驚きを隠せずに答える。
「それに付いては、思わぬ所で確認が取れた。まさか、本人同士も会うとは、思って無かったろう」
 良顕は、一也の慌て振りを思い出しクスリと笑った。

 乙葉の報告を聞いて、アリスは呆気に取られた顔で聞いていたが、直ぐに不敵な笑いを浮かべ
「へぇ〜っ…、あれを探せたんだ…。まあ、辿り着ける道は作ってたけど中々やるわね…、ここのPCが壊れていないところを見ると、正着したんでしょ?」
 乙葉のハッキング能力を褒める。
「ご主人様…。私は、ご主人様を欺こうとした、この女を好きには成れません。ですが、能力は恐ろしい物を持って居ます」
 乙葉は、真剣な表情でアリスを評価した。
 良顕は、乙葉の言葉に頷き
「で、どうするんだ? 俺は、お前の能力は高く評価してる。だが、裏切る可能性を無視出来る程、俺は優しい世界で生きていない。それを踏まえて答えろ。お前はどうしたい?」
 良顕の問い掛けに、アリスの顔が困惑を浮かべる。

「う〜ん…。今の話の方向だと、[騙してた私を受け入れる]みたいに聞こえたんだけど…?」
 良顕におそるおそる聞き返す。
 良顕は、ゆっくりと首を縦に振り
「そう言ったつもりだから、そう聞こえて当然だ」
 アリスにハッキリと答えた。
 アリスは、力無く項垂れて
「私は、騙してたのよ…」
 小声で呟くと
「いや、正確には[隠してた]だ」
 良顕は、直ぐにアリスの言葉を訂正し
「お前の事情があって、それが必要だったんだ。それについて、俺はとやかく言うつもりは無いが、今後は認めない」
 自分の考えを伝える。

 俯いたアリスの肩が震え
「私は、あなたの嫌いな[プレーヤー]よ?」
「俺が嫌いなのは、[鬼畜]だ」
「私のやった事が、本部にバレたら、厄介な事に成るわよ」
「俺の存在自体が、あいつ等には厄介事だ」
「それに私は、変な性癖を持ってるし…」
「それも、人それぞれだ。うちにはマゾの女王様が2人も居るし、バイセクシャルのオカマも居る。サディストのまま、服従するヤクザも居るぞ」
 次々と自分の抱える問題を呟き、悉(ことごと)くを良顕に蹴散らされる。

 アリスは身体の奥から込み上げる感覚で、全身が紅潮した。
(あっ…あ、あぁ〜…。従いたい…この方に…心から服従したい…。でも…、どうして…)
 良顕が何故、アリスに対してそこまで、譲歩し受け入れようとしているのか解らず、踏ん切りが付かなかった。
「どうして、そこまで私を…」
 自分の疑問をぶつけようとした時
「天童寺さんが、お前を推薦したからだ。行為は共感出来ないが、あの人の筋の通し方は、漢として信頼するに価する。その人が[頼れ]と言った人間を俺は軽視するつもりは無い。理由はそう言う所だ」
 良顕が自分の思いを吐露し、アリスに伝える。
 良顕の言葉を聞いて、アリスの感情が爆発した。
「あうぅ〜〜〜っ! 隠しません! 騙しません! 出しゃばりません! ですから、どうか…奴隷の端に加えて下さい! 私の全てをご自由にお使い下さい! お願いしますご主人様!」
 アリスは20年仕えた天童寺を認め、信頼すら示す良顕の度量に、心からの服従を差し出す。
[ゲーム]の勝利による事後処理を全て終わらせ、良顕は自分の足場をしっかりと固めた。

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