狂牙
MIN:作

■ 第6章 狂った牙25

 全一の合図を受けた、霧崎の左手が蠢くと
『ぐひぃ!』
 秋美の顔が跳ね上がり、オ○ンコから、ボトボトと血が滴り落ちた。
『子宮を裂いたよ。ゲームスタートね。この出血量だと、20分で雑巾女は、失血死しま〜す。体力が落ちてるから、それ以前にショック死するかもね〜』
 全一が告げると同時に、涼子の前のガラスが開き
「ぎひぃーーーっ」
 悲鳴を上げながら、スルスルと異様に滑らかな動きで、良顕に近付く。
 驚く良顕に、涼子が鋭いローキックを放つ。
 涼子の放ったローキックは、間違い無く熟練者の蹴りで、凌辱生活を送っていた涼子の物とは、思えなかった。
 良顕は余りの鋭さに、咄嗟に身をかわして、蹴りを避ける。
 涼子の足が良顕の居た空間を駆け抜けると、涼子の太股と足の付け根から[ミチィ、ブチ、ブチ]と嫌な音が響き[がひぃーっ]と悲鳴を上げ、歯を食いしばって涼子の顔が仰け反った。
 涼子の白い肌に赤い鬱血が広がる。
 本能の制御を越えた動きに、涼子の筋肉が持ちこたえられず、筋断裂を起こしたのだ。

 良顕の顔に、驚愕の表情が浮かぶと
『避けちゃダメだよ。ペナルティーね』
 全一が、拗ねたような口調で文句を言った。
 すると、香織を吊っているウインチに緑の明かりが灯り、目まぐるしくランダムに移動して、右上に設置されたウインチに停止する。
 緑の灯りが止まったウインチが、唸り始めると[ぎぃっ、ぎぃっ、あがががっ、ひぎゃーーーっ]香織が魂切る悲鳴を上げ、香織の右鎖骨に掛けられたフックが[バキン]と音を立てて鎖骨をへし折り、皮膚を引き裂いた。
 鎖骨の支えを失い、他の部分に不規則な荷重が掛かり、新たな痛みを受ける。
 良顕はこの時点で、全一の狂気の遊びに気づく。
 全一は、涼子にあわよくば良顕を撲殺させようとしていた。

 20分の時間内に、良顕が殺され無ければ、秋美が失血死し、涼子の攻撃を避ければ、香織が責めを負う。
 香織の身体から伸びるワイヤーは、残すところ後10本。
 だが、唯一身体では無く、首に延びているワイヤーは、意味が全く違っている事を容易に推測できた。
 香織の首に掛けられている、細い鋼線ワイヤーは、香織の重量が掛かれば、香織の細首など、チーズのように切り裂く筈だ。
 良顕が打開策を考える中、涼子が間合いを詰めノーモーションの突きを打つ。
 [いぎぃーーーっ!]悲鳴を上げる涼子と、小刻みに震える筋肉の動きを見ながら、良顕は涼子の突きをいなす。
 普通、自分の意思で攻撃をしようとする場合、必ず予備動作が起きる。
 それは、体重の移動で有ったり、筋肉に力を溜めたりとする動作だ。
 だが、涼子の攻撃には一切その気配が無い。
 突然、手足が跳ねて、良顕に必殺の攻撃を打ち込んで来るのだ。

 涼子が悲鳴を上げながら、身体を泳がせ、筋肉が千切れる音をさせる。
『いなすのもダメダメ。ちゃんと受けなきゃ』
 全一が笑いを含んだ声で、良顕に注意すると、香織の左肋骨が四本毟り取られた。
 激痛に跳ね上がる香織の頭と、身を引き裂かれる悲鳴が良顕の心を苛む。
 更に支えが減って、香織の身体を吊るワイヤーの負荷が変わり、呼吸が細く早く成った。
 
 良顕の顔が、苦悩で歪むと
『良いね〜、その表情。じゃあ、もっと苦しませて上げるね。ほら、牛女レベルアップだ』
 全一がハシャぎながら、ゲームのコントローラーを操作する。
 涼子の苦痛に歪む顔が引きつり、大きく開いた目と口が、更なる激痛に晒された事を物語った。
『気付いてると思うけど、牛女の動きは、全部僕のコントローラーで操ってるんだ。格闘ゲームと同じで、コマンドを入力すると、牛女の筋肉に埋め込んだ端子に、コンピューターがインプットしたパターンで電気を流す。格闘技の達人と同じ動きをするように、全身の筋肉を電気ショックで操ってるんだよ。電流を落として無いから、筋収縮が凄いでしょ。動いただけで、筋肉や筋が切れてるもんね。上手く受けて衝撃を緩和しないと、全身の筋肉が千切れて、修復不能に成っちゃうよ』
 全一の説明を聞きながら、良顕は正面に立つ涼子の視線を受け止める。

 苦痛に歪む涼子の瞳に、深い悲しみが宿っていた。
「全一…。涼子に…、涼子達に何をした…」
 良顕の食いしばった歯の奥から、絞り出すような質問が漏れる。
『ん〜っ? 何んにも知らないで、虐め抜かれるのも可哀想だからさ、洗脳も記憶操作も元に戻して、全部教えて上げたんだよ。自分達が、何でこんな目に遭ってるのか、そんな身体に成ったのか、全部ね』
 全一の言葉で、涼子の目から苦痛以外の涙が流れ、唇が小さく動く。
 肺の筋肉が痙攣した居るため、声が出せないが、その唇は[あなた、もうころして]と確かに動き、自分の意思を良顕に告げる。

 その涼子の全身が、棒のように硬直し、細かい痙攣を起こしながら、狂ったように頭を振り乱す。
『こら、勝手に話しちゃ駄目だろう』
 全一は、コントローラーを操作して、涼子に電気ショックを与えた。
 涼子の目が反転し、口の端に泡が吹いている。
「止めろ!」
 良顕が鋭い声で叫んだ。
 良顕の声に、全一が電気ショックを止めると、涼子の全身から力が抜け、膝が折れ身体が床に投げ出され掛ける。
 安堵の表情を良顕が浮かべ、涼子を助けようと近付くと、全一がコントローラーを操作し、コマンドを打ち込んだ。
 すると、床に投げ出され掛けた不自然な姿勢から、真っ直ぐ右手が良顕に延びる。

 良顕は、反射的に避け掛けたが、胸板で涼子の突きを受け止めた。
 それは、有り得ない衝撃だった。
 受けた良顕の身体が、その姿のまま50cm程ズレて、そこで大きくバランスを崩す。
 目を見開いた良顕は、胸板を抑え思わず涼子を見詰めた。
 良顕は、涼子の攻撃に驚いたのでは無い。
 涼子の攻撃を受けた時、確かにその音を聞いたからだ。

 良顕の目に、顔を歪め悶絶する涼子の姿が目に入る。
 あまりの激痛に声すら上げられず、顔だけで苦痛を示し、ピタリと隙の無い構えを取る涼子の右手は、四指がひしゃげ、あらぬ方角を向いていた。
 当然と言えば、当然で有る。
 良顕の身体は、あの優駿の打撃に耐える術を心得ている。
 良顕はその術を反射的に使うレベルの為、涼子の打撃にも使ってしまったのだ。
 これが通常なら、涼子が感じたのは、ゴムタイヤを叩いた程度で済んだ筈だ。
 だが、全一の行っている、電気ショックは涼子の筋肉を100%使わせ、人間が無意識に掛ける、身体保護のブレーキを全て取り去った打撃を放たせた。
 結果、鍛えていない涼子の拳は、衝撃の反発力をまともに受け、粉々に砕けてしまった。

 良顕が後悔に歯噛みすると
『あらら、拳はチャンと握らないとね』
 全一が、おどけて言い、コントローラーを操作すると、涼子は左手で折れた右手の指を一本ずつ伸ばし、拳の形に握らせる。
 涼子の身体は、痛みの為全身に痙攣が走っていた。
 涼子の泣き顔が、良顕の視界でグニャグニャと揺れる。
 良顕は、自分が泣いている事にも気付かず、涼子の行動を見つめ続けた。
『終わらない…。終わらないんだよ。叶さん…、あんたが死なない限り、必ず一個しか残らない。後の二個は必ず壊れるんだ…』
 全一の冷ややかな言葉に
「俺が死ねば良いんだな! 俺が死ねば、涼子達を解放するんだな!」
 良顕が全一に問い掛ける。
『うん、あんたが死ねば、こいつ等は生き残る。それは、間違いないよ』
 良顕の問い掛けに、全一がハッキリと答えた。

 だが、良顕は全一の言葉の裏に直ぐに気づき
「違う![生き残る]じゃ無く[解放しろ]と言ったんだ! 生き残って、お前の玩具にさせる訳にはいかん!」
 良顕が指摘すると
『あら、バレてた? 解ったよ。誰か、然るべき者に預けるよ』
 全一が確約する。
 すると直ぐに由木が歩み出て
「今の言葉は、契約として正式に受理します。3人の身柄は、私が承ります」
 良顕と全一に宣言した。

 霧崎の顔が歪み
『出しゃばるな!』
 鋭い声で制止するが
「組織に居る以上、契約の重さは承知でしょう。私の担当プレイヤーの契約。私が見届ける以外の適任は考えられない」
 由木は、凛とした声で言い放った。
 完璧な理屈に、霧崎は抗弁出来なかったが、直ぐに何かを考え
『良いだろう、お前に預けよう』
 ニヤニヤと笑いながら、由木に告げる。

◆◆◆◆◆

 車を降りた魔夜と魅夜は、夜の闇に身を紛らせる。
 2人が徳田の所有するビルに近づくと、闇の奥から無言の男達が現れ、手に持った武器で襲い掛かって来た。
 魔夜がスッと前に出て、魅夜が一歩引く。
 2人の手が腰に伸び、それぞれ前と後ろに添えられると、素早い手の動きの後、闇を金属の反射が切り裂く。
 先頭に立った男の首が飛び、左右に展開しようとしていた、男達の頸椎が断ち割られた。
 魔夜の両手には、刀の柄が握られているが、刀身はそそり立って居ない。
 柄から伸びる銀光は、優雅なアールを描いて、地面に蟠って居る。
 魔夜が手にしているのは、[鞭刀]もしくは[帯刀]と呼ばれる武器で、文字通り柔軟な刀身を持つ[刀]であった。
 様々なタイプは有るが、魔夜の持つ物は1.5mの刀身を持つ一本刀で、厚さ0.01oで幅5pの物である。
 使用者の錬度にも因るが、変幻自在の太刀筋は不可避であり、限られた相性の武器以外、ほぼ必殺の武器である。

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